神との遭遇
・・・奈・・・彩・・彩奈。
誰かが私を呼んでいる。
その声は聞いたことのあるようでないようなそんな声だった。
私は必死に声を出そうとするが、何故か声が出ない。
口をパクパク開けているだけで、それは音になっていない。それでも必死になって声を出そうとしていると、頭の中に声が響いてきた。
彩奈。
君の声が出ないのは知っている。
私の声が聞こえているのなら返事は頭を動かすだけでいい。
誰が話しているのかわからないが、とりあえず話している人の通りに頷く事で意思を示した。
ーー聞こえているんだね。
良かった。
君は何故ここにいるのかわかっているかい?ーー
その声に周りを見てみると、そこは白い世界だった。 何にもないただ真っ白な世界。 彩奈は何故かその場所に寝転んでいた。 そしてその傍らには銀色の長い髪を後ろで纏め、白くて長いローブのような衣服を来た男性が佇んでいた。
(? 誰?)
頭の中に浮かんだ疑問に答えるかのようにその人は自分の事をこの世界の神だといった。
ーー私はこの世界を見守る者。
まぁ、神と言う存在だね。
君をこの世界に連れて来たのも私。
今までの稀人達をこの世界へ連れてきたのも私かな。
君のいた世界で命を落とした者達をこちらに連れてきたのには理由がある。
若いのに命を落とした事を嘆いたというのもあるんだけど、それが全てではない。
あの世界にあってこちらには無い物。
この世界の人達の為、力になってくれるそんな存在のみをこちらに送り込んでいるんだ。
あちらの世界で命を落とした者全てをこちらにはこさせられない。
そんな事をすれば世界のバランスが崩れてしまう。ーー
確かに、あちらの世界で事故で亡くなる人は少なくない。 その全てをこちらに送り込むなんてのは無理なんだろうと思う。
(じゃあ私は何故なんですか?)
私の死んだ日にも何処かで誰かが亡くなっているかも知れない。 けれど、この世界に来たのは私なのだ。
ーー君がここにいるのは私と波長があったからだ。
私は神だが万能ではない。
この世界に呼べるのもせいぜい一人だし、呼べるようになるまで数百年の時を待たなくてはならない。
君の幾人か前にこちらへと呼んだ者はまだ私の力が完全に回復しないままだった為、心が壊れそのせいで国が無くなりこの世界のバランスも壊れてしまった。ーー
神だという人の言葉に書を思い出した。
稀人の書の中でこの世界に来たくなかったとただひたすらに綴られていた。
そしてそれはだんだん心が壊れていく様子がわかるかのような内容になっていた。
ーーあの時の稀人は心が壊れ、周りを拒絶していた。
そして、それが完全に壊れたのがあの国の者達のエゴのせいなのだ。
稀人がこちらの世界にやってきたのに世界は安定せず飢饉に日照り、災厄まで起こってしまった。
それも全て稀人が神域に行かないせいだと彼女を責め続けた。
実際には時折訪れていたのだがね。
それを知らない者達が稀人を非難し、そしてついには塔へと軟禁してしまった。
人々の思いに潰された彼女はとうとう塔から身を投げ、この世界から自分を消してしまった。
私は彼女が必死になってこちらに馴染もうとしている様を見ていた。
だが、あの国の者達は稀人がいるのだからもっと良くなるはずだ。
他の国より発展し、暮らしも良くなるはずだ。と思い込んでしまっていた。
稀人を追求すれば今よりもっとあちらの世界の物を伝えてくれるはずだ・・と。
欲望に取り憑かれてしまっていたんだ。
そして、彼女が身を投げたその場所から瘴気が溢れ国は一夜にして没してしまった。ーー
書には書かれていないその時の事を話しながら神様は憂いを含んだ眼差しで私を見ていた。
ーー人々の欲は稀人の心を壊す。
君はそんなことにはならないよう心を強く持って欲しい。
私の加護があるとはいえ心までは守りきれない。ーー
?
なぜそんな事を言うのだろう?
今私がここにいるのと何か関係があるのだろうか?
それを聞こうとしても話す事は出来ない。
それでも私の考えていることはわかるだろうと思い神様に目を向けるとその男性の姿がだんだんと霞んできていた。
ーーもう時間がないようだ。
彩奈。
君には何の力も無いかもしれない。
だが、この世界できちんと生きる目的を持ち、それを為そうとしている君なら大丈夫だ。
心は君だけのものだ。
それを忘れないで。ーー
その言葉を最後に神様は消えた。
そして私もどこかに引っ張られるような感覚とともに目の前が真っ暗になった。
そして次に目が覚めた時にはその時の記憶も、そしてこの世界に来てから今までの記憶も全て無くなっていた。




