私が作る物
「そんな使い方があったんだなぁ。 今までは魚につけて食べるくらいしか無かったし、前の稀人様も調理方法までは残してくれてなかったしなぁ。」
お浸しが出来上がって行くのをみて、バルクシュさんが感心したように話しかけてきた。
確かに、どうやらこの世界では醤油や味噌があってもどのように調理していいのかまではわからなかったようだった。
魚につけて食べる食べ方も醤油をどう使うか考えていた時、たまたま魚に醤油が一滴落ちそれを食べてみたところ美味しかったというのが真相だった。
「誰がやったのかは未だに不明なんだが、それ以来醤油は魚につけて食べるだけになったんだよなぁ。 異世界の物は他の使い方なんてわかんねぇし。」
前の稀人だった“きく”はこの醤油と味噌で調理はしなかったのかな?疑問に思いバルクシュさんに聞いてみると、
「ああ。“きく”はその製造方法は伝えたが、どうやら出来上がるまでに時間がかかるらしく、“きく”がそれを使った事は無かったらしい。 原料になる“大豆”だっけ?あれもこの世界ではなかなか無くてなぁ。 やっとそれに近い物を見つけたのも“きく”が亡くなった後らしいし。」
そうバルクシュさんは続けた。
そういえば、田舎で祖母と作った時も半年とか一年寝かせておく・・と聞いた記憶がある。
(寝かせれば寝かせるほど美味しくなるんだよ)
そういいながら祖母は楽しそうに味噌を作っていた。
「そうですね。確かに出来上がるまで時間がかかる物だと聞いた事があります。」
私の言葉にメイランさんとバルクシュさんは「やっぱり」
「そう言う物なんですねぇ。」
と頷く。
「ところで稀人さんよ? 他にもこれには使い方があるのかい?」
バルクシュさんの問いに私は頷くことで答える。
「はい。 醤油は煮物に使ったり、魚でも照り焼きとか他の使い方もあります。 味噌はお湯に溶いて飲んだり、野菜に味噌を焼いてつけた物を食べたりします。 あ!醤油があるなら麺物も出来ますね!!」
勢い込んで話す私にバルクシュさんは少し引き気味になる。
「そ・・そうか。 」
「あ! まだ料理の途中だったっけ。 」
引き気味のバルクシュさんには構わず、とにかく残りの魚も調理に入る。
白身の魚には予め軽く塩をふっておいたので、早速フライパンを温め魚を焼くことにする。
(フライパンはどこの世界もかわらないんだぁ。)
見つけたフライパンは私が今まで使っていた物と変わらない物だったのだ。
ただ、王宮の調理場らしく様々な大きさがあった。 私はその中で小さめな物を選ぶ。 ここの人達は体格が大きいので、フライパンも大き目な物が多かったのだ。
タレは醤油・砂糖・酒を混ぜておいた。
味醂が欲しいのだが、周りを見てもそれらしい物がなかったので今回は諦めた。
予め塩をふっておいた魚を軽く水洗いして、水気を拭く。
これもキッチンペーパーがなかったので、いつも使うという食材専用の布巾のような物を借りた。
水気をとった魚に小麦粉を軽くまぶしフライパンで焼く。
ここはパンが主食なので、小麦粉はあるのだ。
本当は焼くだけでも良かったのだが、小麦粉をまぶすとタレの味が濃く美味しく感じるので私は毎回このやり方だ。
両面に焼き色がついたら軽く蓋をして蒸し焼きにする。
蓋を開け、作っておいたタレを入れスプーンでタレを時々とりながら回しかけていく。
そうやって作っているのを最初バルクシュさんとメイランさんが見ていたが、いつの間にか調理場にいたたくさんの人が私達の周りを囲むように見ていた。
「へえ。」
「こんな使い方があるのか。」
など、色んな声が聞こえて来ていたが構わず調理を終える。
最初にとったキノコは温めておいたダシ入りのお湯に入れ、味噌を溶きお味噌汁を作る。
薬味がほしかったが、まだよくわからなかったのでそれは次にしておいた。
(薬味が無くても大丈夫だと思うし。)
これで、とりあえず完成した。
魚の照り焼きに野菜のお浸し、お味噌汁、そしてご飯。
