プロローグ的ミンチ
カリカリカリカリ・・・
俺は眠気を覚ますように目を擦りながら、書類にシャーペンを走らせる
今日は学生が二人も部屋を見に来てくれたおかげで、いつもより仕事が増えた。
「ふぅ・・・これで終わりっと」
学生に渡した見積もりのコピーを横目に、今月の未収確認を済ませた俺は大きく息を吐いた。
29歳、独身。
親父の知り合いのコネで大学を出てすぐに管理研修を受けて、才能があったのか同期の研修者よりもかなり早く現場に入って、ほんの数年前からマジで管理人の生活。
5部屋しかないアパートの管理人なんてアルバイトでも出来るような仕事だと思うかもしれないが、意外に忙しい。建物周りのゴミ拾いはもちろんの事、住人が規定違反してないかを確認したり、新規入居希望者と連絡を取り合って部屋を案内したり、どっかのガキにパンクさせられた自転車の修理をしたり、駅で足を滑らせ階段から転げ落ち病院に行ったりと、仕事は尽きない。
けどとりあえず今日はもう全部終わった。
「22時手前か・・・どっかで食って、コンビニで飲みもん買ってくか」
まだまだ寒い1月下旬、安物のチェスターコートを羽織ってさっさと管理人室を出た。
ついこの間パンク修理をしたばかりの自転車(中古で5000円)に乗った俺は、昼間見に来た学生のはしゃぎっぷりを思い出して、いつもより勢いよくペダルを踏み出した。アパートから家まで自転車で10分、このペースなら5分で着くな。
学生か・・・。
俺はそれなりに充実していた学生生活を思い出しながら、コート一枚じゃ防ぎきれない寒さに身を震わせ、ペダルを更に早く回す。アニメや漫画が好きだったからオタ系は言うに及ばず、エンタメ系の知識に強かった俺は友達には恵まれていた方だ。サークルもベタな漫研でイラストやらイベントやらを満喫したし、学祭も大食い直後にステージで踊りまくった親友に顔面ゲロぶちまけられた以外は楽しかった。
が。
「彼女出来なかったのは痛いよなぁ・・・アニメや漫画みてぇな恋もなかったし、どっかに一目惚れして俺についてきてくれる娘・・・いるわけねぇか現実に」
それこそ飛び出してきた部活終わりの学生をとっさに避けて、その先のツルツル氷でバランス崩して車体ごと道路に滑り出して、たまたま走ってきたトラックにミンチにされるくらいの確率だろ。
学生が飛び出してきた。
とっさに避けた俺は氷に突っ込んでバランス崩した。
車体ごと倒れこんだ俺はそのまま道路に滑り出し。
確信犯的に走ってきた予想よりでかいトラックに通過された。
つまりすでにミンチ。
俺は無自覚な意識の中で、無意識に思った。
「ぎりぎり、魔法使いにならなくてよかった」
30過ぎて童貞だと、魔法使いと呼ばれることがある。
しかし彼は、結果的に魔法使いとなる。
異世界転生後、チート手前のキャスターに。