言葉を学んでいます。
ーーーコンコン
そろそろ食事が終わりかかろうとする時、ふいに扉をノックする音がした。
その音にルドガーが答え、メイランさんが扉を開けると「失礼致します」言葉と共に見たことない男の人二人が入ってきた。
(そういえば、ルドガーとカルナックとメイランさんにしか会ってなかったんだっけ)
王様のいる王宮にいるのに、まだ三人にしか会ってなかった。
まだこちらに来たばかりだという事と、部屋から一歩も出ていないのだから当たり前なのだが。
それでも、私がここにいるのはあまり知られていないはずなので、ルドガーに目で伺っていると
〔とりあえず信用できる何人かには彩奈がここにいる事を教えている。〕
そう返事がかえってきた。
と、いうことは今入ってきた人はその信用できるうちの二人なんだと思った。
一人は父親と同じくらいの年齢の人だけど、子供に無関心でいつも無表情だった自分の父親と違い、立ち姿が真っ直ぐで清廉な雰囲気を持った人だ。 髪も眼もメイランさんと同じ色だが、目尻が少し垂れている所がどことなく優しそうな雰囲気を醸し出している。
そして、その少し斜め後ろにいた人はかなり若い男性だった。 恐らくルドガーよりは年上なんだろう。 少し光が抑え目の銀色をしている髪は長いのだろう後ろでまとめている。そして眼は深い森のような緑色をしていた。落ち着いた雰囲気をもったように思ったのだが、こちらを見た途端に笑みを浮かべて手を振ってくる所がちょっと軽い。 だがその笑顔が少し可愛くて女性にモテるだろうことがよくわかる。
「ルドガー様。そろそろお時間でございます。」
最初に扉を開けて入ってきた父親くらいの人がルドガーに向かって何かを言っている。
私が疑問を顔に浮かべてルドガーを見ていると、
〔ああ、紹介がまだだったな。 今、話したのがマイクス・シューリン。この王宮を管理している執事長だ。 時々私の手伝いもしてもらっている。〕
こちらに気づいたルドガーがそう言って紹介してくれた。
〔初めまして。マイクス・シューリンと申します。こちらの王宮を管理していますので、何か不自由がありましたら何でもお申し付け下さい。〕
そう私に向かってマイクスと名乗った人は深々と頭を下げる。
そして、メイランさんに向けて〔稀人様の事をよろしく。〕そう言い、軽く目配せをする。
その親し気な様子に(あの・・)と、声をかけるとルドガーが二人は夫婦なのだと教えてくれた。
〔シューリンはこの国でもっとも古い狼の一族だ。 優しそうな雰囲気に騙されて煮え湯を飲まされた者が幾人いることか。〕
〔〔まぁ〕失礼な!〕
ルドガーのその言葉にメイランさんとマイクスさんが二人揃った声が聞こえてきた。
そのあまりのぴったり揃った反論に思わす笑みが零れる。
「おいおい!俺の事忘れてないか?」
マイクスさんに続いて部屋に入ってきた人が何かをルドガーに喚いていた。
「あぁ。お前もいたんだったか。」
「ルド・・酷いんじゃないかそれ・・」
ルドガーと男性の掛け合いにわからないながらも、その人がルドガーととても親しい事を知る。
〔彩奈。これはウェイン・ロンダート、内務省的に私を補佐してくれていて・・まぁ私の悪友だな。〕
〔これって・・。こんにちは稀人様! 名前は彩奈ちゃん? 俺はウェイン・ロンダート!ウェインって呼んでな!! ルドからこっちの言葉を勉強するって聞いて、先生役に立候補したから! 明日からよろしく!〕
ルドガーの呆気ない紹介にウェインと名乗った人は明るく話しかけて来た。
〔だれが先生役ってきめた?〕
〔あ!おれ!〕
〔まだ彩奈につける人は決めてないんだが。〕
〔だってこの部屋に彩奈ちゃんがいるのを知ってるのってここにいる人と、カルナックくらいだろ? ルドは政務で忙しい。カルナックは神殿に詰めてるし。
メイランとマイクスも王宮の仕事があるし?
ほら!俺が一番適任!!〕
〔お前なぁ。〕
〔ああ!年上に向かってお前は禁止! もっと俺を敬え!!〕
〔うるさい! 年上らしくない者などお前で十分だ!それに私は王だぞ!〕
〔ルドこそ王様らしくしろよぉ。 彩奈ちゃんに嫌われるぞお!〕
〔・・おま!〕
・・・プッ あはははは!
