理解するにはちょっと無理でした。
だってね?普通夢とか幻?って頬を抓っても痛くないはず!
ゾンビ映画を観た夜に、ゾンビに襲われてあちこち噛まれた夢を見た事があるんだけど、その時は全然痛いっていう感覚がなかった。
だから、現在も事故にあった記憶はあっても多分死んでるんだろうなぁって私が勝手に思ってるだけで、本当はまだ重体とかで病院のベッドの中にいて夢を見てて頬を抓ったくらいでは痛くないかも・・なんてのん気に考えていた。
でも実際には抓った頬はかなり痛くて、やっぱり夢じゃないんだなぁと感じる。
〔あの、このままお話を続けてもかまわないでしょうか・・〕
そういえば、ヴィラハルドとかいう言葉で話が止まってたんだっけ?
この世界って言葉に反応して私が喚いたせいで話を中断させてしまっていたようだ。
(すみません! 大丈夫なので話を続けて下さい!)
とにかくどういう事なのかがわかるまで口を出さないようにしようと決める。
〔わかりました。では・・まず、私達がいる場所をこの世界では神域とよびます。 神域は各所に点在しておりまして、ここはヴィラハルド国の神域になります。〕
どうやらヴィラハルドというのは今私がいる国の名前らしい。
そして、自然溢れる草原や花がたくさんあるこの場所は神域と呼ぶ事までがわかった。
〔現在この世界では少し大変な事になっておりまして、数十年前から干ばつや水害、大降雪が年を追うごとに増え、そのせいで作物が育たなくなり去年はとうとう冬に幾人かの餓死者まで出てしまいました。
この世界には、[世界の危機が訪れる時、異世界からの迷い人が世界の安寧を行う。]とあります。
つまり、異世界から来た貴方にこの世界の安寧を行って欲しいのです。〕
・・・は?世界の安寧?
安寧ってなんですか?
安寧を行うって・・どうやって?
茶色い虎の言っている事に疑問ばかりが頭に浮かぶ。
(あの・・安寧って言われても、私には何も出来ないと思うんですが・・、ただの人間だし、これといってとりえもないし。)
そうなのだ。
私はなんのとりえもない普通の人間だ。
今までだって、趣味とか特技とかも?がつくくらいこれといって思いつくような物もないくらい。
(あるとすれば、料理くらい?)
料理は母親が仕事で遅い時になんとなく作ってたのが、家族にうまくのせらせれて私が担当になっていた。
(料理で世界を救う・・なぁんてわけはないし)
とにかく、私にはなんの力もないのだ。
〔世界の安寧を行うと言っても特別何かをするわけではないんです。 異世界からきた貴方は神に愛された者。神に愛された者が神域にいる事が重要なんです。ただ貴方は一日のうち何時間か、この神域でゆったりと心を落ち着けて過ごしてもらえれば。〕
神に愛された者?何それ〜!それが私?
いきなりな言葉にさすがに思考がついていかない。
平凡な高校生だった私が事故にあい、なんだか知らない世界に来ちゃって、虎と遭遇。と、思ったらその虎から声が聞こえてきて・・
しかもこの平凡な私が、神に愛された者とか言っちゃってる。
あ・・流石に脳のキャパシティを越えちゃったかも。
〔あの!もし?大丈夫ですか?〕
〔おい!どうしたんだ!?〕
二つの声が聞こえる中、私は意識を手放した。