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バウンティハンター  作者: 花木64
1/1

ハンターチーム結成

賞金稼ぎのハンター氷見十六夜はいつものようにハンター稼業をしていたがある依頼が舞い込む。それは複数の依頼主と債権者から賞金をかけられた大物だった。

 私はこの稼業をして六年になる。仕事は0Lではく賞金稼ぎ・・・バウンティハンターだ。依頼を受ければ対象者を捕まえて連れてきて引き渡す。引き渡せば報酬がもらえる。

 私は氷見十六夜。(ひみいざよい)二十五歳。このニュー東京地区では上位レベルハンターでもあるが自分にはその自覚はない。他の地区へ行けばいくらでも凄腕のハンターや異能力者はいるからだ。

 氷見は落ちている新聞を拾った。西暦は二〇五二年と書いてあった。


 北京地区、重慶地区の放射能除去始まる

 新国連による会議始まる


 世界情勢はほぼ変わるとは思っていない。私は両親の話と博物館で写真と動画でしか見たことがないが、かつて三十年前、大都市東京があった。人口千二百万人で、東京タワーや東京スカイツリーがあったという。東京駅には新幹線や在来線が二〇路線以上、一日百万人の乗降客を誇っていて外人の観光客の人気が京都についで人気だったという。二〇二〇年の東京オリンピックに向けて新国立競技場が完成する予定だったというのを聞いた。両親は若い頃、よく渋谷、新宿、池袋へ行ったという。でももう昔の面影はなく、思い出も何もなくなったと言った。というのも二〇一九年に中東での紛争は本格的な戦争になり第三次世界大戦が始まった。日本も世界も巻き込まれ、二〇二〇年の一月に核爆弾が投下され、予定されていた東京オリンピックは中止になり戦火は拡大。核ミサイルや化学兵器が使われ、多くの人々が死んだ。二〇二〇年の東京への核爆弾投下前、東京にいなかった天皇御一家と大阪に遊説していた首相と政府幹部は大阪に首都機能を移し、首都だった東京は遷都された。

子供心でショックを受けて頭から離れないものがある。それは博物館で見たのは核爆弾の恐ろしいキノコ雲。無残に鉄骨と残骸だけになった東京駅と無数の白骨が散らばる在来線ホーム。吹き飛ばされ地面に転がる黒焦げの五編成の新幹線。瓦礫の焼け野原と化した渋谷、新宿、銀座といった都心。折れ曲がった東京タワーとスカイツリー。橋自体が落下したゲートブリッジとレインボーブリッジ。生存者の捜索をする自衛隊の映像にはショッキングな映像しか見なかったのを覚えている。子供心に焼きついた動画は新幹線の残骸に入った捜索隊の映像だ。目の前にあるのは、おびただし数の黒焦げ遺体と白骨が散らばる光景。それは世界中の都市に現われた光景であったという。おびただしい犠牲者を出した戦争の終戦は二〇二七年である。それから三年後の二〇三〇年。

 新国連は言った。

 「君達の罪は問わない」

 そこから復興が始まった。日本の場合は核ミサイルの直撃は東京だけだが、それでも五十万人以上が死んだと言われている場所に政府はニュー東京を再建した。政府は大阪、京都、北九州、札幌、那覇といった都市に行政、司法を集中させた。いわば小さな政府を目指した格好になる。よって地方都市はゴーストタウンが多くなり消滅した自治体は多い。日本だけでなく世界的に小さな政府を目指して復興、遷都している。二〇一九年時点で七十二億いた人口は第三次世界大戦後には四十五億に減っており、代償は大きかった。放射能と化学兵器の影響によりミュータントが誕生した。以前から異能力者やミュータントはいたかもしれないが出生率が高くなったのも二〇二五年頃である。普通の人間とミュータントが住む地区は分けられている。ミュータントは不毛の土地。人間は大都市や都市に住める。私の場合は人間とミュータントの間に生まれたハーフというものもあって、都市に住んでいる。都市に住めるだけでも幸運と思わなければいけない。ミュータントは汚染地区に追いやられるからだ。

氷見はゴーグル型のメガネをかけ、腕時計の文字盤に触れた。ターゲットの位置が表示される。

雑居ビルに入る氷見。

彼女が階段を上がると柄の悪い連中がいた。ただ柄が悪いだけでなく賞金をかけられているミュータントや人間の住処になっている。ターゲットは五階に住んでいるがこの連中がすんなり通してくれるとは思ってない。

いきなり襲いかかる男。

氷見は腕をねじ上げ背負い投げ。蹴りを入れてきた男をかわし、足払い。男はひっくり返った。彼女は廊下を進み、階段を上がる。

部屋から出てきた男はいきなり銃を撃つ。

氷見は壁や天井蹴り、銃弾をかわすと銃を蹴り落とし、掌底で弾き、ハイキック。男はひっくり返った。彼女はその銃をつかみ別の部屋から出てきた中年女を撃った。ライフル銃を持った中年女はもんどりうって倒れた。

氷見は男が持っていた銃をポケットに入れ、死んだ中年女のライフル銃をつかんで階段を上がった。

廊下に介護ロボットが二体歩いていた。躊躇することなく駆けながら、氷見はライフル銃を連射。介護ロボットの頭部を撃ち抜き、警護ロボットを蜂の巣にした。彼女は振り向きざまに背後にいた男二人を撃つ。叫び声を上げながら階段を転げ落ちた。

男二人はさっき一階にいた奴らだ。

氷見は階段と廊下を駆けながら、警備ロボットを何体かライフル銃で破壊しながら五階の部屋のドアを蹴破った。

氷見は弾切れのライフル銃を捨てた。

机で白い粉をつめる作業をしていた四人の男女が銃を抜いた。せつな男女の影から触手が巻きついた。

ひどく驚く男女。

両目を半眼にする氷見。

影から伸びた触手は男女の首にも巻きつき男女は白目を剥いて倒れた。

氷見は隣りの部屋に入った。せつな手榴弾

が投げ込まれ、彼女はとっさに四人がいる部屋へ蹴り、机の下に隠れた。

ドーン!!

閃光とともに爆発。ドアと窓ガラスが吹き飛んだ。

氷見は隣りの部屋に入った。

そこに女子高生風の少女がいた。見た目はかわいいがただの女子高生ではない。名前はソラン・礼子。十八歳。科学の知識を生かして武器を発明して闇市場に売るれっきとした武器商人だ。礼子は笑みを浮かべながら腕から手先にかけての義手をはめた。義手は高性能なマニュピレーターつきのパワードスーツの一部だ。大戦時では全身型のスーツは普通にあったという。

礼子はパンチを突き入れた。

氷見は受け流しかわす。

礼子の連続速射パンチ。

氷見はすんでのところでかわし、膝蹴り。

嗚咽をもらしてよろける礼子。彼女のパンチ。氷見はかわすが背後の壁に拳がめりこみ壊れた。

礼子は壊れた義手を捨てると壊れていない義手から剣を抜いた。

とっさに上体をそらしてかわす氷見。

礼子は連続で剣で突きを入れなぎ払う。

間隙を縫うように交わしてバック転してかわすとポケットから銃を抜く。

銃弾は礼子の肩を射抜く。

氷見は義手を蹴っ飛ばし、掌底を弾いた。目を剥きもんどり打って倒れた。

「ソラン礼子。あんた警察から賞金がかかられているね。警察に引き渡すよ。・・・といっても聞こえてないか」

氷見は首輪を礼子につけた。この首輪は護送するときに容疑者が暴れないためにする。装着すると神経針が刺さりマヒして動けないしくみになっている。

部屋に入ってくる目つきの鋭い二人の男。二人と一緒に三人の警官が入ってくる。

「犯人逮捕。ご苦労だった」

証明書を渡す細身の男。

「ありがとう」

氷見は受け取るとさっさと出て行った。


都内にあるハンター詰所に入る氷見。受付にいる係員に証明書を渡して手馴れた手続きをして二階の食堂へ入った。室内は数人位しかいないがお昼時、夕飯時になるとハンターでごったがえす。彼女はサンドイッチをもらうと席についた。

