転生直後のポジション争い
あらすじ。
彼女のいない学生時代を思い出した俺はミンチになった。
完。
「あれ」
気が付くと俺は生きていた。見覚えのない森の中、着た覚えのない服を着て俺は地面に倒れていた。
すぐに夢かと思ったが、そもそも死んだのなら夢なんて見ないだろ。じゃあミンチが夢かとも思ったが、今が現実ならここはどこだ・・・?
立ち上がって辺りを見に行こうとしたが、まだフラフラとしていて上手く歩けない。そう思った俺の足元に手ごろな木の棒が落ちていた、いかにもどっかのゲームに出てきそうな、上がぐるぐるしてる杖だ。
「マジかよ・・・」
よくよく見ると来ていた服もいかにもそれっぽい感じがする。ナニとは言わないが、杖なんか持ったら完全にそれにしか見えない。
俺は杖で体を支えながら、方向も分からず少しずつ歩き出した。体調が戻ってきたのかなんなのか、徐々に杖に頼らずとも普通に歩けるようになってきた。
「木とかは本物っぽいし、本当にどこだここ・・・」
謎だらけの状況にブツブツ言いながら歩いて数分、近くからポチャンという水の音が聞こえてきた。以上にベタな展開だが、今の俺にとってはかなりの手がかり。
俺は音のする方に向かって歩を進めた。
「これは・・・湖だよな・・・・・・」
見渡す限り、と言うほど大きくはないが俺が辿り着いたのは湖だった。見た感じ川とかとつながってる様子もないし、水面に動物もいない。
何の音だったんだよ・・・いや、それより川ならまだ辿ってどうにかなったかもしれないのに湖ってのがなぁ・・・。
俺は足取りをかなり重くしたまま、とりあえず湖の周りを歩いた。
これが現実だとすれば森の中で独りぼっちとか死亡フラグでしかない、湖なら水はどうにかなるし食料になりそうな動物もそのうち来るだろ。
どこぞの狩りゲーで覚えた浅知恵をフル活用して適当に歩くと、またポチャンと言う音が聞こえた。
聞こえた方向をちゃんと確認した俺は、岸近くに一つだけあるデカい岩に目を向けた。まだ距離はあるけど、岩の周りだけ水面が揺れてる、つまり。
「何かいるな・・・」
俺は人がいる事を期待して駆けだそうとしたが、すぐに浅知恵by狩りゲーを思い出して踏みとどまった。
あれ、モンスターとかだったらどうしよ。
いや、普通に考えればあり得ない話だし人以外がいても動物だろと言うのが普通と思ったが、俺は自分の恰好を再確認して持っていた杖を構えた。
いかにもな人が使うような持ち方ではなく、バットよろしくぐるぐるの方を先にして完全な鈍器へと進化した杖。
「行くか・・・?」
俺は歩を進め鈍器を構えたまま、岩の裏にまで来た。
ポチャン、チャプ・・・チャプ。
鳴り響く恐怖の音
布の服とぐるぐる鈍器だけではあまりにも心細かったが、俺は勇気を振り絞って、ついに向こう側に目を向けた。
「って、あれ・・・」
なんもいない。あるのは揺れる水面だけ。
俺は大きく息を吐いて鈍器を杖に戻した。そうだよ、魚だよ。たまたまこの辺にエサっぽい何かが集まってたとかで、魚が水面揺らしてたんだな、多分。
胸のドキドキを鎮めながら、ゆっくりと岩の横に腰を下ろそうとした。
直後。
「動くな」
何から突っ込めばいいか分からない状況になった。
女の声が聞こえてすぐに俺の首元に冷たい感触があった。俺は片膝をついたまま上半身をのけぞらせるように押さえつけられていた。あ、背中なんか柔らかい。
まさかと思い首に触れるものを確認しようとしたが。
「動けば、掻っ切る」
答えは得た。
俺は俺でこの状況を頑張ろうと思う。
「まったく、久々の水浴びでくつろげると思えば・・・覗きにあうとはな」
「ち、違う! 俺は」
あらぬ疑いをかけられて焦った俺は、首筋に水が流れるような感触を感じ、すぐにおとなしくなった。
「動くなと言ったろう、無論、無視して私の裸体を目に焼き付けて死にたいと言うつもりなら止めはしないし、むしろ尊敬するが」
「本当に違うって、俺はここに来たばかりで、湖を見つけて何かが動いてたから見に来ただけで・・・」
「ここには来たばかり? ならばどこから来たか話せ、見たところキャスターのようだがどこの所属だ?」
出たよ、なんだよ、キャスターって。
所属って何の話? ここどこのド○クエ?
