1
フィルエン王国の最北
霊峰グルジア山の麓にスマウグ村があった
そろそろ空気も冷たくなって木々も紅葉し始めた秋の始め
スマウグ村の小さな薬店の三代目店主
メアリは今日も忙しく働いていた
「おまたせしました、腰痛用の湿布です。
二週間分入れておきますね、あまり痛いようなら
言ってくだい、別の薬を調合します
もうすぐ収穫時期ですがお仕事は無理はしないでくださいね」
「スタインウェイさんはいつもの胃腸薬でしたよね」
「いらっしゃいモーリスさん椅子に座ってちょっと待っててね」
テキパキと仕事をこなす店主を見ると村の客たちは口々に彼女を賞賛した。
「メアリは本当よく気が効くね」「この町で唯一の薬店だが本当頼りになるわ」
「俺の嫁に貰いたいくらい…」と客の農夫が頬を赤らめて
彼女の姿をうっとりと眺めてた
この国では医療技術が発展途中の段階で
地方薬店というのは
最低限の医療を勉強した者が薬の調合をし個人が
それを販売していたのだ
医者からの処方箋というのは大都市の一部だけだった
メアリの両親は数年前に山の遭難事故で亡くし
一人娘だった彼女がこの店を切り盛りしている
だが18歳と若く三代目の頼りないメアリであったが
薬草の調合知識は父を凌ぐほどと瞬く間に評判になり
この小さな薬店は村人でいつも賑わっていた
和やかな雰囲気の店内でいきなり
バンという音と共に店の扉が開いた
「失礼する、わたしどもは科学衛生局です。
店主メアリ・ターゼンはいるか、この店の営業停止及びヴィラスト検査局への出頭命令が出てる
速やかに出頭せよ」伝令を読み上げると入り口を塞ぐように
大男2人が扉の前に立っていた
「王都のお役人さま達だ、メアリこれはどいうこと…」
客たちが慌てて振り向くと先ほどまで居たメアリは忽然と姿を消していた
「まったく、まさかこんな田舎まで出向くとは、役人も相当暇ね
王都の法律だがなんだか知らないけど勝手に決めてそれに従えなんて
暇な役人共が考える事はろくでもないわ」
裏口からこっそりと抜け出だしたメアリは身をかがめてあたりを見回した
このまま数時間、店主不在で通せば役人達も諦めてくれるかもしれない
突然広い胸板にぶつかった
「誰が暇だって?」見上げると体躯のいい青年がそこに立っていた
「きゃ!」
勢いに任せて扉を閉めようとした途端
青年の指が挟まれた
「いってー!!」晴天の青空に彼の絶叫が響いたのであった