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「おはよう、メアリよく眠れた?」

朝靄がかかる早朝に店を訪れたヒューゴは

笑顔でメアリを待っていた。

昨日の役人の制服と打って変わって

ツイードのジャケットにアスコットタイ

パンツにブーツにハンチング帽子とスポーティに決めている

メアリというと昨日とあんまり変わらない綿のドレスにエプロン

変わったところは

木靴ではなくブーツ

それと外出用のボンネット

そもそもドレスを数着しか持ってないから仕方ない

ヒューゴの格好を見て

何だか自分が惨めで恥ずかしくなった

「今日目指すところは山の中腹だね

無事に百合が見つかるといいんだけど

地図でいうとどの辺り?」

テーブルに地図を広げたヒューゴの言葉で我に帰る

もちろんデートではないから服装なんて関係ないはず

罰金を払う為に山に百合を取りに行くのだ

ヒューゴが来るまで念入り髪を梳かし

スプーンでまつ毛をあげた浮き足立った

自分が恥ずかしくなった


「メアリ?どうした?気分でも悪い?」

顔を覗き込むヒューゴの顔が近い

一瞬昨日のキスの事が鮮明に蘇り後ずさりした

「なっなんでもないです!とりあえず出発前に

昨日の手の具合見せてください」

「ああそうだったね、あれから何ともないよ」

そういうと適当な椅子に座り

包帯を解いてドアに挟まれた時の傷を

見せてくれた。

確かに腫れも引いて薄い傷後が残るのみだ

「大丈夫そうですが、一応薬を塗って新しい包帯に

変えますね」そういうと戸棚から薬を出した

特製ぬり薬瓶をパレットナイフで少量ガーゼに載せたを出してきた。

「この薬よく効くね」

「クチナシという植物と卵白をマヨネーズ状になるまで混ぜるんです」

「なんだか料理みたいだな」

「薬草園と山の物でだいたい賄えます

これから行くグルジア山では鉱物も豊富で

薬にも使う石英も沢山取れるんですよ」

「ふーん石英が採れるのか、鉱山でもあったの?」

「いいえ!鉱山のがあったらもっとこの村は栄えてますって!

道も獣道くらいで整備されてませんから」

包帯を用意し手際よく処置をしてる間

彼の視線はずっとメアリ追ってる

「なっなんでしょう?何かついてます?」

「いや、ごめん今朝の君は何というか、とても綺麗だ」

その言葉に耳まで真っ赤になり

ガシャンと音を立ててトレイを落としてしまった

「何を言ってるんですか朝っぱらから」

「そうかな?恋人には甘い言葉を朝昼晩囁きたい

赤くなってますます可愛いよメアリ」

「恋人ではありません」

「昨日契約しただろ、君は僕の物だ」

「契約はしてません、お返事もしてないし」

「ではこのまま親子程の年の離れた男性に快く

抱かられるつもりなのか

しかも好きでも無い男と

俺なら君を玩具にしないし、力になる

キスが嫌だったのなら膝間付いて懇願してもいいよ」

いきなり立ち上がりメアリの前で膝間ついた

「やめてくだい貴族様にそんな事して貰う身分では無いです!」

「なんだ・・・クラスの事を気にしてるのか

俺は貴族ではない、君と同じ労働者階級だよ」


山に向かう途中

ヒューゴは自分の生い立ちの事を話してくれた

家は古い家柄だそうだが爵位は無いそうだ

母親は他界し今は父親の仕事を引き継ぐ為に

いろいろと見に勉強で奉公に出されてるそうだ

役人になったのも勉強の為だったが

この仕事は好きで父親が引退するまで続けたいそうだ。

姉は2人居るそうだがすでに結婚し家を出てる

部下のディルタとカヴァルも元は鉱山夫だったらしい

衛生保安省も貴族役人ばかりと思ったが拍子抜けした

確かに馬車で3日かかる地方に視察なんぞ

貴族様が好んでする仕事ではない。


「分かってもらえたかな?」

「けど、お役人さんはお給金も安定してますし

好き好んで田舎娘相手にしなくても王都には

美しい娘が五万といますよ

あっもしかして他にもいらっしゃって

私はスマウグ村限定ですか?」

「とんでもない恋人なんて他に居ないよ!

