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薬局の来客用ソファーで小さくなったメアリと
対面に座り包帯でぐるぐる巻きにされた右手が使えず
左手でお茶をすする先ほどの青年
大男二人はカウンターでお茶と出されたお菓子を美味しそうに頂いてる
「改めて自己紹介するが、私は国家衛生保安局員ヒューゴ・パトリオットです
そこに座るディルダ、カヴァル二名も同じ保安局員で
来た理由はもうご存知かと」
「…はい」
ヒューゴは伝令書を開き読み上げる
「今年度より薬店は王国の管理の元、薬品、薬剤を扱う者は免許制になった
また未登録の店は半年登録が遅れた場合、通告無視と見なされ営業停止、厳重処罰になる」そう言うと男は無表情で見つめ返した
男の顔を見ると、すっと通った鼻梁
クセのある明るい茶色の髪とヘーゼルナッツ色の瞳
背も高くてかなりの美形だが
今はとても意地が悪そうに見える
仕事だから彼らに悪気はないのだが
怨めしい。
「通達はちゃんと読んでるんだろう、君の店は半年以上登録が遅れている」
横見で見るとどっさり王国からの手紙が
空けた状態でテーブルに置かれていた。
「もちろん読んでましたよ、ですが無理です、登録料が高額だし
審査受けるのだってわざわざ片道3日はかかる王都に出向かなきゃならないんです
その間店を閉めなきゃならないですし、横暴です」
「しかもこの村では医者もいないんです
私のような者でも村の頼りにされてるんです」
メアリは両手を祈る形で懇願し泣きそうな顔で精一杯哀れみを
誘う仕草をしてみるが
ヒューゴという男は眉を寄せてわざと視線をずらした
「…言い分はわからんでもないが、ひとまず王都に来てもうことになる」
「厳重処罰ってなんなんですか?」
「営業停止処分と50000ギルの罰金、分割もできるぞ」
「50000ギル!払えない場合は…」
「禁固刑」
その途端メアリが立ち上がるとその場に倒れた
「もーもうだめ、そんな大金払えるわけない!
終わった、店は閉店です
村でただ一軒の薬店が無かったら村も人達も困るだろうな
なにせ隣村には20レイルはあるだろうし
天国のママ、パパ
私もすぐ後を追うから待っててね」
うわーんと
泣き伏せているメアリを可哀想に思ったか
部下の二人も同情し、駆け寄ってきたが
ヒューゴはゴホンっと咳払いをうつが冷静を保ったままだ
「なら一つ提案、というか取引しなか」
「取引?」一筋の光でも見えたように顔をあげてヒューゴの顔を見つめる
「近々ラグナ公爵家の嫡男とグリベック伯爵令嬢の婚礼があるよなって
こんな田舎じゃ知らないか」
「失礼ね!陛下のかなり近い親戚ですからこんな田舎でも耳には入りますよ
なにせ大きな婚礼があれば都が活気付くので田舎でも仕事が増えますし」
「その婚礼で使われる花なんだが、ラグナ家の紋章は百合なのだ
なので式には百合を大量に必要とされるんだが、都の花屋では何処も無いらしく
頭を悩ませてると聞く」
「百合か…時期外れですよね、今はもう秋ですし…」
「が、噂によるとこの地方の何処かにあると言われる
ホットスポットと呼ばれる地熱地帯では
場所によっては秋でも野生の百合が咲くらしいと聞く」
「百合と店の一大事とどう結びつくのですか?」
「ラグナ公爵は衛生保安省の上総だ、ご機嫌とっておけば祝い事に免じて
処分も軽くなる、いやそれが無理でもこの時期王都なら
百合は最高額で取引されるだろ、一輪500ギルはくだらないかもな」
「500ギル!すごい!罰金が50000ギルだとし100本…」
「期限は結婚式前日、約一週間後
どうだやってみる価値はあるだろう」
「うーん一週間か、そうですね
駄目元でも探してみる価値はあるかもしれません。
けど恥ずかしい話なんですが
王都まで行く足がこの村にはありません
馬車は借金のカタに昨年手放しましたし
唯一ある箱馬車は村長が所有してるんですが
ドケチで貸してくれるかどうかぁ」
「仕方ない、発見できたら私が王都に送り届けてやる」
それを聞いて部下達の顔色が変わる
「ヒューゴ様!流石にそれはどうかと!」
「婚礼式には我々も列席する予定ですよ!ここで仕事増やしてどうするんですか!」
「いや、ディルダ、この先村はないので仕事も終わり、後はトンボ帰りだ
ここから3日かかる王都までの長旅なら馬も休息が必要だ
少しくらい羽を伸ばしてこの村に留まっても大丈夫だろう」
「ちなみにレディメアリ、この村で宿屋はどこにあるのか?」
「お役人さんは初めてスマウグに来られたんですか?
この村も隣村にも宿はありません、観光もない限界集落ですよ」
「なに!!本当か!」
「恐れながら無いようです」部下のディルタが
ガイドブックらしき物を出して眉を寄せている。
ヒューゴは折角整った髪をクシャクシャにした
「全くなんて田舎なんだ」
「・・・宿屋はないけど大丈夫です」」
「いや、さすがにレディの家に泊まるわけには・・・」
何故か狼狽するヒューゴを見て少し可笑しくなった
「なにを心配されてるかはわかりませんが
ここじゃなくて貴族様のお屋敷です
まさかこの店で
皆で川の字に寝るとか思ってますか?」
「違うのか?」