閑話 “きく”の子孫
儀式終了の合図とともに、 祭壇があった部屋の側にある小部屋へと入って行く。
そこには、さっき大勢の神官達と一緒に並んでいたはずのカルナックが、一見するとサンタのような仙人の人と一緒に佇んでいた。
仙人のような人は、肩まで伸ばした白い髪を一つに纏め、その衣服はさっき儀式を行っていたホズローさんよりもかなり豪奢な物を着ている。 瞳はこの世界には殆ど見られないという黒味がかったグレーで、こちらをみているその顔には懐かしそうな雰囲気が漂っている。
一体誰なのだろう?とカルナックを見やる。
「ご紹介させて下さい。 この方が神官長のアルウィン・ロット・サカガミです。 “きく”の子孫になります。」
「初めましてですな。 儂はアルウィン・ロット・サカガミですじゃ。 本来なら今日の主事は儂が行うはずだっが、体調が万全ではない為、大司教にお願いいたしました。
しかし、やはり稀人なるものはどこか面影がありますな。 “きく”もこちらに来た時は子供と見間違えるほど幼かったそうな。 聞けば、稀人様も成人しとるとか。 いやはや・・ 」
カルナックの紹介の後、アルウィンと名乗った人は私を見て懐かしそうに話す。
「初めまして、神崎彩奈と言います。 ・・もしかして、サカガミは“きく”の苗字でしょうか?」
アルウィンさんの名前の最後に日本で使われる言葉を聞き尋ねる。
私の言葉にアルウィンさんは頷くと
「やはりわかりますか。」
そう言って笑顔を見せる。
“きく”の本名は坂上きくと言ったらしい。
“きく”と結婚した神官は“きく”を溺愛し、名前の中に“きく”の苗字を組み込んだ。
生涯“きく”を愛す証に。
そして子々孫々まで“きく”の事を忘れないよう伝えるため。
「本来、それまでの名前に違う物を入れる事はありません。 ですが、稀人が関わればその限りではない。 “きく”の伴侶となった神官はそれまでの家名を“きく”の為に捨てました。 ですが、子孫である我々サカガミはそれを誇りに思っております。」
“きく”と結婚した神官は代々貴族だったらしい。 神官の職が終わり次第、元の爵位を継ぐはずだったらしい。
だけど“きく”と出会い、“きく”を愛し、貴族の地位を捨てた。
サカガミを名乗ることによって。
「サカガミは私のいた日本でも普通の苗字です。 アルウィンさんは私と同じ日本人なんですね。」
私の親戚にも坂上はいる。
身近な苗字に日本を感じる。
私の言葉にアルウィンさんは軽く目を瞠ると、嬉しそうに笑う。 だけどその笑顔に涙を浮かべている。
「儂はこの歳になるまで婚姻しておりません。 “きく”の子孫でサカガミを名乗るのも儂だけです。 神官に人生をかけてきましたが、サカガミの名を残せない事だけが悔やまれます。 神官長である今、婚姻も出来ません。」
アルウィンさんの後悔の滲む言葉に何か言わなければ、と思うが言葉が出てこない。
「私なんかが口を出すとかすごい烏滸がましいですが・・結婚出来ないなら養子・・とか。 アルウィンさんが後悔しない選択をして下さい。」
ただの高校生だった私にはそんな提案しか出来ない。
だけど、後悔だけはして欲しくない。
サカガミの名前をとても誇りにしているアルウィンさん。
その思いを大事にして欲しいと思う。
「ありがとうございます。 養子は考えておりませなんだ。 この歳では子を作ることも用意ではない。 彩奈様のお言葉も考えてみます。」
ーーーーコンコン
ふいに小部屋の扉がノックされた。
「失礼する。」
その声とともに入ってきたのは、ルドガーだった。
ルドガーは部屋の中に、私とカルナックとアルウィンさんがいるのを見てカルナックとアルウィンさんに一礼する。
そうして、私に向かい話しかける。
「そろそろ王宮での披露目の儀が始まる刻限も近いので迎えにきた。」
ルドガーの言葉に頷く。
そういえば、次の王宮での儀式前にも着替えがあった事を思い出す。
「すみません。 行かないといけなくて・・。」
もっとアルウィンさんと話したかったのだが、時間が許してくれないらしい。
申し訳なさそうに謝る私に、アルウィンさんは「いえ、またいずれお会いする機会もございましょう。 私どもはこれにて失礼いたします。」そう言うとルドガーに一礼して部屋を出る。
部屋を出るのを見送った私もそのすぐ後にルドガーとともに部屋を出た。
閑話ですが、少しだけ後々の物語に触る部分もあります。 ネタバレではない・・はず。
少し短いです。




