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緊張した面持ちで部屋を出る
何度かウィンズロー家に呼ばれたが
晩餐の招待は初めてだ、テーブルマナーも知らないし
それ以前にとてもこの状況では食欲がない
ハーディガンの顔がまともに見れない
ヒューゴとキスしてしまった事は浮気行為だろう
いや、彼は妻子持ちだ。
自分を愛人にしようといてるが
妻や子供は知っているのだろうか
頭がぐるぐるして吐きそうになる
パブリックスペースに通されると今日のメンバーが寛いでいた
屋敷の主であるウィンズロー夫妻と
村長、ヒューゴは村長の娘である
ビアンカと長椅子で寄り添ってずっと談笑している
ここからでは彼の表情が読み取れない
ビアンカは胸元が大きく開いたドレスを着て
胸を強調するような体勢で
ヒューゴに腕に絡みつき見ていてイライラする。
本当なら今頃は彼と二人っきりで夕ご飯を食べる予定だったのに・・・
「お待たせしてすまない」とハーディガンが皆に一瞥し
洗練されたフットマン達がダイニングの扉を開き
席に案内した
アペリティフが運ばれ
ウィンズロー男爵がグラスを片手に席を立った
「乾杯の前に報告があります、ご存知の方が大半かと思いますが
自然豊かな美しいスマウグ村を代々納めてきたウィンズロー家では
ありましたが私の代で子宝に恵まれず
この老体では管理もろくに行えず、村長には多大な苦労をさせたと思います
ですがこの村をいたく気に入り
かねてから切に希望され、長い事話し合いの末
ハーディガン卿の熱意に負け
この村とマナーハウスを譲渡した次第です
我々はこの地を去りますが
村の発展と豊かな自然に祝して乾杯!」
「・・・乾杯!??」
メアリがガタガタ震えだした
ウィンズロー男爵はこの村を売っていたのだ
かねてから関心が無いとは思っていたが
まさか領地を手放すとは
確かに法改正で貴族にも税金がかけられ
地方貴族は領地を売ると聞いていたが
まさかこの村全体がハーディガンの物になるとは
夢にも思わなかった
「そういう訳だから百合とか何だか知らないが
もう探さなくて良いんだ
パトリオット氏には私のメアリが世話になったようだ
話は聞いている
罰金は私が支払うのでご心配なく」
そういうと彼はメアリの手に自分の手を載せた
「そっそんな、私一人でやっていけます!」
「君には才ないのはわかってるだろう
店も閉めてもらって構わない、
なに、村の医療の事はお前が気にするな
必要なら医師を都から呼び寄せる
君は私に相応しいレディとして勉強してもらう
事が山ほどあるのだから」
メアリの目頭熱くなり、涙が溢れた
せっかくメイド達が化粧をしてくれたのに
その発言にヒューゴが鼻で笑った
「・・・そんな大口叩いて平気なのですかハーディガン卿
聞くところによると貴方の鉄道会社は業績不振だそうですね
しかも奥様が筆頭株主で奥様の了承無しで
村なんて高い買い物なんてできるのでしょうか?」
「なっ失礼な!一介の役人に何がわかる!?」
「鉄道を敷くなど大規模事業は国の許可が必要ですよ
失礼を承知でこの村に鉄道が通るなど
そんな計画私は聞いたこともありません」
ウィンズロー男爵夫妻もオロオロと心配そうに二人を見つめてる
「心配ない計画は密に行われてるだけだから
末端の役人には話がいかないのだ、すでに銀行の融資もOKを出した
他の者が手を出さないと限らないから
この話は王都に帰っても公の発表まで内密にしておいてくれ」
「そうですか、銀行がね。」
ガタン!と言って
その時限界に達したメアリは椅子から倒れてしまった。
「メアリ!」