今まで仕事が忙しくてね

恋愛にかまけてる暇は無かったんだ

父すすめで縁談の話はあったけどね」

その顔で言うか、その気になれば幾らでも恋人が作れるだろうに

彼の言葉が信じがたい。

山道では村人は誰も居なかったが

村娘が彼を見たら卒倒しそうだ

「そうだとしても恋、恋人になるとか無理です

今はいろいろやる事があるし」

「じゃあ全て片付いたら僕の物になってくれる」

「・・・嫌です、私の気に入る理由がわかないし

なんだか昨日今日で、胡散臭い」

「何でだよ!」

「じゃっじゃあ私を気に入ったところを教えてください」

「ええっ・・・」

ヒューゴが照れ隠しなのか明後日の方向を向いた。

「君の良いところは頑張ってるところが健気だし

見てないと危なっかしい

怒ってる顔や青くなってるとこも面白い

ともかく見てて癒される・・・どうかな?」

「何だか恋人というよりペットみたいですね」

「不満?」

メアリはもっと甘い言葉を期待してたが

彼の言葉にプイと顔を背けてしまった


その頃森林限界を超え山の中腹の

開けたところに出た

この山は地熱の関係で季節が遅いのだ

標高は低いが辺りは高山植物の夏の花が咲き乱れてた

とても綺麗な景色だが百合は見当たらない


「百合は無いですね、さすがに時期が遅かったかも」

「他に当てはないのか?もっと山頂とか?」

「山頂は植物さえ生えてません」

考え込んで当たりを見回すとふとヒューゴが視界を止めた

「あの洞窟は何?」

見ると山道の遥か先にポッカリと穴が空いていた

「ああっ洞窟に百合はありませんよ~

例の石英はあそこでいつも取ってます

入り付近でも結構取れるんですよ」

「奥は何があるの」

「奥は危険だから入っちゃ駄目と言われてまして

数年前に亡くなった長老はお祈りの場に使ってたみたいですが

亡くなってからは長老のお化けが出るだのと言われて

私も奥はちょっと・・・」

そういうとメアリはいきなり急かすように立ち上がった


「それより!ここで引き返さないと午後の薬店の開店に間に合わないです」

「なんだ店を開ける気か?免許取得までは営業停止だが」

「ええっ!!でもっでもっ!薬を待ってる人が居るんです!

もし急病人出たらこの村にお医者さん居ないんですよ!」

「といっても規則だからな~」

呑気話すヒューゴにメアリは焦った

「誰がそんな酷い規則作ったんですか!困ってる人がいるのに」


「・・・俺だが」

「え?」


メアリとヒューゴは丁度良い岩の上にブランケットを引き

ひとまずその上で休憩した

メアリがバスケットから水筒とレーションを出した

「お昼を用意してくれるとばかり期待した

俺が馬鹿だった」とヒューゴは項垂れた

「要らないなら食べなくて結構ですよ

これも手作りなんですよ」

「ごめなさい有難く頂きます・・・ってこれ凄く美味い」

メアリ特製レーションは好評であっという間に

無くなった。

レーズン胡桃にアーモンドにスパイスを効かせた

栄養価が高い保存食は山歩きに欠かせない


「でさっき話なんですがどう言う事なんですか!?」

「規則はちゃんとあるよ、その規則そのもののを作ったのは

俺かな、貴族委員のやつら仕事が右から左でさ

ろくに審議もせずにハンを押しちゃうもんだから

規則が妥当かどうか視察がてら未登録者を自ら直接

見て回ってるわけ、衛生保安省も今期できたばかりで

模索してるのもあるけど

今回の登録料が財政に入れば

地方医師を派遣できるし、新薬の開発機関も設立したい

そういう計画だったんだ

なので未登録者は今後の為にも

厳しく罰金を設定したんだ。

まぁ未登録の違反者ははっきり言うと君だけだったけど」

「うっ・・・」

「何も言えない顔してるね」

「はい」

「それでも店を開けるの?」

「開けたいです」

「じゃあ俺に賄賂送って、そしたら見逃してあげる」

「えええ!」

ヒューゴは子供のような意地悪い顔をしてる

「何驚いてるの、この国の役人なら皆んなやってる事でしょう

そんなに驚く事でもないし」

「でっでも何を差し上げれば、まっまさか!!」

尽かさずメアリは胸を隠しヒューゴから逃げようとした

「・・・まさかってエッチなこと考えてたでしょう」

横目で見ると呆れた顔をされた

「違うんですか」

「俺ってそんな人間に見られたの?かなりショックだ

違うよ、さっきのレーション美味しかったけど

昨日の君の夕飯のシチューおいしそうだったから

今度は是非とも夕飯ご馳走になりたいんだ」

「はぁぁなんだそんな事か、びっくりした

良いですよ、お店閉まったら来てください

腕を振るいます」


安心したメアリがその場寝転んだ

お天気も良く晴れ

時より吹く涼しい風が頬に当たり心地いい

目を閉じてもお日様感じる・・・


がその時何かの影に覆われ

唇を重ねてられすぐ離された

目を開けると切なそうな甘い瞳でメアリを見つめた

ヒューゴ覆いかぶさっている

「でも本当は今ここで君を食べてしまいたい

警戒する君も可愛い」

「駄目だって言ってるでしょ!!」

ヒューゴの潤んだ目と唇に残った感覚に

酔いながらもメアリはヒューゴを突き飛ばし

足早に山を降りていった。


午後は上の空で仕事していたメアリだったが

夕刻に近づくにつれ

そわそわしていた、客たちの村人も彼女の

異変に誰もが気づいて、

どうしたものかと声をかけるが

“いたって普通ですから!”笑顔で柱に幾度となく激突していた

今日は百合が見つからなくて残念だったが

そんな事よりもあの時の光景が何度もよみがえる

残り日数が限られてる緊迫した状態なのに

まるで浮かれてるようだ

どうしたものかと模索する。

それにヒューゴから帰りがけに

滞納してい客に個別に封書を渡すようにと

手紙の束を預かってる。

昨夜一度だけ帳簿を目を通しただけで

村人の誰が幾ら滞納しているか記憶してるとは

恐れ入った。

力になると言ってくれたが

あながち嘘でも無いかもしれない

ハーディガン卿は力になると言っても

屋敷に呼び出すだけで店に来るような事は一度も無かった。


最後の客を送り出して店の看板をcloseに変えようと

表に出た時パット夫人が血相変えて

走ってくるのが見えた

「メアリ!今すぐお屋敷に来てちょうだい!大至急よ

男爵夫妻とハーディガン様が到着なさったの!」

メアリの顔色が一気に曇った

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