王宮に着きました。
茶色い虎と美形の青年、もといヴィラハルドの王様だというルドガーについて四阿をでる。
王宮に行くと言っても、周りを見るとただ広い草原が広がっているだけ。
その中にポツンと四阿があり、そのほど近くに一本の大きな木がある。広い草原の中の目印になるような物はその二つのみ。
四阿から出てどちらに行くのかと後をついて行くと、どうやらその一本の大きな木に向かっているみたいだった。
四阿を出てそれほど歩かずに大きな木の近くに近づくと急に空気が変わったような気がして、瞬きする間もなく今まで見ていた光景とは全く違う場所に立っていた。
どこまでも青い空、見渡す限りの広い草原、たった今までいた場所はそういう自然溢れる場所だったのに対して、空にはポツポツと白い雲、遠くの方には軽くグレーがかった雲もある。
そして足元には今までなかった少し凸凹とした石畳が敷かれており、それが道となって続いている。そして、その道の少し先には数段の階段があり階段の上の入り口らしき所には人が二人その入り口を守るように立っていた。
ふと気づくと茶色い虎がいたはずの場所には
またまた美形の青年が立っていた。
その青年は薄い金茶色の髪を後ろにまとめており、清廉な空気を纏わせていたが何故かその後ろ姿には何も身につけていなかった。
小麦色とはいかないまでもほどほどに焼けたその背中をまともにみてしまった私は思わず両手で顔を覆い、しゃがみ込んでしまう。
〔あぁ、申し訳ありません。獣型のままでは街を歩けませんので。〕
その声が聞こえると同時にどこからかバタバタとした足音と、やはり知らない言葉が聞こえる。
〔人の事は言えぬな。〕
少し苦笑したような声が聞こえ、その言葉に反論するかのようにもう一つ声が聞こえる。
〔仕方ないではないですか、服など持ってきてはいなかったのですから。ルドガー様用に布を持ってきただけなので、私の分はありませんでしたから。〕
〔もう大丈夫ですから顔を上げてください。〕
その声に覆っていた手を退けてみると、半裸だった青年と全裸だったらしい青年が二人、何処かでみたことのある白い民族衣装のようなものを身につけていた。
(あぁ。砂漠とかでよく見る服に似てるんだ。)
何処で見たんだろう?と考えていると、ふとテレビで以前見た砂漠を渡る人が身につけていたものだと思い出す。
〔あちらにもこのような服があるのですか?〕
頭に浮かんだ言葉に反応したのか金茶色の髪の青年がこちらを見る。
(あ、はい。 私の住んでいる所ではないですが。 似たような服をみたことがあります。)
私の言葉にまだ何か聞きたそうにする青年にむかって、隣の王様だと言う青年が何かを話しかける。そして直ぐにこちらの方を向くと、
〔とにかく先に王宮へ案内しよう。あまり帰りが遅いと政務にも支障が出るのでな。〕
隣の青年に言っただろう言葉を私にも向けてきた。
《〻⌘〜£・》
そして二人の青年の側にはさっき聞こえた足音の持ち主だろう二人がやっぱりわからない言葉で話していた。
その二人はよく見ると先ほど階段の入り口の近くにいた二人のようで、昔の兵士のような格好をしていたが、その肌は小麦色よりもっと濃くそしてガッチリとした身体をしていた。 そして、何故か私の方を見て少し興奮したように話しかけているようだった。
だけど、言葉のわからない私には二人が何を言っているのかわかるわけもなく首を傾げると、
〔貴方がこちらに来てくれてとても嬉しい、と話してるんですよ。〕
二人の話を私にわかるように教えてくれた。
〔やっと人型をお目にかける事が出来ました。こちらの姿が神官としての本来の姿ですので。あぁ、私の事はカルナックと呼んで下さいね。〕そう言うと、金茶色の髪の青年がにっこりと微笑む。
二人に促されるように石畳を歩き、階段を登る。
階段を登って入り口のような所を通り過ぎると、開けた中庭のような所に出る。
その中庭を抜けると、そこには大理石のような柱に高い天井、隅々まで磨かれた長い廊下。それはまるでどこかの神殿のような、でもそうではない雰囲気のする場所だった。
よく見ると、長い廊下のあちこちには大柄な男性や、やっぱり大柄な女性が行き来をしていた。
そして、そのうちの何人かがこちらに気づいたようで、皆が一様に驚いた顔をしていた。
カルナックと王様の後をなんとなく下を向きながら足早についていくと、あちこちにいた人達がなんだか騒いでいるのが感覚でわかった。
長い廊下を抜けいくつか角をまがり、ある扉の前で二人が立ち止まったので、下を向いていた私はカルナックの背中にあたりそうになり急いで止まる。
王様が何か声をかけると扉が開き、そこには私の母親より年上っほいの女の人が頭を下げて立っていた。
「おかえりなさいませ、ルドガー様。」
女の人の言葉に、王様が頷く事で答える。
「失礼ですが、そちらのお子様は?まさかルドガー様のお相手ではありませんよね!?」
言葉がわからないながらも怒っている様子に首を傾げる。
(私、何かしたのかしら・・?)