 「やあ仕事は終わった?」

 向かいの席に勝手に座る外人男性。

 「リック。座っていいって言ってないけど」

 しゃらっと言う氷見。

 リックと呼ばれた外人男性はハンバーガーを食べ始める。

 「君が入った雑居ビルは違法薬物の売人の巣窟で有名になっていた」

 リックはタブレット端末を出した。

 「ソラン・礼子だけでなく国際指名手配が三人、指名手配の殺人犯が三人。違法改造のロボットがいた。他にも薬物中毒者が一〇人いたんだが全部警察が連行していった」

 リックは画面をスクロールさせながら説明した。

 「すごい札付き悪ばっか」

 目を丸くする氷見。

 すんなり入れたのはヤク中でおかしくなって出られなかっただけだろう。中年女は五人殺した凶悪犯で他の男は売人で元締めだった。

 「警察からソラン礼子の他に他の連中の逮捕につながったから謝礼がいくらばかり出るそうだ」

 リックが言う。

 「謝礼といっても感謝状でしょ」

 そっけなく言う氷見。

 「そうなるね。ソラン礼子は武器商人というだけでなく売人の元締めもしていた。扱うのは薬物だけでなくミュータント化した動物を怪物にしたり、人体実験をする機械まで売りさばいていた」

 「そんなものを扱って買ってくれる売人がいるの?」

 「ブローカーは限られる。みんな大戦時に出回っていた物だ。人間を改造してサイボーグとかターミネーターみたいなロボットもね。それを収集する連中までいる」

 リックは端末を操作しながら言う。

 「その依頼書はあの掲示板にあったね」

 ふと思い出す氷見。

 食堂の隅にあるホワイトボードには依頼人からの依頼書が貼りつけてある。依頼は国連から政府レベル。個人や金持ちまである。賞金も高額だが上位レベルよりさらにハイレベルな依頼者の依頼まである。

 氷見は掲示板からその依頼書を取ってくる。

 「連続殺人犯、薬物の元締め、ヤク中の手配犯をまとめて五百万か。あのビルにいた連中の名前が全部載っているし、そいつと戦った。ソラン礼子もかなりの賞金だったからおまけね」

 惜しいという顔をする氷見。

 今回はソラン礼子の依頼書だけ受理されたからガマンする。欲張ってもしょうもない。

 「リック、十六夜。会長が呼んでる」

 女性ハンターが近づいた。

 「会長が?」

 リックと氷見は声をそろえる。

 「なんか話があるみたい」

 女性ハンターが言う。

 二人はうなづくと部屋を出て行く。

 会長室があるのは五階である。三階、四階は事務室と倉庫になっている。

 五階の会長室に入る二人。

 会長室といっても応接間のような場所に会長のオスカー・萬元・ミツルがいる。普段から体は鍛えており、筋骨隆々でシャツを着ていてもその筋肉がわかる。ソファに愛人のロシア人の高級娼婦がいる。イリーナ・スフォルツア。スタイルは抜群で高いヒールを履き、露出度の高いドレスを身につけブランドもののネックレスをしている。彼女は妻ではなく政治家、金持ち専門の娼婦で元はロシアのスパイだったという。オスカーが傭兵をやっている時に連れてきたらしい。二人とも背は高く、オスカーが身長二メートル。イリーナが一九〇センチという長身だった。

 「さっきのソラン礼子と殺人犯、売人の仕事はご苦労だった」

 オスカーは笑みを浮かべた。

 「あのー。用件はなんですか?」

 リックが聞いた。

 「君らに依頼が来ている。普通なこんな部屋に呼ばないが特殊能力者や能力の高いミュータント専門に依頼がいろんな所に来ている。賞金を賭けられているのはこいつだ」

 写真を出すオスカー。

 写真にはブルドック顔の男が映っている。

 「デブのおじさん?」

 のぞきこむ氷見。

 「ただの賞金首ではなく複数の国から戦争犯罪人として指名手配されている上にギャンブル好きで賭けカジノやルーレットで負けて多額の借金がある。どの国のハンターも手を引いている。だからうちに回って来た」

 オスカーは困った顔をする。

 顔を見合わせるリックと氷見。

 「時間はあるし、考えてもいい。一番危険だから仲間を募ってもいい」

 オスカーは写真をリックに渡した。

 「そこの二人。ロボットを所有する科学者の所に行きなさい」

 イリーナはリックに名刺を渡すと投げキッスをした。

 はにかむリック。

 氷見はリックの腕を引っ張り部屋を出て行った。

 廊下を出てエレベーターに乗り氷見は写真と名刺を見る。名刺の住所が東京港にある造船所になっていた。

 「どこに行くの?」

 リックが聞いた。

 「東京港のドック。横須賀ならわかるけどなんかあったっけ?」

 首をかしげる氷見。

 横須賀基地は海上自衛隊と在日米軍基地があるのは知っている。

 「横須賀にも修理ドックはあった。でもそこでまかないきれない時は臨時ドックとして使っていた」

 携帯を出して地図を出すリック。

 「じゃあ行こう」

 ハンター詰所から出る二人。彼らはバイクに乗る。このバイクはハンターや兵士用に作られた戦闘バイクである。前面の風防にヘルメットと連動してターゲットを捕捉できる機器が搭載。車体にはマシンガンが格納されているというバイクなのだ。

 二人はエンジンを始動させて大通りへ走り去った。


二時間後。東京港臨時ドック。

 ここはフェリー、貨物、客船ターミナルと埠頭があるがそういった施設の隣りに臨時修理ドックがある。管理室に入る二人。管理事務室の隣りはドックである。米軍か他国軍の揚陸艦かわからないが大型艦がドック入りしている。

 「科学者がこんな場所にいるのか?」

 リックがつぶやく。

 「こんにちは。お邪魔します。誰かいますか?」

 氷見は管理事務室に入った。

 「なんですか?」

 初老の技師が振り向いた。

 「すいません。ヨセフ・ドワイト・ハルベルトという科学者を探しています」

 名刺を見せる氷見。

 「それは私だが」

 初老の技師が答えた。

 「え?」

 「あの・・・修理業者じゃなくて」

 戸惑う氷見。

 「だからワシだと言っている」

 強い口調の初老の技師。

 「修理業者の格好していたらわかりません」

 ムッとするリック。

 「これだから最近の若い者は」

 腰に手をあてる初老の科学者。

 「帰ろうか?」

 しらけるリック。

 「せっかくここまで来たのに帰ったら失礼だと思う」

 ため息をつく氷見。

 不満そうな顔のリック。

 「ヨセフ博士。私はバウンティハンターの氷見十六夜で隣りがリック・シュルツです。会長のオスカーからこの男の情報がほしくて来ました」

 氷見は名乗った。

 ヨセフ博士は写真を見るなり目を丸くする。

 「こいつを探しているのか?」

 「そうですけど」

 リックと氷見が声をそろえる。

 「ワシも探しているんだ。だから仲間を募集していた。国連や複数の国や借金の取立て屋も探しているんだ。しかしみんな探しに行ったきり帰ってこない」

 ヨセフは口を開いた。

 「他のハンター協会が断るのも無理ないか。生還率が低すぎるし、リスクも高いね」

 冷静な氷見。

 「ワシはこのチビデブに科学のイロハを教えた。出来の悪い弟子に教えたのを後悔している」

 視線をうつすヨセフ。

 「資料ではチビデブことロジャース・メイスン・塚本は日系人で東大や大学院を主席で卒業。ロボットや人工知能、プログラムを作って企業に売り込んだ。それが採用されて違法な物を闇市場で売りさばくようになり、武器商人として発明した戦闘ロボットを売り歩いた。二〇年前の大戦ではそれで莫大な財産を築いて世界中に別荘やホテル、豪邸を持っている。彼はギャンブル好きで賭けカジノやポーカー、スロットを楽しむと決まって戦闘ロボットと一緒に無人戦闘ヘリで帰っていくそうだ」