俺が返す言葉に迷っていると、水面が揺れ始めた。
今度こそ魚かと思ったが、水面が揺れるのと同じタイミングで周りの木や葉も少し揺れていた。
「あの、ここにいたのってあなただけですか?」
「馬鹿にされたものだな・・・私の裸体など眼中にないか・・・」
なんとなく冷たい何かが首にめり込む。
「いや! そうじゃなくて! なんかいろいろ揺れてませんか?!」
「揺れだと・・・・・・ッ!!」
俺も言葉に言葉を返すよりも早く首から冷たい感触がなくなり、すごい勢いで首根っこ引っ張られて森の方に突っ込んだ。
「ど、どうしたんで」
「静かにしろ、喋れば殺す」
言ったよこの人! 殺すって!
俺はリアルな死の予感を前に口を閉ざした。林に全身が隠れるような姿勢だが、女に腕の関節を取られて自由に動けない。
そんなことを思っていると、いきなり小刻みだった揺れが大きくなった。
水しぶきが飛び散り、周りの木々は折れるんじゃないかと言うくらいしなる。
なんだ、これ・・・飛行機でも飛んでるのか?
そんな俺の考えは数秒後いきなり消え去った。
「な!」
俺は驚きのあまり声を漏らし、合わせるように腕に激痛が走る。折れるって。
目の前、というより反対側の岸に降り立った生き物が一匹。
生き物なのか数え方合ってるのか色々と疑問はあるが、目の前のそれを何と呼ぶかは、予備知識も手伝って知っていた。
「ドラ・・・ゴン・・・・・・」
女にも聞こえないくらいの小さな声で言ったはずだが、やはり腕には激痛が迸る。若干イライラしてきた俺は女の方をチラ見した。
その形相は決死とすら思えるほど殺伐としたもので、とても女の浮かべる表情ではなかった。てか綺麗な人だな・・・。
俺はさっきの背中の感触を思い出し、少しポジションを直した。
そんな何も知らない俺の誰も知らなくていい行動の直後。
「gurrruuuuoooooooooooooooooooouuu!!!」
聞いたことの無い突然の大音量と衝撃。俺は耳を抑えることもできず、それ以前に身体ごと森の方に吹き飛んだ。
狩りゲーで聞いた数百倍の体感音量により、俺の意識は数秒は飛んだ。
「っぅう・・・」
目を覚ますと、顔面に柔らかい感触があった。
なんだ、やっぱり夢だったのか・・・嫌な夢だった。
そう思った俺はもう一度枕だと思った柔らかいものに顔をうずめる。
「んっ・・・」
え。
俺は枕ではないと勘付いたがその柔らかいものの中で顔を動かしてみた。
「ふっ・・・んんっ・・・んっ」
俺はこのまま死んでもいいかもと思ったが、刹那に目の前の柔らかボールの持ち主の事を考え、一瞬で顔を上げた。
幸い女は目を覚ましていない、気持ちよ、いや、危なかった。
とはいえ全裸の、それもかなりのプロポーションと美貌を誇る女を放置するわけにもいかないので、初期装備にごとく羽織っていたローブだかマントを女の身体のかぶせた。
俺はポジションを確認しつつ、状況を整理する。
痛いって感覚がある時点で夢じゃなさそうだし、それにあのドラゴン、あんなのがいるなんて話は日本だろうがどこだろうが聞いたことが無い。加えて女の言っていたキャスターとかいう単語。
俺は半ば何かを諦めながら、ありえない現実を真実として受け入れつつあった。
「マジで死んだかわからないけど、ここって・・・」
その時、なぜか俺は笑顔だった。
「異世界じゃんかよおおおおおおお!!!」
ところどころ、分かる人にしかわからないネタを挟みます。
ごめんなさい。