悪意
昼食後、ルドガーが相変わらずウェインに連れられて部屋を出たので、ミディアさんとメイランさんと一緒に庭園へ向かう為部屋を出る。
最初、ミディアさんは王宮を歩くのは恐れ多い、と遠慮していたのだが私がどうしてもと勧めたことと、王宮の庭園は半年に一度の開放日にしか見られない事もあり、一緒に行くのを承諾してくれた。
部屋を出て、又も迷いそうな長い廊下を歩く。
同じような扉に同じような廊下。
王宮で働く人は迷わないんだろうか?と疑問に思ったが、メイランさんの説明にあっけなくその答えが出た。
王宮は全部で三箇所に分かれていて、王様が執務をする宮は茶、働く人達がいる宮はオレンジ、そして寝所や客室が点在している宮は白金とそれぞれ色が決められている。
そしてその廊下にも色は使われていて、私のいた部屋から執務室へ続く廊下には白金と茶が使われている。 そして、メイランさんが食事を取りにいく時には白金にオレンジのラインが使われている廊下を行けばいいそうだ。 そして、それぞれの部屋の扉にはこの世界の花が小さく彫られているので、部屋を間違う事も無いそうだ。
ちなみに私のいた部屋の扉の模様は、元の世界で見たことのある百合のような花だった。
もしこの王宮で迷ったら、白金の廊下を進み百合の花の扉へ行けばいいのだ。
(以外と簡単かも。)
そんな王宮の説明を聞きながらもやっと中庭らしき所につく。 庭園は中庭の奥にあるらしいので、そのまま進む。
途中にあったアーチみたいな所を抜けるとすぐに大きな庭にでた。 そこにあったのは庭と呼ぶには失礼なほど大きくて、まるで公園のような場所だった。
(すっごく大きいですね!)
木々はきちんと手入れをされていて、庭園の中ほどには大きな池のような物がある。 その池もまるで湖のように大きく、しかも水はすごく透明だ。 庭園のあちらこちらには色彩豊かな花々が咲き誇っていた。
〔ここはヴィラハルド自慢の庭園です。 これほどの物は他国にも無いでしょう。 普通は一般にも開放されておらず、建国日か新年のみにしか見る事が出来ないのです。〕
(すごいんですね! 私にもここが綺麗な事がわかります! 水も澄んでるし、花も綺麗だし。)
ヴィラハルド自慢の庭園なのがよくわかる光景に見惚れてしまう。
メイランさんとミディアさんと一緒に池の周りをゆっくり歩く。
鳥の鳴き声が近くに聞こえ、花々の周りには蜜蜂や蝶がたくさんいる。 虫はどこの世界でも一緒なんだな、と感慨深く思う。
かなりの時間をかけて池を一周し、元の場所に戻る。 メイランさんのそろそろの言葉を合図に部屋へ戻る事にした。
中庭を通って王宮の廊下を歩いていると、遠くの方から侍女を連れた女の人がこちらに向かって歩いてきた。
その女の人に気付いたメイランさんが少し引きつった顔をしているのを疑問に思っていると、
「あら! メイランじゃありませんこと?」
女の人が声をかけてきた。
その言葉の中にメイランさんの名前が出てきたので、メイランさんの知り合いなんだろうか? そうは思ったが、メイランさんのいかにもな作り笑いに違うことを悟る。
「これはこれはツェリーナ様。 今日はこの王宮にどのようなご用件でお出でなさったので?」
どことなくメイランさんの話し方に険が含んでいる。
「あら、今日は外務長の御父様に呼ばれたんですの。 ルドガー様とのお茶会に呼ばれてるんですのよ!」
「それはおかしいですね。 ルドガー様は昼食後に橋の修繕の事で王宮を出ておられるはずですが?」
「あら?そうですの? ではルドガー様がお帰りになるのをお待ちしてますわ」
「失礼ですが、貴族のご令嬢でもこちらの王宮に用もなくいらっしゃるのはどうかと思われます。」
だんだん女の人とメイランさんの顔が引きつっていくのがわかる。
何を話しているのか、話し方が早くて少ししか分からないがどうやらルドガー絡みでこの女の人はここにいるらしい。
「まぁ、私ほどこの王宮にいて相応しい者はおりませんわ。 だって私、王妃になるんですもの。」
「失礼ですが! ルドガー様とのご婚約はご幼少のお約束事。しかも正式ではありません。 稀人様がいらっしゃった今となってはどこの方であろうとも絶対にあり得ません。」
「ほほほ! 稀人などただの庶民でしかないのでしょう! 王の隣に立つなど分不相応ですわ! 」
女の人はこちらを睨みつけながら何か話す。
「こんな言葉も分からないような庶民にこの国の王妃など務まるわけはありませんわ。 稀人などと言ってもこんなみすぼらしい・・」
「ツェリーナ様! 稀人様に向かってなんという事を!!」
「私、何か怒られるような事言いましたかしら? そこの方には何を言ってるかわかって無いんでしょう?」
メイランさんの怒ったような話し方にその女の人はとぼけたように言葉を返す。
「全てはわからなくても貴方が私に対して悪意を持って話していること位はわかります。」
たどたどしいながらもその女の人に向かって話しかける。
言葉の勉強をしていてわかったのだが、私はたった一日で言葉を聞き取る事が出来ていた。 それが、神に愛された者特有のものなのかはわからないが、まるでスポンジが水を吸収するかのように言葉が頭に入ってくるのだ。 ただし、聞き取るだけでまだまだ話すのはゆっくりになるが。
「! ・・あ・あら、わかっていらしたのね。 なら教えてあげるわ。 ヴィラハルドは上位貴族から王妃を娶るのが習わしなの。 貴方の出る幕はなくってよ!」
「ツェリーナ様! 習わしは稀人様がいらっしゃらない時のみのはずです! ルドガー様も今回はそれをおっしゃったからこそお話は無くなったのですから!」
まるで私がルドガーとどうにかなるような口ぶりに疑問が浮かぶが、この女の人の話し方には少し腹が立つ。
メイランさんへは見下したような話し方をしているし、ミディアさんに対してはそこにいない者として見ているのが丸わかりだからだ。
私にも睨みつけると同時にその態度には侮蔑を含んでいる。
「まぁ、そのうちわかりますわ。 ルドガーの隣に誰が立つのか・・ね。 それでは、ご機嫌よう。」
その言葉を最後に私を見て薄い笑みを浮かべるともと来た廊下を歩いて行った。
話すのが早すぎて全てはわからなかったが、分かった事が一つだけある。
私はあの人が大嫌いだという事に!!