二人のお笑いみたいな掛け合いに思わず笑ってしまった。
〔・・・ルドガー様。〕
〔・・・〕
私の笑い声にメイランさんは頭を左右に振り、マイクスさんは呆れたように頭を抑えルドガーを呼ぶ。
〔ったくお前のせいで私の王としての威厳が無くなっただろうが。 私は白虎なんだぞ!〕
〔え〜!威厳が無いのは元々だし、虎とか関係無いだろ。それにこれって俺だけのせいじゃ無いし〜〕
〔お二人ともいい加減にして下さい!!〕
まだ続く二人の話にマイクスさんがとうとう眉間に皺をよせて怒鳴る。
〔ほらぁ!ルドのせいで怒られた!〕
〔だから!何で私のせいになるんだ!〕
マイクスさんの怒った様子にルドガーとウェインはそれぞれお前のせいだ。いや私のせいじゃない。とまだまだ言い合いを続ける。
それを今まで黙って見ていたメイランさんがとうとう口を開く。
〔ルドガー様?いい加減にしないとどうなるかお分かりですか?〕
〔ウェイン!あなたもルドガー様にばかり構ってないでそろそろ嫁取りくらいしなさい!〕
にっこり笑顔でそう話すメイランさんだが、何故かその後ろには般若の顔があるようでなかなかに怖い。
〔〔・・ごめんなさい。〕〕
メイランさんに圧倒されたのか、ルドガーとウェインが顔を青ざめながら謝っていた。
もしかして、メイランさんって王様より強いんじゃ・・?
その後、ルドガーはマイクスさんと政務に出る為部屋を出ていった。
ウェインは私に言葉を教えるつもりだったようだが、ルドガーに背中を押されて結局同じように部屋を出た。
言葉の勉強はどうしよう?と悩んでいたが、今日はメイランさんに教えて貰う事に決まり、明日からはメイランさんの娘がこの部屋に通ってきてくれる事になった。
(えっと・・)
「私の名前は、彩奈です。 私はこちらに呼ばれました、稀人です。」
(こんな感じですか?)
〔そうですね。でも、まだ少し硬いように思われますので、「私の名前は彩奈です。私は稀人としてこちらに呼ばれました」くらいがいいんじゃないですか?〕
今はメイランさんにこちらでの自己紹介の言葉を教えて貰っていた。
とりあえず、単語を中心に習って行く事にしたのだが、自己紹介はどうしてもいるそうなので先にある程度覚えておくことにする。
メイランさんに言葉を習っていたが、少し休憩にしましょうとメイランさんに言われた時には始めてから2時間近くたっていた。
メイランさんにお茶を入れて貰い飲んでいたが、先ほどのルドガーとウェインのやり取りを思い出し、ふとメイランさんに訪ねてみる。
(あの・・ルドガーって白虎ですよね? それって虎なので、虎の一族になるんですか?)
私の質問にメイランさんは頷く。
〔白虎は虎ですが、虎から白虎が産まれるわけではありません。 ルドガー様のお父様は虎ですが、お母様は虎ではありませんし。〕
白虎なのに、虎から産まれるわけじゃない?
よくわからなくて、もっと詳しく聞いてみると、この国は代々白虎が王になるそうだ。
ただし、世襲制ではない。
過去には狼の一族から白虎が産まれる事もあったし、熊の一族から産まれた事もあったそうだ。
白虎が王にたち、引退の時期になるとどこかに次代の白虎が誕生する。
次代の白虎が産まれると、必ず王宮にひきとられそこで王になる為の教育が成される。
白虎の誕生は神が定めるとされているらしい。
かなり昔、民に税を課し政務も疎かにした王がいた。
王が王様として国を引継ぎ、引退にいたるまで、およそ150年だと言われている。
だが、その時の王はおよそ15年で次代と交代した。
それは、王が王様としてたち10年たった頃に次代が産まれ、その5年後に王が亡くなった為だった。
次代が産まれる時、神からの言葉を神殿の巫女が告げる。
その時の王は、神から王として相応しくない行いをしていると判断され即位10年にして病に陥っていたのだ。
しかも、それはこの国の誰もが知らない病。
神が天罰を下す時にかかる病とされる物だった。
〔白虎は神の御使いと呼ばれています。王として産まれる白虎が良い行いをすれば、国は永く繁栄します。しかし、神が認めない行いをした時、王は神からの罰を受けます。白虎は人々から崇められる存在であり、最も神に近い獣なのです。〕