漬物も欲しいのだが、浅漬けするにしても時間がたりなかったし、まだどんな野菜があるのか分かっているわけではないので、それも次にする。
「出来た!」
簡易ではあるが定食風にはなった。
「すごいなぁ。魚の調理もだが、こんな短時間で作るとは。」
「彩奈様。これがあちらの食事なんですか?」
「はい。 私のいた所での普通の食事ですね。 そんなに手の込んだ物ではないので時間もかからないんですよ。」
メイランさんとバルクシュさん二人に元の世界の食事の事を話す。
お店などに行けばもっと本格的なんだろうが、私の作る物は家庭料理だ。
他の家事もするので、料理ばかりに時間をとられるわけにはいかない。
家ご飯なので、凝った物を出すのではなく簡単でも美味しく、しかも和風を心がけて作ってきたのだ。
(家ご飯だもん。やっぱり煮物とかが好きなんだよね、私。)
出来上がった物を皆に食べてもらう事にする。
それでもたくさんは無いので一口ずつくらいにはなるだろうが。
「ルドガー様もお呼びしましょうね。」
メイランさんのその一言で、お昼にはまだ早いのだが調理場にいた人がルドガーを呼びに行った。
暫くして扉を開け、ルドガーが入ってきた。
いきなりやってきた王様に調理場の人は少し緊張気味だったが、目の前の料理には変えられないらしく食べていた。
「彩奈が作ったと聞いて急いで来たぞ!」
少し前くらいから私の事を"彩奈"と呼び捨てにしているルドガー。 私も稀人様や彩奈様とか畏まられるよりその方がいいのでそのままにしている。
「うわっ! 美味そうな匂い!!」
ルドガーの後ろにはウェインがいた。
どうやら執務中だったのだが、私の料理のことを聞いて一緒にやってきたようだった。
ルドガーの前にメイランさんが
「彩奈様がお作りになった、魚の照り焼きだそうです。」そう言って魚ののったお皿を置いた。
「ご飯と一緒の方が美味しいよ!」
私の言葉に、ご飯をもらったルドガーは魚を一口食べる。
ウェインもルドガーの半分をもらって食べていた。
「・・・・!!」
「・・美味っ!」
ルドガーは目を見開いて無言のまま魚とご飯を食べ進める。
ウェインは一言声を出すと後はやっぱりルドガーと同じように無言で食べる。
「どう・・かな?」
無言のルドガーにそう声をかけると、あっと言う間に食べ終わったルドガーは私の方をむいて
「美味しい。 今まで食べた事の無い味なんだが・・こんなに美味しいとは。」
笑顔で感想を言った。
「そっか! よかったあ!」
ルドガーの言葉に安心し、私もやっと目の前のご飯に手を付ける。
お味噌汁を飲み。お浸しを食べると、
「それは?」
ルドガーが味噌汁とお浸しを指し、食べたそうにしていた。
味噌汁は多めに作っているが、お浸しは少しだけの為、私の前にしか無かったりする。
「味噌汁とお浸しだよ。・・食べてみる?」
私の言葉に暫く逡巡していたが、興味の方が勝ったのか頷く。
味噌汁を入れてもらいルドガーの前におき、お浸しは小さい皿にわけた。
味噌汁を一口のみ、お浸しを口に入れるとルドガーは納得したように頷きそれもそのままかきこむようにして全て食べた。
「あ! 俺も食べたかったのに!」
ルドガーから少し貰おうと思っていたらしく、ウェインがお浸しの無くなった小皿を指差した。
「魚を分けただろうが! こっちは私だけの物だ。」
ルドガーがそう言ってもウェインを睨む。
目の前のご飯を全て食べ終わった私は、相変わらず子供のような二人のやり取りに苦笑する。
「また、作りますから。」
そう言った私に二人がこちらを向いて笑顔で頷いた。
「・・ここでだけ食べるんじゃなく、皆にも食べてもらいたいな。」
そう呟く私に、
「でしたら、国営の食堂を開いたらどうでしょう? そうすれば味噌と醤油ももっと沢山活用されるでしょうし。」
メイランさんが提案した。
まだまだこちらの食材がわからないので、今はまだ無理だが、もう少ししたらそれも考えてみようと思う。
「もう少し色々作ってから考えますね。」




