地下都市 4
主宮に戻ってきた彩奈。
塀から出たように入って行くが、幸い誰にも見られずに元の部屋へと戻ってこれた。
時間を見てみると彩奈が出てから一刻と経っていなかった。
この世界には元の世界と同じような時計は無いが、代用になるものがある。 それはこの世界独特のもので、時刻の花と呼ばれるものである。 花弁は6枚に分かれており、一刻立つごとに花びらの半分の色が変わる。 最初は白い花だが、一刻経つごとに半分が青へと変化していく。 そして全ての花弁が青に変化すると何故か又、白に戻るのだ。この時刻の花は不思議と枯れることがない。 この花は咲く場所を限定されており、どうやら妖精国にしか存在しないらしい。 なので、妖精国から各国へと寄贈されている。 それは各王宮や街の広場などにおかれており、個人では持つ事が出来ない。 彩奈の部屋にあるのはドルーガが魔法で王宮にあるものを映写しているもので、実際そこにあるわけでない。
とにかく主宮を出てさほど時間がたっていないのでまだ暫くは誰もこの部屋に来ないはずだ。 とにかく今はこの腕の中の子供をどうにかしなくてはならない。
「どうしよう。」
匂いがすごいのでお風呂に入れたいし、服もボロボロなので着替えもさせてあげたい。 どうしようかと考えていると腕の中の子供が軽く身じろぎした。
「ねぇ!! 君 ?」
彩奈が声をかけると薄っすらと目を開ける。
「う・・・ここ・・・どこ ?」
弱々しいながらも意識を取り戻した男の子は小さな声で答える。
「あのね、君は道で倒れてたの。 他にもいたんだけど・・・、とにかく少しでも動けるかな ?」
そう彩奈が問いかけると男の子は軽く頷く。 それを見て彩奈は子供を立たせるように腕から降ろした。
男の子は自力で立とうとするがふらつきが酷いのか彩奈にもたれかかるようにして、それでも自分で立っていた。
「とにかく綺麗にしようね。 お風呂入ろうか。」
そう問いかける彩奈に目を丸くしながらもコクンと頷いた。
「えっと、一人で入れるかな ?」
まだ4〜5歳だろうとよんで男の子に聞くが、男の子は首を左右にふって答える。
「お風呂入ったことない。 水ならあるけど・・」
小さな声でそう話す男の子に一緒に行ってあげる、とお風呂へと連れていった。
ゆっくりと歩く男の子についてお風呂へと入り、服を脱がせて身体を洗う。 自分で出来るか問いかけたが首を横に振って答えたので仕方なく彩奈が洗うことになったのだ。
お風呂から出た後は着替えがなかったのでとりあえず彩奈の物を着せた。 上の服だけを着た子供はワンピースを着た女の子のようだった。 ちなみに下着も彩奈のをはかせている。 ここでの下着は男女兼用なので問題ないだろう。
お風呂からあがると男の子をベッドの側で隠れているよう言い含めてから彩奈付きの侍女を呼び、軽く食べられる物をお願いした。 暫く待って渡された物はサンドイッチみたいなパンに肉や野菜を挟んだ物とスープ、それに果実を絞った飲み物だった。 それを侍女が中へ持って来ようとするのを断って自分で部屋へと運ぶ。
「もういいわよ。」
そう言って男の子を呼んでテーブルへとつかせ、食べ物を進める。
「お腹すいてるでしょ ? これ食べていいから。」
男の子は不審そうな顔をしながらも食べ物を見て我慢出来なかったらしく、物凄い勢いで食べ始めた。
「お姉ちゃん! これすごい美味しい!!」
食べてる間にも(これも美味しい!)(これも!!)と本当に美味しそうに食べている。
「ねぇ、そう言えば名前教えてくれるかな?」
食べているのを見ながらそう声をかける。
「名前? あのね・・・」
何故か男の子はちょっと口ごもり、目が泳いでいる。
(? 名前が言えないわけでもあるのかな ?)