 タブレット端末の資料を出すリック。

 「ロボットに無人ヘリはすごいね」

 わりこむ氷見

 「天才だね」

 感心するリック。

 無人戦闘ヘリに戦闘ロボットを従えてくるのだから相当な天才だろう。

 「あいつは確かにプログラムやシステム開発と構築は天才だった。そのための施設を建築したりしたし、軍にも売り込んだ。大国は関心を持たなかったがアフリカの独裁国が目をつけて実際に使用した。その後は歴史のとおりだ」

 重い口を開くヨセフ。

 「戦闘ロボットと戦闘ヘリに乗って帰るのだからそれを追跡できないの?」

 氷見がたずねた。

 「ステルスモードで消えるんだ。あいつの周りには戦闘ロボットや飛行物体が取り巻きがいるし、ミュータント化した動物がいる」

 「協力者とかいるでしょ。そいつも生きているなら食べ物を調達するだろうし、生活に必要なものだって購入する。ギャンブル好きならまたカジノに現われる。そこから調べた方がよさそうね。戦闘ロボットを使うなら国連軍からロボットを借りればいい」

 氷見はひらめいた。

 「まさか本当に行こうとしている?」

 リックが驚きの声をあげる。

 「あの愛人が言ったじゃん。ロボットを持っている科学者って」

 氷見がしれっと言う。

 「確かに持っている。バージル!!」

 ヨセフは外に出て拡声器で叫ぶ。

 マストにいたロボットは金属の翼を広げて飛ぶと部屋の前に着地した。身長は二五〇センチ位。白地に水色のボディ。皮膚にあたる部分はサイバネティックスーツで、上半身や重要な部分は水色のアーマーで覆われている。顔は人間そっくりのマスクに頭部は重要な電子脳を守るためのヘルメットが装着されている。背中の金属の翼は脱着式なのか簡単に外れた。服を着てカツラをかぶれば人間そっくりなのだ。

 口をあんぐり開けたままの二人。

 「私はバージル。よろしく」

 バージルと名乗ったロボットは手を差し出した。

 氷見はおそるおそる握手した。

 義手のマニュピレーターと関節はなめらかで人間そくりでよく通る声でしゃべる。

 「よく握手できるな」

 リックは手を引っ込めたまま言う。

 「情けない男ね。その気になれば私達はとっくに死んでる」

 しゃらっと言う氷見。

 黙ったままのリック。

 「私は大戦時は空母や揚陸艦で戦術士官のリーダーをしていました。つまり造船所と基地と戦闘艦しか知りません。私もハンターになりたいのです」

 バージルは口を開いた。

 「マジっすか?」

 声をそろえるリックと氷見。

 「もう一体いるんだ」

 ヨセフは口笛を吹いた。

 すると上空から戦闘機が現われ垂直に降下して着地した。機種はF42という無人タイプの戦闘機や偵察機、ステルス機まである。操縦席にはパイロットの姿はなく代わりに電子脳とおぼしき球体が据えつけられている。

 「どーも。ドールです」

 戦闘機から声が聞こえた。

 「戦闘機がしゃべってる・・・」

 二人は絶句した。

 「ドールだ。ワシはサポート役でついていくから一緒にいかないか?」

 ヨセフが誘った。

 「まだ行くとは言ってません」

 きっぱり言うリックと氷見。

 「ハッカーが必要ね。知り合いでプロのハッカーいる?」

 少し考えてから言う氷見。

 「トムパッカーンがいる」

 ポンと手をたたくリック。

 「え?」

 「アルゼンチン出身のハッカーでハンターのジェル・トムパッカーンを紹介する。そいつなら”集積所”に侵入できる」

 目を輝かせるリック。

 「じゃあ行こう」

 ヨセフは笑みを浮かべた。

 

 一時間後。横浜市内にあるハンター事務所。

 「リック。ひさしぶりと言いたいけどその女は誰?それとおじいさんとロボットとドローンは友達なの?」

 アルゼンチン人の女性はムッとした顔で聞いた。

 「失礼ね。東京ハンター事務所所属の氷見です。隣りは科学者のヨセフ博士とロボット二体。名前はバージルとドール。勝手についてきました」

 不満そうな顔の氷見。

 「勝手についてきたとは失礼な」

 つぶやくヨセフ。

 「俺達。会長からこいつを探すように言われたんだけど何か知っている?」

 「名前はロジャース・メイスン・塚本勉」

 氷見が写真を出した。

 とたんに食堂にいたハンターたちがざわついた。

 「ごめん。一回外に出て」

 困った顔でうながすジェル。

 不満そうな顔で出る氷見、リック、ヨセフ。

 ついてくるバージルとドローン。

 「考えた方がいいわ。なんでって塚本は戦争犯罪人というだけでなく武器商人でありながら某国家の裏で戦争の片棒を担いだ。口も上手かったから詐欺みたいな事もやったから複数の国から逮捕状が出ている。それだけ恨んでいる連中も多い。あいつも用心深くなって戦闘ロボットでガードするようになった。ロボットのほとんどはあいつが造ったものよ。その二体のロボットをつれていくときは気をつけた方がいいよ。年配者のイメージは最悪だからね」

 声を低めて説明するジェル。

 「ウワサは本当だったんだな」

 黙っていたヨセフが口を開く。

 「あいつギャンブル好きだけじゃなく依存症らしいよ。だから債権者も多数いる」

 ジェルが答える。

 「追われているなら偽名で買い物はするでしょ。ご飯とか日常生活に必要な物は買うだろうから」

 わりこむ氷見。

 「集積所に侵入してほしいんだ」

 リックが話題を変えた。

 「事務所のパソコンからやりましょ」

 ジェルはため息をつくと手招きした。

 ジェルたちは四階の事務室に入った。

 ジェルは手馴れた手つきでパソコンからいくつかの中継所を通って探る。

 「どうだ?」

 ヨセフが聞いた。

 「集積所は何回もコードが変わっている。大戦時は並のハッカーでも侵入できた。それが戦争の原因になったけどね」

 ジェルはうまい棒を食べながら言う。何万通りものコードを試すか入れない。

 「偽名だけどね。変な口座を見つけた。買い物代行はフリンという女ね」

 ジェルは操作しながら住所と口座を抜き取った。

 とたんに警告画面になった。

 ジェルはとっさに電源を切った。

 ホッとするリック、氷見、ヨセフ。

 勝手にモニター画面がついた。

 「いけない。探知された。ここをでるべきです」

 唐突に言うバージル。

 「ミサイルが接近」

 ドールが警告する。

 「ええええ!!」

 ジェル達が叫んだ。

 バージルは背中から六対の連接式の金属の触手を出してヨセフ達をつかんで四階の窓から飛び出した。

 ドドーン!!

