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異世界神話奇譚 〜白虎の王様〜  作者: 下弦の月
稀人の書
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稀人の思い。


応接室でメイランさんの入れてくれたお茶を飲んでいると、暫くして扉をノックする音が聞こえてきた。 その音にメイランさんが扉を開けると、カルナックが何冊かの本のような物を抱えて入ってきた。


それは新しいような物もあれば、古い物もあるようでその事を不思議に思っていると、幾つかは魔法の力で維持されていた。 ただ、あまり昔の物には効き目が無かったとの事。


そして、その本の山が私の目の前に置かれた。

〔こちらが稀人様達の残された書です。私達神官も何を書いてあるのか拝見したかったのですが・・どうやらあちらの言葉で書かれているらしく、こちらの誰にも読む事は叶いません。 ただ、稀人が現れた時には必ずこの書をお読み頂くよう言い伝えられております。〕


その言葉を聞き、とりあえず比較的新しい物から読む事にする。

新しい物と言っても、私の前に現れた稀人でも300年程昔と聞かされたので本当は読めるのか疑問に思っていたが、表紙をめくって読みはじめるとその文字は私が高校で習うような昔の言葉で書かれているのにも関わらず読む事が出来た。


その事に驚き何冊か手にとって見て見るが、どれも全て把握出来る。 中には【日本語じゃないよね!コレ‼】と思うような古語で書かれている物だったり、英語まであるが全て難なく読めてしまう。


カルナックにその事を聞くと、代々の稀人もこの中身を苦もなく読んでいたらしい。

どうやら、神に愛された者はこちらの世界の言葉を理解できない分、元々の世界にあった言語どの言葉であっても理解できるようになっているらしかった。


とりあえずどの本も読めるので、最初に手にとった本から読み進めて行く。



最近この世界に来た人はどうやら江戸時代の人だったようだ。 名前は“きく”とだけ書かれていた。

この“きく”という人は西の方の生まれで母親と、5人の兄妹で慎ましく暮らしていた。 家は裕福とはいえず、“きく”も物心ついた時から畑の手伝いなどをしていたらしい。

だが“きく”が16の時事件がおきる。

“きく”が16を迎えた日に集落を纏めていた裕福な家の息子が“きく”を嫁に欲しいと言い出した。 勿論“きく”の家の親類・縁者は大喜びをした。 だが、その婚姻には裏があった。 裕福な家には確かに息子がいたが、すでにその息子には心に決めた者がいた。 そして、婚姻も間近であったのだ。 そう。嫁に欲しいと言う申し出は息子ではなく、その父親であったのだ。 しかも妾として。 その事を知った“きく”の家の者は猛反対をする。

だが、“きく”が断れば“きく”の家族はその集落を出なければならない。 父親もいない、母親と兄妹だけで暮らしていた“きく”は家族の為その婚姻を承諾する。 だが、“きく”を妾として、迎える事を聞いた裕福な男の妻は激怒してしまう。 その家には“きく”と同じ16になる娘もいたのだ。

その娘と同じ年の妾を迎える事を知った妻は自分が懇意にしている男に“きく”の殺害を命じる。

そして、その男によって“きく”は妾として向かう道の途中で殺されてしまう。

殺される前に自分が何故狙われるのかが知りたかった“きく”は自分を殺そうとする男に向かって殺害の動機を聞いたそうだ。

男は死にゆく“きく”に正妻からの以来であることを話してその場を去る。

そこで“きく”の記憶は途切れた。 そして次に目を開けると不思議な空間に居たそうだ。 “きく”が現れた場所はオルライドにある神域だった。 そこで“きく”は神官とオルライドの人間に出会う。 この世界に来た“きく”は自分が死んだ事を素直に受け止め、この世界の言葉を学んだ。 やはり別の国でも会話は念話のみだったらしい。 言葉を覚えた“きく”は、今度は自分のいた場所の知識をこの世界に広めた。 魔法都市ではあまり育たなかった作物も“きく”が育てると豊富に実る。 それは作物へ栄養分となる肥料をまいたり、土の見直しだったりと私の世界では当たり前の事だったが、この世界にはそれを知る者がいなかったのだ。


“きく”は家で畑の手伝いをしていた為、色々な事を知っていた。 どんな肥料が作物には適しているか、土の具合はどうか、作物どうしを掛け合わせて病気に強い物を作ったりなど、自分が思いつく限りの事をしていた。 それはまさしく研究と呼ばれるものだったが“きく”はただ家族が少しでも裕福になれるように頑張っただけだった。

そして今度は自分が出来る事をこの世界の為に行ったのだ。

オルライドが他に誇れる物は魔法だけだった。 オルライドの土地は作物が育つ環境ではなく、食べ物は主に他国からの輸入でしか手に入らない。 魔力値が高い者はその力であらゆる物を作り出す。 この世界で冷蔵庫に似た物や、コンロのような物、オーブンのような物は全てその者達が作り出した。 作った物を売り、食糧を買う。 魔力値の高い者はそれが出来る。 しかし、魔力値の低い者は物を作り出す事が出来ないので、痩せた土地で作物を作り、生活する。 それがオルライドだった。

しかし“きく”がオルライドへ現れた後、オルライドは飛躍的に発展する。

今まで輸入のみに頼っていた食糧の殆どを自国で賄う事が出来た為だ。

輸入は殆どせずに輸出はそのまま。

それは、オルライドの収入が増え、支出があまり無い事を示す。

今現在、オルライドは一番裕福な国となっている。

そして、それを行ったのが“きく”なのだ。

“きく”はその後、最初に出会った神官と結婚する。

そして、そのころから書に記す頻度が段々少なくなっていき、終わりの方は一年に一度か二度程になっていた。

“きく”は最後にこう書き記していた。


【私はこちらに来て良い伴侶に出会い、良い人生を送らせてもらいました。 一度無くした命ですが、新しい命を貰ったと思ってこの世界で幸せになってほしい。】


最後まで読み終えた彩奈は“きく”がこの世界にきて幸せな一生を過ごした事をカルナックに伝えた。

そして、“きく”を支えた神官と結婚したことも。

(神官は“きく”を常に側で支えていたようです。 良い神官に出会えた事をとても喜んでいました。)

書に記された言葉からカルナックにそう伝える

〔そうですか! この事を神官長様にお伝えすれば喜ばれます! 神官長様は“きく”の子孫ですが、“きく”がこちらに来て本当に幸せだったのか気にしておられましたから。〕


そう話すカルナックは本当に嬉しそうな顔をしていた。


他の書を何冊か読んだが、やはり最後には皆幸せだったと書き記していた。


唯一、英語で書かれた書は最初からかなり困惑した様子だった。

この世界に飛ばされた時、金髪・緑瞳が黒髪・黒瞳に変化していたからだ。

名をルクレチアと記されていたその書には、この世界に来たくなかったといつも書かれていた。

ルクレチアが現れた場所は所謂、霊山と呼ばれる山の麓にある出来たばかりの国だった。

ルクレチアは、神域にも行かず、元の世界の技術を広める事も無かった。

そして、ルクレチアが現れて一年後、その国は地図上から消えた。

その国の民も王も、そしてルクレチアもいなくなったのだ。

そして人々は悟った。

稀人が現れるのは世界の安寧の為だけでは無いと。

稀人が現れる国は繁栄か滅亡かの道を選ばされるのだと。




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