私が出来ること。
それでも、この世界の人々は稀人の出現を喜ぶ。
かつての国が滅亡したのは、その国の王が稀人を大事にしなかった愚王だったからで、そのせいで神から天が降された。と言い伝えられている。
だから国が滅びるといっても、稀人を大事にしてさえすれば必ず繁栄が齎されるのだ。
そう考えて私はふと思いつく。
繁栄を齎す為にはこの世界に元の世界の何かを伝えなければならない。
だけど、ただの高校生だった私に何が出来るのだろう。
この世界の為に私が出来ること。
そういえばここの食べ物の味が塩と胡椒だけの単純な物だった事に気づく。
味噌はある。これはおそらく“きく”が伝えた物だと思う。 “きく”の書に味噌と醤油を作ったとあったから。
だけど味噌はただ、野菜に添えているだけ。
野菜につけて食べるようにほんの少しお皿の端に添えてあった。
醤油は生魚が出た時にあったので、それもつけるだけの物だというのがわかる。
つまり、味噌で何かを作る・醤油で何かを作るという事をしないのだ。
“きく”も、味噌と醤油を普及しただけでそれで何かを作ったりはしなかったのだろう。
味噌も醤油も作るのに長い時間がかかるというのを聞いた事がある。
幸い私は元の世界で料理を担当していた。
毎日の食事にお弁当。
父親の実家にいった時は田舎料理を祖母から習ってもいた。
それをこの世界に広めようと密かに思う。
それにはやっぱり言葉が必要なのだ。
神域には一日に何度か足を運べば良いらしいので、それ以外の時間はこの世界の言葉を習えばいい。
書を何冊か読み終えた後、メイランさんにその事を告げる。
(お願いします。この世界の言葉を教えてください。)
いきなりの私の言葉にメイランさんとカルナックの二人はにっこりと微笑んで了承してくれた。
メイランさんがルドガーも言葉に関して必要な事を話していたらしいので、今日中にはルドガーからその事について私に話をするつもりだったようだ。
これで私がこれからする事が見えてきた。
(とにかく言葉を覚えて、それからこの世界の為に私が出来る事をしよう!)
それが料理だという事に単純な感じもする。
だってこの国にも料理をする人がいるはずなのだ。
私が食べた物も、素材を生かした味でとても美味しかった。 でも、塩と胡椒だけの味ではいずれ飽きてくる気がする。
何しろ私がいた世界は食というものがとても発展していた。 それはこの世界の料理を見ていると手に取るようにわかる。
味噌と醤油がついていても、ただつけるだけではなんだか味気ない。
それにサラダらしき物もでたのだが、ドレッシングも塩とレモンっぽい物を混ぜただけのさっぱりした物ばかりだった。
おそらくだが、マヨネーズなんて物も無いのだろう。
あれも作りたい、これも作りたい。
それを今から考えていると、早く言葉の壁を乗り越えたい。とつくづく思ってしまうのだ。
持ってきた書の内容をカルナックに全て伝え、色々と考えているとカルナックは書の内容を神殿に帰って全て記録する為部屋を出る。
ただ、メモも何もとっていなかったので大丈夫なんだろうか?とは思ったが、声をかける前に部屋を出てしまったので、また書に対して聞きたい事があればその都度話せばいいかと思う。
何時間書を読んでいたのかと思えば、メイランさんのお昼にしましょうの言葉でそれほど時間が経っていない事に気づいた。
昼はルドガーがこの部屋にくるらしいので、それを待って昼食にするそうだった。
暫くしてメイランさんが昼食を持ってくると、同時にルドガーが入ってきた。
私が座っているソファの横に腰掛けるとルドガーがこちらを覗き込むようにしていた。
この応接室はテーブルを真ん中にして一人掛けのソファが4つ並んでいる。
カルナックは私が正面になるように座るのだが、ルドガーは何故か私の隣になるように毎回座ってくる。
メイランさんは私が座るように話しても、侍女ですので、と言って決して座ろうとはしない。
私の祖母までとはいかないが、年をとった人を立たせて自分が座っている事にどうしても慣れなくて、お願いしてお願いしてようやく別の簡素な椅子をどこからか用意して座ってくれた。
それも、ルドガーがいない時だけである。
今もメイランさんは食事をテーブルに用意して忙しく動き回っていて、それが終わると恐らくは部屋の隅の方に下がるのだろう。
昨日の食事の時もそうだったのだ。
ルドガーにもその事を言ったのだが、〔あれは頑固だから何を言っても無駄なんだ〕少し苦笑いをしながらそう言った。
とりあえず、昼食はルドガーと二人で食べる事にした。
だが、テーブルには乗り切れない程の料理が並んでいる。 あまりの量に目を丸くしていると、食べるようにルドガーに急かされ手を伸ばす。
だが、朝も結構な量を食べたので〈朝食も量が多かったのだ。〉野菜サラダをパンに挟んだサンドウィッチを一つだけ選び、置いてあったポタージュスープと共に少しずつ口に運ぶ。
手に取ったサンドウィッチもおよそ元の世界の食パンで5枚切り程のパン二枚にそのまま野菜サラダを挟んでいるようなもので、とてもじゃないが一つだけでお腹がいっぱいになる。 メイランさんに厚切りのハムみたいな物も進められるが、とてもじゃないが食べられないので断ったくらいだ。
サンドウィッチを一つやっとの思いで食べ切り、スープを飲むと食事を終えた事を示す。 この世界ではいただきますや、ご馳走様など食事の前後の挨拶がない為、食事が終わったのを示す為にフォークみたいな物を横に置き直す。
するとそれを見たルドガーが〔もう終わりか?〕と、驚いた顔で聞いてきた。
(その言葉にお腹いっぱいです。)と返すとどこか悪いのか?と心配され、メイランさんにまで医師を呼びましょうか?と言われてしまう。
慌てて部屋を出るメイランさんを止めて、これ以上は入らないと告げると少な過ぎます!と怒られた。
どうやら、この世界の人の食事の量は目の前にあるのが通常らしい。
それはどう見ても大人の男性の食べる4〜5人前程はある。
ルドガーは難なくそれらを口に運んでいたが、私がそんな量を食べられるわけもない。
(私のはこれの5分の1くらいにして下さい)
昨日は私が食べられる程の量だったのに、いきなりこれでは後々困るので、そう言うと昨日はこちらに来たばかりだったので、かなり少なめにしたとの返事が返ってきた。
(私の食べられる量は昨日くらいで丁度なんです。 それ以上は食べ過ぎでお腹を壊します。)
そうメイランさんとルドガーを説得して、何とか今日の夜から量を減らして貰う事に成功した。
ルドガーの
〔そう言えば稀人の食事は微々たる物だったと聞いた事があったな〕
その一言を残して。
最初からそれを思い出してくれればこんなに困る事もなかったのに!!
毎日更新を目指していますが、時々間が空くかもです。
まだまだ序盤なので、頑張って完結目指して行きます。
読んでくれた方々。
ありがとうございます!




