14
急いで洞窟の外に出てみると辺りは巨大な影に覆われていた
見上げると舟の船底らしき物が空中に浮かんでいた
飛空艇だ
話にしか聞いたことがないので初めて見る
プロペラがいくつもある鯨のような美しい機体
ゆっくりと下降し
タラップが降ろされ美しい青年がこちらに走ってきた
「メアリごめん!君を一人にするべきではなかった!」
彼の胸に息が止まるほど抱きしめられてた
「ヒューゴ、くっ苦しい」
「あっ!ごめん」
「君につけた発信機が山の洞窟を示してるから
驚いたよ。嫌な事されて逃げて来たんだね、あいつらに無線に連絡して
君を確保できて良かった。本当にごめんよ」
「もう大丈夫だから、心配ないわ
ていうか発信機!?どういう事」
「君の指にはめたあの指輪、実は発信機なんだ。母船を呼ぶための」
「母船ってこの飛空艇!?」
「そう僕の専用機、村にいきなりは登場は目立つから上空で待機させてたの
騙してごめんね
滞納金の徴収や百合の散策は口実で
本当は地質や動植物のサンプルの採取が主な任務だよ
調査団が入るを嫌がる村や領主が
多いから衛生局の制服はカモフラージュってわけ。
ディルタ達も大方説明しなかった?」
「聞きましたが情報が多すぎて何がなんだか・・・」
「僕らは特殊調査員だよ
この土地に貴重な研究資源が見つかった以上
個人所有の土地だろうが全て王政府が没収する事になる
研究所が作られ交通も整備されるし、研究所が終われば
村に返されんだけど今回は特別かもしれない」
「それはドラゴンが見つかったからですか?」
「そういう事だね
国の特別な場所、“レアプレイス”に認定はまず間違いない
協会ではドラゴンを信仰の対象にしてる宗派があるそうだから
聖地になる事もありえるかもしれない」
「土地を全て没収なんて研究員を煙たがるわけだわ!
私達は追い出されるの!」
「没収といっても村人を出て行かせるわけではないんだ
村の人は普段通り生活してもらう
ただ領主の土地の権利書を没収し
管理人を決め厳重管理する事になるんだ」
「じゃあ私は結局どうすれば・・・」
つまるところ店が全壊してしまい無一文で住むところもない
ハーディガンも新領主とはなくなるわけだから
マナーハウスの女主人もお役ごめんだ
「簡単だよ、君を土地の管理者に推薦してすんなり通ったから
管理者としてここを守るんだ」
あまりにも淡々と言ったので彼を二度見した
「えっそんな大事な事簡単に!?」
「君が村への貢献度は高い、村長は私服を肥やし過ぎで信用ならないし
元領主は管理能力がないだろ。
元よりハーディガン卿は君を女主人としてマナーハウスに住まわせる
わけだったし問題ないだろう
マナーハウスを薬店に改装して営業すればいいさ
店より大きいから病院でも宿屋にもなるだろう」
「ハーディガン様はどうなるの?」
とその時ヒューゴの肩越しの年配の上品な女性が立っていた
目が合うとその女性がこちらに歩いてきた
「お初にお目にかかりますアルベルト・ハーディガンの妻
バーバラ・ハーディガンですわ」
年はとっているは薄い青い瞳が美しい凛とした女性だ
「この度はヒューゴ様に助けられましたの、
夫が私に内緒で村を買うなんて
寝耳に水で驚きましたわ
しかもその村はレアプレイスに指定されたら
即、国に即没収されてしまいますでしょう
ヒューゴ様に教えて頂き、すんでのところで
契約が阻止できて良かったです
危うく大損するところでした」
一方的に話され彼女の存在感に圧倒され
挨拶が遅れた事に気がついた
「申し遅れましたメアリ・ターゼンです・・・
こんな身なりですみません、えっと・・・私は」
なんて自分の事説明したらいいのか
“貴方の旦那様に愛人になれと追い回され
大変だったんです!”とかは口が裂けても言えない
「ヒューゴ様から聞いてますわ、お家が火事で失われたとか
この度は御愁傷様でした。でもこの機会に二人のご新居を
構えられてはいかかですか?」
「はっ?」
「ご婚約聞いております、羨ましいですわ、未来の夫が
フェーブ銀行頭取の御嫡男とは!
社交界でも人気のヒューゴ様のお心を射止めたとは
令嬢達の嫉妬に狂う様子が目に浮かびますわ!
フェーブ銀行には多額の融資をして頂き大変お世話になってますの、
今後ともよろしくお願いしますわね」
「婚約?銀行の頭取の嫡男って・・・きゃあ!」
その時ヒューゴがメアリを抱きかかえタラップに上がった
「ハーディガン婦人、迎えの馬車は呼んでます
メアリが怪我をしてますので申し訳ないのですがここで失礼します。
何かありましたら何なりと従者をお使いください」
婦人も「お気遣いなくと」ニッコリと笑った。
メアリは何も言えないまま婦人を窓から見送った
飛空艇はすぐさま離陸し婦人も洞窟も村も全て小さく遠ざかった