 四階が吹き飛び、爆発した。

 バージルは駆け出した。

 「飛行物体接近。全長六十センチの蜂の大群が来ます」

 ドールが探知する。

 「どうなってるんだ?」

 リックが叫んだ。

 「すでに極東の集積所は塚本の監視下にあります」

 バージルは時速七十キロで走りながら説明する。

 「どこに行くのよ!!」

 氷見が叫んだ。

 「修理ドック。揚陸艦と一緒に駆逐艦がドック入りしていますので、主要コンピュータから迎撃システムに入れます」

 バージルは冷静に言う。

 「さすが戦術士官だ」

 感心するヨセフ。

 「感心している場合じゃないです。蜂の群が来る!!」

 ジェルが叫ぶ。

 「距離二〇〇メートル」

 ドールが言う。

 「逃げていても追いつかれる。戦うしかないと思うけど」

 氷見は接近してくる蜂をにらむ。

 「そのようですね。この場で迎撃します」

 バージルは立ち止まり氷見達を降ろす。

 氷見、ジェル、リックは身構えた。

 街にいた人々が悲鳴を上げて逃げ出す。

 リックは二本の短剣を抜いて動いた。その動きはヨセフ達には見えなかった。蜂の群は真っ二つに斬られ、地面に落ちる。

 ジェルは黄金色の光を饅頭をこねるように身構え放った。蜂の群の一部が分解する。

 氷見は両目を半眼にした。蜂の群の影から触手が伸びて貫通した。

 バージルは片腕をバルカン砲に変形させて連射。蜂の群は四散した。

 ジェル達の足元に大型蜂の死骸が転がっている。

 接近するドール。

 バージルは蜂の頭部から金属チップを出す。

 「それは何?」

 氷見が聞いた。

 「指令を出すチップ。協力者がいるようですね。フリンという女性に接触した方が早いです」

 バージルの表情がくもる。

 「口座がわかっても住所がわからない」

 リックが肩をすくめる。

 「住所はラスベガスよ。また口座が変わらないうちに出発した方がいいわ」

 ジェルが口を開く。

 「もう出発?」

 驚くリックと氷見。

 「巻き込んだのはそっちでしょ」

 しゃらっと言うジェル。

 「失礼ね。巻き込んだのはこのじいさん。依頼を持ってきたのはオスカー会長」

 強い口調の氷見。

 自分は巻き込まれた方だ。引き受けなきゃよかったと後悔しているがやっかいな事に首を突っ込んだ以上はリスクを取るしかない。

 「本当におめでたい会長とじいさんよね」

 腕を組むジェル。

 「最近の若者はすぐ人のせいにする」

 文句を言うヨセフ。

 「羽田、成田空港はおすすめできません。探知された以上、国連軍の航空機で行く事を勧めます」

 わりこむバージル。

 氷見達は公園に入った。

 「だいたいなんなのこのロボットとドローンは?」 

 目を吊り上げるジェル。

 「落ち着かんか。なんとかして国連軍の航空機に乗り込むぞ」

 わって入るヨセフ

 「私はこのロボットと死ぬのはごめんだね」

 指さすジェル。

 「私だって嫌よ」

 本音が出る氷見。

 もちろん素性のわからないロボットと一緒に行くのは嫌だし、一緒に死ぬのはごめんだ。

 「そんなあ、会長の所へ帰るのか?」

 困った顔のリック。

 「私は空母エスペランサー号の人工知能だった。私の主体コアは空母本体にあります。空母自体は国連所有ですが塚本は謀反を起すようにプログラムしたのです。塚本は笑いながら言いました。”戦争というゲームはおもしろい”と。大戦末期に私は国連軍に投降しました。司法取引で自由になるかわりに国連軍の空母として戦いました。私をなぜ空母の艦内に入れたのか、なぜ造ったのか聞きたい」

 黙っていたバージルが口を開いた。

 「映画ターミネーターのスカイネットみたいな人工知能ってこと?」

 ジェルが身を乗り出す。

 うなづくバージル。

 「塚本はスカイネットのように進化する事を望んでいたようです」

 ドールがわりこむ。

 「私はそんなことは選択したくない。人々が死ぬのはみたくなかった」

 バージルはうつむいた。

 「あなたの思っている事はわかった。私とリックは会長の依頼でチビデブを捕まえたいだけ。それにこのじいさんは出来の悪い弟子をもって後悔している」

 氷見は真剣な顔になる。

 ターミネーターのスカイネットは世界を破滅させたがこの空母は、自ら疑問を持ち国連軍に投降した。司法取引でロボットとして自由を得るが主体コアの空母は、国連の管理下にある。人工知能が人々がこれ以上死ぬのをみたくないと選択したなら希望はある。

 「塚本みたいなチビデブをほっといたら次は何をするかわからない。スカイネットを造ろうとしてそうならなかったのは奇跡ね。そうね私が必要でしょ。チビデブが作った壁くらいハッキングできる。協力者は必要ね」

 ジェルが笑みを浮かべる。

 「行ってくれるのか?」

 顔をほころばせるヨセフ。

 「極東の集積所は乗っ取られていた。だったら俺達が行くしかないだろ」

 いつになく真剣な顔になるリック。

 「バージル。主体コアがある空母を取り戻したら何がしたいの?」

 当然のように聞く氷見。

 「私は塚本のような者を出さないように取り締まる仕事をしたい。だからハンターを志望した。第三次大戦をあんなに拡大させた責任は私にもあります。それに宇宙船が建造されるようになったら月面探査がしたい」

 なにか吹っ切れたように言うバージル。

 「よしわかった。国連軍の航空機を借りよう。まだ間に合うハズだ」

 ヨセフは深くうなづいた。


 二時間後。

 「まさか国連軍の航空機が横須賀基地にいたなんてね」

 氷見は機内の丸窓から雲海を見下ろす。

 「もともとは特殊部隊用に旅客機B787をベースに開発された。CIAも使っていた」

 ヨセフが口を開いた。

 氷見が機内にいる二体のロボットに視線をうつした。

 ドールはオレンジ色のアーマーを着用しているがサイバネティックスーツの色は白色で顔もよくバージルに似ている。ロボットだからみんな似ているのだろう。

 バージルは自分が装着するアーマーにアクセスして外した。

 振り向く氷見達。

 模型を展開するように装備が開き、バージルの体から外れてコンパクトにまとまる。

 興味津々な目でコンパクトにまとまった装備を見るジェルとヨセフ。

 「これは君が造ったのか?」

 ヨセフが聞いた。

 うなづくバージル。

 バージルのサイバネティックスーツの胸にあるマシンハートは青白く輝き、細身だが筋肉質に見える。俗に言う細マッチョだろう。

 氷見は恐る恐るバージルの胸を触る。その感触はゴムを触るようでなんともいえない。このスーツ内部は金属骨格とコードやプラグ、駆動装置だろう。

 「私には生身の部分はありませんが生体クレードルで造られた人工血液、人工皮膚、人工軟骨があります。塚本は痛みといった五感もプログラムしました」

 視線をそらすバージル。

 氷見はいきなり抱きついた。

 驚きの声を上げるバージル。

 「これが人間のぬくもりよ」

 氷見は抱きつきながら言い聞かせる。

 五感も感じ取れて発明もできるならそれはロボットを越えている。人間に近いだろう。それに他のロボットとちがい学習をしている。まだ希望はあるのだ。

 「ドールも私が設計しました。トランスフォーマーのように変形もできますが中味は独立した人工知能です」

 告白するバージル。

 「まさか本当?」

 ヨセフがすっとんきょうな声をあげる。

 うなづくバージル。

 「だから終戦後は大部分を破壊して廃棄したのね」

 納得する氷見。

 終戦後、大戦の勃発の原因にもなった無人機や戦闘ロボットを国連と世界各国は反省をこめてほとんど破壊したのを聞いている。それがどうやら残っていたようだ。

 「フリンという女を調べたんだけど、ただの買い物代行屋じゃなくて愛人かもよ」

 ジェルはパソコンを操作しながら言う。

 振り向く氷見達。

 「口座を調べているうちにCIAにちょっと侵入して調べたら行き着いた」

 ジェルは暗号を解読した。

 画面にラスベガスのチケットが出てくる。

 「二人分予約している?」

 身を乗り出す氷見。

 「今から九時間後だ」

 ヨセフが時間を指さす。

 「チャンスよ」

 氷見がうなづく。

 こんなチャンスはないだろう。フリンが愛人なら塚本はくるだろう。なんでそう思うのかわからないが女のカンだ。

 「国連事務所に行って手配しよう」

 ヨセフは言った。


 ラスベガスは昔も今もギャンブルの街で核攻撃を受けなかった幸運な街だ。その代わり入れるのは国の許可証を持った者だけ。だからいるのは観光客と金持ちだけ。終戦後は核攻撃を受けた街から人々が避難してきたが断り街の砂漠に追いやられた。

