変化
この世界に来るまでただの高校生だった私が、食堂を開店する。
それはとても考えられなかった事。
でもここに来て、私にも出来る事があって・・
確かに王宮の人達にとって、私の作る食べ物はどれも珍しい物ばかりらしい。
だけどただそれだけでお店を始めようとは思わなかった。
未だお披露目は済んでいないし、お披露目の後には神域へ行くと言う大事な役目もあるのだ。
一日に一度程度で良いと言われても、そこで暫く過ごさなくてはいけない。
そうなると、もしお店を開店したとしても数時間は空けることになるのだ。
それを考えるとやはりまだ無理な気がしていた。
(それにルドガーが・・)
執務で忙しいはずのルドガー。
だけど、毎日私の所へやってくる。
お昼も一緒、夜のご飯も一緒。
たまにルドガーと散歩に出かけると、何故か私を抱いて運ぼうとする。
(全力でお断りしましたが!)
どうやら最初に一緒に散歩した時、つまづいて転びかけたのが原因らしい。
部屋を出られるようになってすぐ、散歩を日課にした私。
今では調理場までが私のお散歩コースだが、たまに中庭まで足を運ぶ事がある。
たまたまルドガーの空き時間があり一緒に中庭まで行った帰り、少し長い時間歩いたせいか中庭から王宮へ戻る所にあるほんの少しの段差につまづいてしまった私。 何故か顔から倒れかけてしまった。
それは、部屋にずっといたせいで体力が落ちてしまって、長い時間歩いたおかげで足が縺れてしまっただけだったのだが。
その時ルドガーに腰を抱かれて顔から落ちるのを免れたのだが、それ以来ルドガーが少し過保護になってしまっていた。
朝、執務へ行く時も必ず私の部屋へよって
「行ってくるから。」
そう一言声をかけるようになった。
昼も昼食を食べながら「怪我とかしてないか?」と聞き、夜は今日一日私が何をしていたかを聞いてくる。
中庭に散歩に行こうものなら、「抱いていかないとまた転ぶかも!」と執務を休んででも私の側に来たがる。
そして、寝る前には「おやすみ」と必ず声をかけてくる。 しかもおでこにキス付きで。
(挨拶はいいのよ挨拶は! だけど「行ってきます」と「おやすみ」の時にあるデコちゅーはどうにかならないの!?)
部屋にいるメイランさんにその事を訴えたが
「ルドガー様、ご機嫌ですねぇ」
としか答えが返って来なかった。
ウェインに聞いても
「春がきたんですよ! 春が!!」
マイクスさんに聞いても
「・・・・」微笑んでいる。
たまにくるカルナックに聞いても
「あのルドガー様が!?」
こんな返事だけしか返ってこない。
(誰かこの状況を私に教えて!!)
私にはそう心の中で叫ぶしかなかった。
ーーーーーーーーーーーーー
私がルドガーの色んな事に頭を悩ませている間に、そろそろ御披露目の日が近づいてきていた。
披露目の儀式まであと10日にせまっていた頃、私は王宮にある部屋で大変な目にあっていた。
「お色はどうされますか?」
「こちらの首飾りなどはいかがでしょう?」
「稀人さま! 頭はお下げになってはいけません!!」
「書の中のここは何を書いていますか?」
ああ!もう!
一変に言われてもわかんないいいっ!!
披露目の儀がせまってきていたのに調理場へ籠って料理を作っていたのは私です。
でも! まさか披露目の儀に色んな事をしなくちゃいけないなんて知らなかったの!!
私が思っていた御披露目は、稀人が来ましたよ〜って皆の前に顔を出すだけ。
服はちゃんとした物になるだろうなぁって思ってはいたけど、まさかこんなドレスを着なくちゃいけないなんて思わなかったんだよ・・。
披露目の儀式にはきちんとした正装が必要で。
しかも稀人専用の服。
稀人が女性なら、白い光沢のあるドレス。
稀人が男性なら、黒い神官に似た服装。
そう決まっているらしいのだ。
しかも! 身体に合わせて生地から選ぶので本当なら作り始めてから二週間はかかるらしい。
(職人さん達がこれから徹夜覚悟で作るそうです。)
それなのに、調理場にいた私。
もちろん採寸なんてやっているわけもなく。
御披露目10日前のこの日にやっと採寸している次第です。
(ごめんなさい〜)
とりあえず心の中で謝っておく。
それに合わせて、当日着用するアクセサリーも決めなくてはいけないし、しかも!披露目の儀でのマナーがあるとかで、それも教えて貰っている最中で・・。
そんな慌しい私の部屋にルドガーの側近である最近見知った熊の獣人のロンバートさんが入って来て、
「ルドガー様が昼食をご一緒に・・と。」
そうルドガーからの伝言を持ってきても、
部屋の中にいるたくさんの人に
「無理!!」
と、断られてしまっていた。
私もルドガーとの食事は楽しみなんだよ?ロンバートさん。
でもね、披露目の儀にマナーがあるなんて知らなかったし、ドレスも着なきゃいけないなんて聞いてなかった。
宝石のついたアクセサリーなんて今まで触った事もないのにいきなり決めろって言われるし、こんな酷い状況なのにカルナックは書の中でわかんない所があるからって訪ねてきているしで、時間なんてないんだよ本当に。
そう説明をしたかったのだけど、ロンバートさんは皆の迫力に顔を青ざめながら部屋を出て行きました。
(ああ、ルドガーに八つ当たりされませんように。)
この戦場になってまだ三日。
だけど、ルドガーと昼食も夜の食事も一緒に出来ないでいた。
最初の昼食をキャンセルした時、「仕方ない」と言っていたルドガー。
その時も少し不機嫌だった。と後からウェインに聞いたのだが、それから夜の食事もキャンセル、次の日の朝の挨拶も疲れきって出来ない、又々昼食もキャンセル・・と続け様に断ると、とうとう前の日の昼食の時間にルドガーが部屋へ乗り込んできた。
だけど、部屋は今のような戦場。
私に声を掛ける事もなく部屋を出されてしまったルドガーはかなり不機嫌らしいのだ。
執務中、ルドガーは一言も喋らずたんたんと仕事をしているらしい。
だけど、その側で働く人達にはそれがとても恐ろしいようだ。
さっき部屋にきたロンバートさんが言うには
まるで蛇に睨まれたカエルのような・・いや部屋の中にブリザードが吹き荒れているようなそんな感じらしい。
しかも、私の断りの返事をもっていった者にはもれなく鋭い眼光がオマケつきなのだとか。
「どれだけ不機嫌なの!?」
実際その場面を見ていない私にはそんな感想しか出てこなかった。
活動報告にも書きましたが、同じ題名の小説があった為、副題をつけさせていただきました。
こちらの小説の方が後になっているので、もう一つを書いている方のご迷惑にならないよう配慮させていだだきます。
これからも"異世界神話奇譚 白虎の王様"をよろしくお願いします。