思わず浮かんだ思考に苦笑したかのような答えが帰ってくる。
〔この方はこの王宮の侍女頭で、メイラン・シューリン様です。元ルドガー様の乳母でもあった方なんですが、どうやら小さい女の子をルドガー様のお相手に連れてきたのだと勘違いなさっているようですね。〕
カルナックの言葉に一部カチンとくる部分に気がつく。
(?! 小さいってどういう事ですか!? 私、これでも16歳なんですけど! しかも、あと10日で17なんですが!!)
思わず叫んだような言葉にカルナックと王様が驚いた顔でこちらを向く。
そして、侍女頭のメイランさんまでも驚いた顔をしていた。
「16だと?」
「まさか成人しているとは思いませんでした。」
「まぁまぁ。」
三人で分からない言葉を使っているが、言っている内容がなんとなくわかり軽くムッとする。
〔申し訳ありませんでした。まさか成人していらっしゃるとは。〕
その言葉に?が浮かぶ。
普通に考えると私の常識では成人は20才だ。
でもどうやらこの世界の成人は違うみたいだ。
(この世界の成人って一体いくつなんですか?)
今まで話していたように私のいた世界とこの世界では違うのかを聞いてみる。
〔通常、こちらでは成人は15才からです。15を過ぎると親の庇護下から離れ、自立を促されます。ですので、結婚も15才から可能です。〕
その答えに早熟なんだ・・と思っていると、
メイランさんが何かを早口で言っていた。
「こちらの世界って!? まあまぁ良く見れば綺麗な白い肌に黒い髪、黒い瞳をしているじゃありませんか!! まさか異世界からのお客人でいらっしゃったとは!!」
〔あら、こちらの会話の方がよろしいかしら。〕
言葉がわからないのでメイランさんの話にキョトンとしていると、ふいに同じ音の言葉が頭の中に聞こえてくる。
(え?え?)
今まで聞こえてきたカルナックと王様以外の声にメイランさんを凝視してしまう。
〔ふふ。驚きました? 私も獣人貴族のはしくれ、念話くらい出来ましてよ。〕
初めて知ったが、頭の中の会話をどうやら念話と呼ぶらしい。
そのことをメイランさんに話すと、〔ルドガー様は一体どのようなご説明をなさっているのか。〕と、呆れたように王様を見ていた。
「まだこの娘はこちらに来たばかりなのだ。あちらの神域では込み入った話も出来ないので王宮に連れて参った。」
メイランさんの視線になんだか慌てたように会話している王様を見て少し笑みが零れる。
(王様なのに慌ててる。)
その私の笑みと思考に気づいた王様がこちらを振り返って憮然とした顔をしている。
?
疑問を顔にのせると、王様から念話が聞こえてきた。
〔私は王様ではない。きちんとルドガーと言う名前がある。〕
なんだか不貞腐れたような声にやっぱり笑みが零れた。
そして、カルナックとメイランさんも目を見合わせて苦笑していた。
この話の途中より、
「」内はヴィラハルドの言葉。
〔〕内はヴィラハルド側の思考。
()内は主人公の思考。
『』内は主人公の話す日本語です。
〔〕と()では思考の会話で使用します。
ややこしいかも知れませんが(^^;;
獣人貴族の皆が念話を出来るわけではありません。
念の為。