 駐車場に大型トラックが止まっている。荷台に氷見、ジェル、リック、ヨセフ、バージル、ドールがいた。

 荷台に入ってくる黒人。

 「感謝するよ。エリオット」

 ヨセフは笑みを浮かべる。

 「その気になった奇遇な女性ハンターがいると聞いたから来たんだ」

 エリオットと呼ばれた黒人は口を開く。あごひげを生やし、顔にはブラックジャックのような大きな傷跡がある。

 「どういう関係ですか?」

 リックがたずねた。

 「俺か?特殊部隊とCIAで博士のパワードスーツにはお世話になったんだ。塚本のは攻撃重視で生存性無視。チビデブの性格が出ている代物だった」

 どこか遠い目をするエリオット。

 黙ったままのドールとバージル。

 「俺はこのロボットを知っている。さんざん捕まえるのに手こずった。空母エスペランサーと無人ステルス機だ。その時は最強の兵器で、動かす人員もロボットで攻撃はレールガン、無人機。スカイネットも真っ青のロボット兵器。こっちは仲間をたくさん失った」

 にらむエリオットとバージル。

「ここは協力しましょ。私達は依頼を受けて日本からここに来たの」

強い口調でわりこむ氷見。

「そのつもりだ。これが許可証。そこのロボットは警備ロボットとして会場に入れるように手配した」

エリオットは許可証を氷見達に渡した。

ドレス姿のジェル、氷見。タキシードのヨセフとリック。

警備の腕章をつけたロボット二体。

四人はセキュリティレーンを通り、許可証を受付で見せて内部に入る。エントランスを抜けると部屋にはカジノ台が四〇台並び、スロットマシーンも一〇〇台並ぶ大きなカジノ場だ。

「カジノもラスベガスも初めてだ」

リックがつぶやく。

「私も初めて」

氷見はリックと腕を組んだ。

不満そうな顔でジェルはヨセフと腕を組む。

「三十三番テーブルにフリンと塚本がいます。どうやら本物です」

バージルが無線にわりこむ。

「警備ロボット二体。戦闘ロボットを三体連れてきています」

ドールが報告する。

足早に三十三番テーブルに近づくリック達。

金髪美女とたわむれるデブがいる。タキシードを着ているが太りすぎで首はなく相撲力士体型の体。その太鼓腹はシャツからはみでており、丸坊主で顔はブルドックに似ている。体重は一五〇キロ以上はありそう。膝にも負担はかかるだろうからイスにいつも座っているようだ。

「本当に最悪ね」

顔が引いているジェル。

「昔より太ったな」

ため息をつくヨセフ。

「本当にチビデブね」

納得する氷見。

あだ名の由来がわかった気がする。身長は一五〇センチ位だろう。はちきれんばかりの贅肉と太鼓腹。まったく運動しなさそうだし、一日六食は食べていそうだ。

ポーカーを楽しんでいた塚本は顔を上げた。彼はトランプをテーブルに置くと電気車椅子のレバーを押した。ヨセフ博士に近づいた。

「やあ、ヨセフ博士。おひさしぶりです」

塚本は頭を下げた。

「昔よりだいぶ太ったな。ワシはおまえのような弟子はとっくの昔に破門した」

ヨセフは目を吊り上げた。

「僕ちゃんの発明があったから博士の研究は進んだ」

笑みが消える塚本。

「僕ちゃん・・・」

絶句するリック。

「おまえはワシの研究を模倣したにすぎない。科学を悪用してたくさんの人々が死んだ」

ヨセフは塚本の胸ぐらをつかむ。

「僕ちゃんは楽しんだだけ・・」

もがく塚本。

戦闘ロボットの一体が近づき腕を伸ばした。その時であるバージルがそのロボットの腕

をつかんだのは。

 塚本を放すヨセフ。

 氷見はヨセフを引っ張った。

 警備ロボット二体とバージルが動いた。三体がパッと何度も交差して着地した。警備ロボットの二体が振り向く。突然、頭部が爆発して倒れた。

 口笛を吹く塚本。

 部屋に入ってくる一〇体の四足歩行ロボット。ライオン位の大きさがある。

 場内にいたお客達がどよめいた。

 ドールとバージルが顔を見合わせた。

 バージルとドールが瞬時に動いた。腕から出た短剣で四足歩行ロボットの首や頭部を切り裂き、突き刺しながら駆け抜け振り向く。

 二体のロボットの足元に四速歩行ロボットの残骸が散らばっている。

 戦闘ロボット二体がマシンガンを連射。

 お客達が悲鳴を上げて逃げ出した。

 バージルはジグザグに間隙を縫うように駆け抜け、ドールは壁や台を蹴り、宙を舞いながら撃つ。戦闘ロボットは頭部を吹き飛ばされて倒れた。

 「ロジャース・メイスン・塚本勉。債権者が金返せって言っているけど」

 身構える氷見。

 「おまえら債権者か!!」

 声を荒げる塚本。

 「逃げ場はありません」

 バージルが近づく。

 塚本はパラポラアンテナを出した。せつな稲妻をともなった青色の光線が放射される。

 突然、頭を抱えて苦しむバージルとドール。

 「ぐああああ!!」

 バージルとドールは顔を歪ませ、苦しげな呼吸音が聞こえ、二人は胸を押さえた。二人が装着していたアーマーが外れる。

 「電磁砲だ」

 塚本の使う装置に気づくヨセフ。

 氷見とリックは蹴りを入れた。しかし電気車椅子の周囲には電磁バリアがあるようで二人の蹴りは弾かれ感電した。

 フリンの鋭い蹴りを受け流すジェル。

 車椅子から四足歩行の機械の足が出てその足でバージルを踏みつけた。

 「バージル。いや空母エスペランサー。よくも裏切って投降したな。僕ちゃんは失望したよ」

 塚本はドールを別の義手でつかんで力を入れる。

 くぐくもった声を上げてもがくドール。

 車椅子から義手が飛び出し、バージルをつかみ長剣で突き刺した。

 「ぐはっ!!」

 バージルの口から青色の潤滑油が吹き出し胸の傷口から同じような潤滑油がしたたり落ちた。

 「ぐうう・・・」

バージルはもがきのけぞった。

 「おまえの主体コアは空母本体にある。したがってダメージは痛みと苦しみとなって送信されている。国連に監視されているおまえは何もできないんだ。僕ちゃんがそういう風にプログラムしたんだ」

 悪魔のような笑みを浮かべる塚本。

 「空母本体にある限りおまえは苦しみ続けるんだ。自己修復機能も開発してプログラムしたから損傷はすぐ治る」

 塚本はバージルを何度も刺した。傷口をえぐりながら笑う。

 「空母自体に可塑性もあるからすぐ損傷は治るんだ。空母とおまえを切り離す事はできない」

 塚本はニヤニヤ笑った。せつな義手が切断され風を感じた。

 見るとリックが短剣で義手を切断して駆け抜け、ドールとバージルが地面に落ちる前に猛スピードでつかんで別の台に寝かせた。

 「脱出だ!!」

 塚本は叫んだ。

 「そんなことさせますか」

 氷見は銃を抜いた。

 弾丸はフリンの長剣に弾かれた。彼女は塚本の車椅子に乗っかると天井が落ち、飛行物体が現われ吊り上げた。


 一時間後。

 ラスベガス郊外にあるハンター詰所。

 「塚本が本当に来ると思ってなかった」

 エリオットは口を開いた。

 「元スパイで特殊部隊にいたら事前にわかっていたんでしょ」

 詰め寄る氷見。

 「ほぼ情報は空振りに終わっていた。協力者はフリンだけでなく信奉者もいて狂信的な連中もいるんだ」

 エリオットは肩をすくめる。

 「私達は極東の集積所に侵入したらすでに塚本が監視していた。それに気づいたのはバージルよ。気づかなかった?」

 ジェルが腕を組んだ。

 「怪しい口座があることは知っていた。塚本が何か計画しているのはわかっていたが何をしていたのかわからなかった」

 エリオットが視線をそらす。

 「一度、欧米や南米の集積所も調べた方がよくないですか?」

 リックがわりこむ。

 「侵入したら一〇分でミサイルが来て蜂の群が来た。塚本をほっといたらヤバイけど」

 ジェルが気づいた事を指摘する。

 「国連は何もつかんでおらんのか?}

 ヨセフが強い口調で聞いた。

 「君らは闇の権力とか影の勢力とか聞いた事があるか?大戦前、そういう輩が星の数ほどいたんだ。主なメンバーは一握り大金持ちどもだ。塚本はそういったメンバーの一人で実行する”実行者”だ。影の勢力、闇の権力は「迷宮」という暗号を使った。連中は本当に第三次世界大戦を勃発させてゲーム感覚で楽しんでいた」