「名前はね、二つあるの。 一つは何でもないんだけど、もう一つは本当は言っちゃいけないの。」
どうやら男の子には事情があるらしかった。 言ってはいけないのなら言わなくてもいいと言おうとしたら、
「でも、お姉ちゃんは僕を助けてくれたし、いい人だから本当の方の名前を教えてあげるね。 僕の名前はドラバルト。 ドラバルト・アルカールディアって言うの。」
「ドラバルト・アルカールディアね。 私の名前は彩奈って言うの。よろしくね。」
そう言うとドラバルト・アルカールディアと名乗った男の子は彩奈へと笑顔を向け「よろしくお願いします。」と頭を下げた。
あんな場所で倒れていた割りにはしっかりしているし、先ほど食事をした時もお腹が減っているので食べるスピードは早かったが綺麗な仕草だった。
それにアルカールディアと言う名前を聞いた事があるような気がしてならなかった。
(? どこでだっけ・・)
とにかくドラバルトをここへ置いていることをオルテンにバレてはなんとなくマズイような気がする。 なので、ドラバルトに言い聞かせておくことにする。
「あのね、私はここでお世話になってるだけだからあなたが見つかってはマズイの。 だから見つからないようにあなたをここへ置いてあげる。 だから、もしこの部屋に人が入って来た時は隠れてもらうことになるんだけど・・いいかな?」
そう言った彩奈にドラバルトは何も言わずに首を縦に振った。
(とりあえず、ドラバルトの着ていた服は処分しておかないと。)
彩奈はドラバルトにこの部屋から出ないよう言い置いて洋服をもって中庭へと出た。 行く先はこの主宮を出る時に調べておいた焼却場だ。 ここではこの主宮で出たゴミを焼却処分している。 なので、ドラバルトの服も燃やしてしまおうと決めたのだ。
焼却場へ行くと幸い火がついたばかりらしく彩奈は周りを確かめるとドラバルトの服を投げ入れた。 ふと焼却場に置いてあるゴミを見ると、そこには新品と見紛う程の洋服や袋に入ったままの食べ物などがゴミとしておかれてあった。
(なにこれ!? これって買ってきたばっかりの果物じゃない。 しかもこの服のどこがゴミ!?)
唖然としてゴミを見つめていると、洗濯場所で知り合ったヨルダがいるのに気づいた。
「帰ってきてたのね。 大丈夫だった ?」
「あ、あれからすぐに帰ってきちゃいました。 あの、これって・・」
彩奈がゴミを見ているのに気づいたヨルダは、ああと納得したように同じようにゴミを見て
「これね。 もったいないわよねぇ、この洋服なんか一回着ただけでもう処分よ。 この果物だってなかなか手に入らないのに「飽きた」の一言でゴミ行き。 このバルサの主だから文句言えないんだけど、服とか着ないなら下げ渡したっていいのに。」
そう言うとヨルダは時間だから、と言って去って行った。
(街ではあんなに人が死んでるのに、あのオルテンって人は何もしないで、しかもこれ ?なんなのこのバルサって国は。)
彩奈は憤った気持ちを持ちながらも、やはり自分は何も出来ないのか・・と落ち込んで自室へと戻って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「何だと!? ドラバルトがいない⁇ 本当かゾルデ ! 」
「はい。 二、三日前に出かけるとおっしゃられて・・・。」
「あなた、ごめんなさい。 私がもっと気をつけておけば。」
「いや、おそらくは私とゾルデの話を聞いていたのだろう。 あの子は幼いながらも何とかしようとしたのであろう。」
「では、もしや・・・バルサに!?」
「ああ、恐らくは。」
「それなら私、 お兄様にお願いしてみます!! 王であるお兄様ならもしくは!!」
「お願いしてくれるか、ナルシア。 私ではバルサへ行けぬ。」
「ええ、コンラッドお兄様ならきっと! ああ、でもドラバルト・・無事でいるのでしょうか。」
「アルカールディア家の長男なんだ。 きっと無事でいるさ。」
「ええ。 ルーンフェルト様。」
聞き覚えのある名前が出てきました。
そろそろ大詰めかな。
お読み頂きありがとうございます!




