まだまだ神域です。
この神域は最初に来た時と同じように空は綺麗な青空で、遠くに見える大きな木と休む場所だろう四阿が一つある以外は見渡すばかりの草原だ。
(あの時も思ったけど、ずっと向こうまで草原しか見えない。)
草原の地平線が見えるので、かなりの広さがあるだろうと予測する。
「ここってどのくらいの広さがあるんですか?」
草原をみながらカルナックに問うと、
(決まってないですね。 見える広さが本当ではないので。)
そう念話で答えが返ってきた。
この神域では虎の姿なので、基本は念話なのだそうだ。
私の言っている言葉は分かるが、虎の姿だと普通に話すのにはむいていないらしい。
なので、私は普通に話してもカルナックからは念話で返ってくるのだ。
さっきのカルナックの言っている意味がわからなくて首を傾けていると、「試してみますか?」とにこやかな笑みを浮かべてきた。
「試す?」
そう聞き返す。
(はい。 あの木と四阿が無い方へ向かって歩いてみればわかりますよ。)
確かに、木と四阿は縦並びになるように一方向のみにある。 言いかえれば、真っ正面に見える木と四阿以外には草原しかないのだ。
(よし!)
気合いを入れて木と四阿を背にして歩き出す。
ふと横を見るとカルナックはついてきていない。 それに気づき後ろを見ると数メートル離れた場所にちょこんと座っていた。
「カルナックは来ないんですか?」
少し声を張り上げるように後ろのカルナックへ向かって問いかけると、頷くような仕草をしたのでカルナックを置いたまま歩き出す。
だが、歩いても歩いても周りに見えるのは草原のみ。 そろそろかなりの距離を歩いたのだろうな・・と思っても草原の地平線はまだまだずっと遠くだ。
(そんなにまだ歩いてないし。 うん!まだまだ行こう!)
感覚的に10分と歩いていないだろうし、地平線が見えるくらいだから近くはないはず。 そう思って一度止めた足を動かす。
はぁ・・はぁ・・
そろそろ息が切れてきた。
ってもうかなり歩いたよね?
1時間?ううん!! 2時間は歩いたはず!!
なのになんで全然何にも見えて来ないわけ??
ただひたすら地平線だけを見て2時間以上は歩いたが、歩けど歩けど目に見えるのは草原だけ。
どんだけ広いのよ!!
流石に足が疲れて少し座って休む。
ーーーと、その時後ろから
(そろそろ疲れたんじゃないですか?)
カルナックの声が聞こえた。
念話って便利だなぁ、こんな遠くまで聞こえてくるんだぁ・・なんて呑気に考えてたが、
「そんな訳ないじゃない!! どれだけ歩いたと思ってんの!」
自分に突っ込みを入れ、カルナックがいるであろう後ろを向くと、
「!?」
私から数メートルしか離れていない場所にカルナックがちょこんと座っていた。
「なんで!? 歩き出してかなりの時間たってるよね!? なんでカルナックがそこにいるの!!??」
草原に響き渡るくらいの大声で叫ぶ。
その声に(どうした? 大声出して。)と木の方からゆっくりと白い虎の姿をしたルドガーが歩いてきた。
「ルドガー・・。」
(彩奈様はかなりお疲れみたいですよ。)
私の状態をルドガーに話すカルナックは、虎の姿なのに何故か微妙に笑っているように感じる。
私の疲れたような様子と、虎なのに微妙な笑顔を見せるカルナックに、ルドガーは首を傾けた。
「あんまり広いからどのくらいあるのかなぁと思って」
私がそう言うと、ルドガーは何かに思いついたのかカルナックを軽く睨みつけるように見た。
(試したのか。)
(はい。一応この神域の事を知ってもらおうと思いまして。)
カルナックとルドガーが念話で話しているのを見てそう言えば・・と思い出す。
確か一番最初に(試してみますか?)そう言ったのだ、カルナックは。
「ねぇ、ルドガー。試すって? 私、かなり歩いたはずなんだけど、何故か最初と同じ所にいたんだけど・・。」
カルナックを軽く睨みつけるように見ているルドガーへ向けて問いかける。
(・・ハァ。 この神域は無限なんだよ。)
「無限?」
(あぁ。 この神域に広さと言う概念はない。 あるのはここを象徴する一本の木と休む為の四阿。 そしてその他には何もない。)
何もない。
確かにここに見えるのはあの大きな木と四阿だけ。 他には青空と草原のみ。
(王族たる私、そして神官はこの神域の事をまず始めに学ぶ。 神域は書いて字の如く"神の域"と書く。 つまり神のいる所だな。 この世界では神は神域にのみ存在する。 目に見えなくともな。)
確かに。
だけど、私のいた所では神様を祀る場所はあってもそこに神様はいない。 神様がいると信じている人だってそうはいなかった。
だけど、ここは違うようだ。
こうやって神がいる場所がある。
しかも、ここへ入って来た時に何故か私にはこの場所がすごく大切な場所だと感じた。
それが何故なのかはわからないが。
(この神域は神のいる場所だ。 だから神に愛された者にとってはとても安心する場所らしい。 そして神に愛された者が穏やかであればあるほど神はその気に癒される。 癒された神はこの世界に豊穣をもたらし、病を癒す。 神に愛された者が一日に一度ここへ来るよう定められているのはその為だ。)
「つまり、私がここに来てゆっくり過ごすことで、外の世界にとってはいい事になるって事?」
(そうだな。 だからこの神域にとって広さは関係がない。 ここが清浄である事。それによって神に愛された者の気が和らぐ。 そしてその気を受けて神が世界を救う。 神域に来て最初にそれを学ぶ。)
「でも、じゃあさっき私が歩いたのは?」
ルドガーの言っている事はわかる。
広さが関係ないなら歩いてどこまであるのか・・なんて、最初にカルナックが言ってくれれば疲れる程歩かなかったのに。
(あぁ・・まぁ、つまり彩奈はカルナックに試されたんだよ。 彩奈がどのくらい歩いたのかは知らないが、恐らくはそんなに時間は経ってはいないはずだ。)
いやいや。
確かに歩きました。
私の中では2時間以上は歩いているはず。
(そうですね。 彩奈様が歩き出して数分で声をかけさせてもらいましたから。)
カルナックによれば、私が歩き出してから少し待った後すぐに私に声をかけたらしい。
おかしい! 時間感覚おかしいから!