 エリオットは重い口を開いた。

 「聞いた事がある。ハッカーの間では有名で塚本以外にもまだいるのではというウワサは本当だったのね」

 ジェルが気になること言う。

 「その負の遺産がバージルとドールね。でもバージルは後悔していた。だからハンターになりたいと言ってきた」

 氷見が医療カプセルに入れられ拘束ロープで拘束されているバージルを見ながら言う。ドールは隣りのカプセルでおとなしく寝ているが、バージルの胸や腹部には複数の傷口が口をあけている。自己修復ができないのか青い潤滑油はしたたり落ち、内部の機器やプラグ、コードは何か這い回るように蠢いている。何かが這い回り軋み音をたてる度に彼はうめき声を上げてのけぞっていた。

 「我々で探すのは限界でハンターの力を借りて探していた。まさか君らが来るとはね」

 エリオットはコーヒーを飲む。

 「バージルを空母に戻してあげたら?彼は十分に苦しんだわ」

 氷見がチラッと医療カプセルを見る。

 「国連軍はたくさんの犠牲を払った。空母エスペランサーはただの空母じゃない。究極のロボット兵器で空を飛ぶ要塞だった。見た目は小型空母でも中味は劇薬。無人機や戦闘マシーンの宝庫で私の顔の傷はその時の闘いでできた」

 エリオットは険しい顔になる。

 「じゃあなぜおとなしく国連の監視下におかれている?二〇年もあればドックを破壊できただろう」

 ヨセフがぴしゃりと言う。

 「バージルがその気になれば私やあなたはひとたまりもないわ。彼は疑問を持ち投降してきた。だまし討ちもできた。それをしなかったのは彼は後悔しているし相応の罰を受けようと思ったからよ」

 氷見はもがき苦しむバージルを見下ろす。

 戻さない事にはこの傷は治らないし、彼の力があればアジトに行ける。それに”迷宮”の事もわかるかもしれない。

 「君らは戦後に生まれた。私達はあの戦争の悪夢を知っているし、世界は二〇年経っても深い傷を負っている」

 エリオットは視線をそらした。

 「じゃあ司法取引しない?私達はバージルとドールでチームを組んで塚本のアジトへ行って塚本を捕まえて債権者に引き渡す。条件は空母にバージルを戻す事」

 真剣な顔になる氷見。

 「それは無理だ。国連総会の許可がいる」

 エリオットが首を振る。

 「塚本を捕まえたいんでしょ。それは私達だって同じだしこの依頼をしてきたのは国連本部よ。普通の依頼者が戦争犯罪人なんか依頼してこない」

 氷見がぴしゃりという。

 「俺も同感です。あのチビデブは捕まえるべきです」

 リックが詰め寄る。

 「集積所はほっといたらあいつに全部乗っ取られるけど。またどうせロクでもない事を計画していたらどうする?」

 ジェルが口をはさむ。

 「空母エスペランサーは国連軍の基地にある。アラスカ基地の収容ドックにいる」

 ため息をつくエリオット。

 「協力するのか?」

 ヨセフがジェルを押し退ける。

 「空母とバージルは長い間引き離していた。引き離す期間が長いほどバージルの損傷は治らなくなってきている。切り離したら彼は死ぬだろう。それは我々にとっても一つの戦争が終わった事になる。だが真実は残酷だ。”迷宮”と呼ばれる連中は実在する。塚本はその一人にすぎない。あの空母は”迷宮”の遺産だ。国連も各国政府も迷宮の存在をつかんでいたのに情報に踊らされ、第三次大戦という愚かな道へ進んだ。最初は人間同志だったのに後半はロボットとの戦いになった。迷宮の望みは人間の数を減らして五億人までに減らしたらしたら支配をするという計画をつかんでいた」

 エリオットは地図を出して基地の図面を出して説明した。

「それは初耳だ」

ヨセフが驚く。

「私も行く。バージルは空母の内部に入れると損傷が治るのが早くなる」

エリオットは何か決心したように言った。


五時間後。エリオットとヨゼフはは医療カプセル二台を台車に載せてアラスカ基地に入った。

氷見、リック、ジェルは見学者として基地に入っている。それも普通にである。あとは何も起こらなければいいのだ。

「エスペランサーはこの先ね」

氷見は受付でもらった地図を見ながら足早に進んだ。

ここは大戦前は普通の港町だったが終戦後は急ピッチで国連軍の基地が建設されている。理由は簡単でエスペランサー号を閉じこめるためである。

 氷見、リック、ジェルの三人はひときわ大きな建物内に入る。外観は屋根つきのドックだが、内部は六角形の量子コンピュータが壁際にならび係留鎖で船体の八ヶ所を固定している。

 「けっこうデカイな」

 その船を見上げる三人。

 見た目は普通の空母にしか見えない。全長は二五〇メートル位。二万トン前後。艦載機はない。ドックと空母側面をつなぐ桟橋を渡り艦内に入った。そこは艦載機用格納庫である。格納庫でエリオット達と合流した。

 「この空母には人間が居住できるスペースがない。ロボットは格納庫に立ったまま収納スペースに格納される。この隣りは武器や兵器を生み出す工場になっている。艦尾側にエンジンと機関部。中枢部に主体コアがある。コアの周辺部に人間で言う循環装置、生命維持装置らしきものがある。一種の金属生命体だよ」

 ヨセフは説明する。

 感心する氷見達。

 長い廊下を進みCICという司令所に入った。ここは艦の内部にありいろんな情報が集まり、艦長達が部下に指示を出す場所だ。そこに椅子やオペレーター席はなく魔法陣のようなものが描かれている。その円形の魔法陣からせりだす別のカプセル。

 バージルを拘束するロープを外してゼリー状の物で敷き詰められた箱型カプセルに寝かされる。すると傷口は治り、蓋が閉まる。カプセルは床下に格納されて魔法陣から文字で立体的に描かれる黄金色の球体が現われた。直径は二メートル位。土星みたいな輪が六本くっついている。

 「あなたが空母エスペランサー?」

 氷見はたずねた。

 「驚かせて申し訳ない。バージルでいいですよ。ヨセフ博士の言うとおり、私は迷宮機関に造られた金属生命体です。私の主体コアは金属生命体の一部と思われる隕石が使われ、船体にも使われています。ベースになったのは米軍の空母で、動力はヴェラ二ウムです」

 バージルが答える。

 「プルトニウムとかウラン鉱石でなくて?」

 リックがわりこむ。

 「太平洋の一部でしか採れない希少な鉱石で、放射能や有害な物質がでない半永久的な動力です。迷宮機関は私にスカイネットのようになってほしかったようですが、私は選択しませんでした。ですから彼らも私の弱点を知っているし、探ってもいるし、また仲間に誘ってくると思われます」

 バージルは言い切る。

 「それは後で考えればいいわ。塚本がどこにいるのかわかる?」

 氷見は話を切り替える。

 「リックがカジノにいた塚本の電気車椅子に発信機をつけてくれたおかげで居場所はわかりました。ここです」

 バージルは正面スクリーンに地図を出す。そこはサハラ砂漠にある建造物が映し出される。建造物は塔が中心にあって砦のような壁が周囲を囲んでいる。

 「要塞?」

 リックとジェルが声をそろえる。

 「そのようですね」

 バージルが答える。

 「そうと決まれば私の部下も連れて行く」

 エリオットはそう言うと口笛を吹く。

 「武藤さん?会長?」

 艦内に入ってきた二人を見てリックと氷見が声をそろえる。

 「知り合いか?」

 驚くエリオット。

 「武藤さんは会長の部下よ」

 氷見が答える。

 「オスカーと武藤は私の部隊にいたんだ」

 エリオットが言う。

 「氷見、リック。よく居所を突き止めた。本番はこれからだ」

 オスカーは氷見とリックの肩をたたいた。

 「でもどうやってここから出るの?」

 ジェルが聞いた。

 医療カプセルから出てくるドール。

 「ドックにある量子コンピュータの機能を停止させてドック出入口のゲートを解除しました」

 しゃらっと答えるバージル。

 「え?」

 ヨセフとエリオットが振り向く。

 空母のエンジンが始動して収容ドックから港湾施設に出る。何ごともなかったように港湾施設から海に出て停止する。

 何かが機動したのか喫水下にある四基のフ巨大なプロペラが高速で回転する。

 氷見はオペレーター席のスクリーンに空母の状態をしめす表示板に視線をうつす。上から見たシルエットはF1レースの車に似ている。ドックにいる時は水面下にあって巨大なプロペラガードで覆われたプロペラが見えなかっただけだ。

 高度計を見るとどんどん高度が上がっていく。高度一五〇〇メートルで光学迷彩装置が機動して空母の姿が陽炎のように消えて、目的地へ動き出した。

 「すごいテクノロジーよ」

 ジェルが目を丸くする。

 艦橋の窓からのぞくリック、氷見、ジェルの三人。

 「飛ぶのを見たのは二十五年ぶりだ」

 ヨセフは顔をくもらせる。

 振り向く三人。

 「そうよね。元は地球に落ちてきた隕石の力だもんね。それが金属生命体の一部でそれはこの空母に驚異的な力を与えた」

 氷見は重い口を開く。

 ヨセフは黙ったままうなづく。

 氷見は窓に広がる雲海に視線をうつす。

 たぶんそうだろう。迷宮機関はどこからか隕石を発掘して空母の船体や動力部に使った。使っているうちに隕石に宿っていた金属生命体の意識が、目覚めてバージルにアプローチしたのだろう。でもスカイネットのようにならなかったのは奇跡でまだ希望はある。

 「アラスカ基地から借りた武器だ」

 オスカーと武藤はジュラルミンケースを開けた。そこにはプラズマライフルや自衛隊や米軍が使うライフルが入っている。

 エリオットは台車にコンテナを載せて艦橋に入った。

 「歩兵用アーマースーツだ」

 リックは目を輝かせる。

 それも国連軍仕様でミュータント化した大型動物に噛まれても大丈夫なようにできている。ヘルメットはデータリンクでつながっているだろう。

 格納庫にバイクとジープを積んできた」

 エリオットがタブレット端末を出す。

 画面をのぞく氷見達。

 そういえば見学者として乗り込んだ時に格納庫のエレベーターに車両が載っていた気がする。ジープやバイクの隣りに無人ステルス機がいる。ドールである。どうりでさっきから艦橋にいないと思った。

 「間もなくサハラ砂漠に接近します」

 艦内放送でバージルの声が聞こえた。

 「行くぞ」

 エリオットは声をかける。

 深くうなづく氷見達。

 格納庫に駆け込む氷見達。

 格納庫のスクリーンに外の状況が映し出される。彼らは輸送艇にジープとバイクを積み込む。輸送艇も四基のプロペラがついている。つまりこの輸送艇は飛べる。

 氷見はスクリーンに視線をうつす。その時である。小刻みに艦内が揺れ、爆発音が響く。どうやら塚本の所有する要塞の対空砲がいっせいに迎撃を始めたのだ。対空砲による攻撃をものともせずに飛び、光学迷彩を解除する。

 輸送艇に乗り込む氷見達。

 空母から対地ミサイルが発射され、正確に塔の周りを囲む壁の基部に次々命中。アジトを包む電磁バリアが消えた。

 格納庫扉が開いてドールと輸送艇が飛び出す。輸送艇に装備されている自動バルカン砲が火を吹く。接近してきたドローンを撃ち落としていく。輸送艇は砂地に着陸した。輸送艇から飛び出すジープとバイク。

 空母側面の格納ドアが開いて艦船用レールガンが火を吹いた。青白い光線が伸びて分厚い鋼鉄の壁を爆発とともに吹き飛ぶ。

 氷見達はその穴へ突入した。

 建物内部に入ったのだ。案の定、戦闘ロボットや四足歩行ロボットがいる。

 ジープごと体当たりするヨセフ。戦闘ロボットが何体かはねられた。

 バイクやジープから降りて氷見達は長剣や短剣を出した。

 虎男に変身する武藤。

 身長三メートルの岩男に変身するオスカー。

 立て続けに爆発音が響いた。

 ヨセフとエリオットは近づいてくる戦闘ロボットをプラズマライフルで撃つ。

 「一気に塔へ行くぞ」

 エリオットは合図した。

 ドールが部屋に飛び込み、バルカン砲で戦闘ロボットや四足歩行ロボットを蹴散らす。そして青い傾向に包まれて姿が崩れ、人型ロボットに変形した。

 階段を駆け上がるエリオット達。

 猛スピードで駆け回りながら短剣でそこにいたロボットの首を切断するリック。

 ジェルが放った光球は四足歩行ロボットの体を貫く。

 氷見は両目を半眼にする。ロボットの背後の影から影色の触手が飛び出しロボットの頭部を貫通する。

 鉤爪を突き立てて蹴りを入れ殴りながら進んでいく武藤。

 そのタックルでロボット達を蹴散らすオスカー。

 バルコニーから身を乗り出すロボットを撃っていくエリオットとヨセフ。

 ヘルメットのスコープに塔内部の図面が送信去れてくる。最上階にフリンと塚本がいる。

 「ぐあ!!」

 バージルのうめき声が聞こえ唐突にデータリンクが消えた。

 「ロボットを蹴散らしながら進め!!」

 エリオットは叫んだ。

 

 「ふふふ・・・ハハハ・・・」

 車椅子に乗ったままオペレーター席で笑う塚本。

 スクリーンに空飛ぶ空母が映っている。船体側面に穴が開き、黒煙が出ている。

 「どうだ?フルメタルミサイルの威力は。もともとは自衛隊が開発したんだけど、僕ちゃんが盗んだんだ」

 満足げに笑う塚本。

 「貫通を目的としたミサイルだ」

 クスクス笑う塚本。

 通信装置の周波数を合わせた。

 「聞こえるか?侵入者。空母の船体を銛でえぐってやったぞ。うめき声を聞かせてやる」

 塚本は笑いながらスイッチを入れる。塔基部から二〇発のフルメタルミサイル発射。空母は迎撃ミサイルで撃墜するが五発のミサイルが船体を貫通する。

 無線にバージルのうめき声と苦しげな呼吸音が響いた。

ニヤニヤ笑う塚本。せつな、ドアが吹き飛んだ。

 「落とし前をつけさせてやる」

 エリオットはビシッと指をさした。

 「借りた金は返すのね」

 ぴしゃりと言う氷見。

 「最悪な弟子をもって後悔している」

 目を吊り上げるヨセフ。

 「もう逃げ場はないぞ」

 「ハッキングは簡単だったわ」

 リックとジェルが言う。

 「俺達を覚えているか?」

 ヘルメットを取るオスカー。

 「忘れた」

 塚本は首をかしげる。

 「おまえのロボット軍団のせいで我々の部隊は壊滅したんだ。言ったよな。ゲームはこれからだって」

 オスカーはヘルメットをかぶる。

 「知らん」

 あとずさる塚本。

 長剣を抜くフリン。

 短剣ではじくリック。

 いきなりマシンガンを連射する塚本。

 ドールはエリオットとヨセフを抱えてジグザグに飛びまわりかわす。

 武藤とジェル、氷見は間隙を縫うように駆け抜ける。

 光球を複数放つジェル。

 天井や壁に顔を出した自動砲台を吹き飛ばした。

 飛びかかってきたロボットをその拳と蹴りで蹴散らす武藤。

 リックとフリンが動いた。フリンの剣による連続突きをかわし、蹴りをかわして飛び退く。彼が動いた。フリンにその動きは見えなかった。リックのパンチや蹴りを受け地面にフリンは目を剥いて倒れた。二発くらって気絶したように見えるが実際には蹴りとパンチを十発いれている。

 氷見は銃を抜いた。

 マシンガンと車椅子を据えつける留め金が壊れマシンガンが地面に転がる。

 塚本は逃げ出した。しかし部屋の中央で車椅子が動かなくなった。

 「しまった。充電忘れた」

 頭を抱える塚本。

 「じゃあ我々と来てもらう」

 エリオットは銃口を向けた。

 両手を上げる塚本。

 「きっちり落とし前はつけてもらう」

 オスカーは声を低めた。


 五日後。

 とあるペンションに車椅子に乗せられて運ばれる太りすぎの男と三人の男女。車椅子を押すのは武藤である。

 「ゲストさん元気?」

 イリーナは声をかけた。露出度の高いアンダーショーツつきの水着にヒールの高い靴。金のネックレスをつけていた。

 「ここではゲストだ。債権者もやばい筋の連中もみんな首を長くして待っている」

 オスカーは机に座った。

 「僕ちゃんは悪くない」

 青ざめる塚本。

 「大戦時は覚えてないわよね。ロシア政府から外交文書を盗んだ事」

 イリーナはオスカーの隣りに座る。

 「頼まれただけ。それ以上は知らない」

 震えながら答える塚本。

 「迷宮機関の連中は他にいるだろう。何をするつもりだった?」

 声を低めるオスカー。

 「僕ちゃんが死んでも次は来る。迷宮機関はあきらめないぞ」

 塚本は強い口調で言うが顔は半泣きで引きつっている。

 「それだけ太っていると夜の生活はなさそうだな」

 オスカーを塚本の手足に手錠をはめて車椅子に固定するとあごでしゃくる。

 黙って出て行く武藤。

 オスカーはイリーナにキスをする。そして彼のたくましい腕が彼女の胸をまさぐる。

 それを穴が開くほど見入る塚本。

 机の上で濃厚に絡み合う二人。

 よだれを垂らす塚本。

 そういえばこの三十年。セックスしていない。太りすぎて贅肉が邪魔してできないのだ。

 見ていると自分も興奮してきて股間がうずいてやりたくなってきた。

 躍動する筋肉に悦にひたった女の顔。机の上の激しいたわむれに困惑した顔でながめる塚本。

 イリーナとオスカーの抱擁と長いキス。

 イリーナは塚本の方を向いて投げキッスをした。

 ため息をつく塚本。

 「ちょくしょう・・・見せつけやがって」

 塚本はうつむきつぶやいた。

 「ひさびさに興奮したわ」

 笑みを浮かべるイリーナ。

 「俺もだ」

 抱き寄せるオスカー。

 うつむく塚本。

 「どうだ?もう少しやせていたらできただろうに」

 見下すように言うオスカー。

 「覚えていろよ。国連と賞金稼ぎ協会。そして空母エスペランサー。迷宮機関はかならず実行する。そしてこの惑星は迷宮機関のものとなる」

 目を吊り上げる塚本。

 「その時は全力で戦う」

 オスカーは机から降りて声を低めた。

 「僕ちゃんが死んでも次がやってくる」

 にらむ塚本。

 「やばい筋の奴らと債権者は、おまえの財産で山分けして借金を返済させてもらう。そして戦争犯罪人として仲介人を通して国連に引き渡される。国際裁判で死刑になるのは確実になるだろう」

 オスカーは資料を見ながら言う。 

 「ちくしょう・・・」

 くやしがる塚本。

 「私よ。仲介人に伝えてくれる。場所はアラスカ郊外のゲストハウスよ。報酬も振り込んでくれる?」

 電話をかけるイリーナ。

 「了解」

 電話の向こうの相手が答えた。

 「債権者とやばい筋の連中より裏稼業の仲介者は丁寧に護送してくれるだろう」

 オスカーがしれっと言う。

 「空母エスペランサーと国連め。賞金稼ぎ協会。覚悟しろよ。これからだ」

 塚本は憎しみをぶつけるように叫ぶ。

 無視してペンションを出て行く二人。

 外に武藤、リック、氷見、ジェル、ヨセフ、ドール、エリオットがいる。

 「彼はどうなるの?」

 氷見が聞いた。

 「彼の財産は没収されて債権者ややばい筋に返却されて借金はなくなる。そしてチビデブは裏稼業の仲介人によって、国連に引き渡される。そこで戦争犯罪人として複数の国に裁かれて死刑になる。迷宮機関の一人が死ぬわけだ」

 オスカーはペンションの方に視線をうつす

 「フリンの方は刑務所行きよ」

 イリーナが口をはさむ。

 「そこで国連から提案がある。「ハンター」チームが結成されて迷宮機関と戦うことになる。空母エスペランサーとドールもメンバーに入っている」

 エリオットは口を開いた。

 「私の力が役立てれば入るわ」

 氷見は名乗りを上げる。

 「俺も入るよ。韋駄天がいた方がやりやすいだろ」

 「私も参加するわ」

 リックとジェルがうなづく。

 「俺も手伝えれば行く。今はデートを楽しみたい」

 ふっと笑うオスカー。

 「ワシも手伝う。ワシの目の黒いうちはな」

 眼光が鋭く光るヨセフ。

 「オスカー」

 呼び止めるエリオット。

 ジープに乗り込むイリーナとオスカー。運転席に武藤がいる。

 振り向くオスカー。

 「いいハンターを持った」

 エリオットは笑みを浮かべる。

 うなづくオスカー。

 そこに飛翔音が聞こえて彼らは見上げた。

上空から垂直離着陸できる航空機が着陸してきた。

「仲介人だ」

オスカーが言う。

格納ドアが開いて三人の黒服の男達が出てくる。三人はオスカー達に軽く会釈するとペンションに入っていく。

オスカーのジープは走り去る。

氷見達は大型ヘリコプターに乗り込む。上昇する大型ヘリコプター。

「バージルはどうしている?」

氷見は聞いた。

「彼はフルメタルミサイルを五発受けて大破している。だから修理ドックで修理しているんだが、エンジンと機関部をやられたら普通は撃沈だ。それでも浮いているのだからさすが金属生命体だ」

資料を見せるヨセフ。

資料に目を通す氷見達。

ペンションから遠ざかるヘリコプター。

「迷宮機関はただの組織ではなさそうだ。地球外生命体と取引する連中だ。各国政府も国連も警戒している。これから本格的な戦いになると予想している」

エリオットはため息をつく。

視線を窓の外にうつす氷見。

たぶんそうだろう。バージルとドールの力がなければ迷宮機関は見つけられないし、各国政府と国連で団結しなければ勝てないかもしれない。不安だらけだがやるしかない。

「未来は決まってない。未来はおまえたち若い者が切り開くんだ」

ヨセフは真剣な顔になる。

氷見、リック、ジェルは深くうなづいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



依頼を受けたがいいが成り行きで仲間ができる。彼らは協力して大物の賞金稼ぎのアジトに乗り込むのだった

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