意外だった光景
わたし達一家は夫の休みの日は必ずドライブをして子供達を喜ばせていた。海に山に……。
子供は3歳と5歳の女児。
或る夏の日のこと。
ドライブコースとしては最高の、森林の中の渓谷へやってきた。
観光地としても名が通っており、最近はしゃれたホテルができた。
全国からの宿泊申し込みも多くて、一年前から予約をしなければ駄目らしい。
渓谷の流れが少ない時は、岩場で遊べる空間がたっぷりある。
谷に沿って道幅1mほどの細い道を登っていくと、行き着いた所には「雪輪の滝」という名称の滝がある。
深緑色をした滝壺の水は、訪れる人のため息を誘うほど美しい。
頂上から下りる時は滑らかな大石を滑って降りることができる。
子供達は大喜びして歓声をあげながら滑り下りるのだ。
その日も朝から弁当を作り、勇んで出かけた。
着いた早々に、大きな石の間にシートを敷いて陣取りをした。
「西瓜をあの水溜まりに冷やしておこうよ」
小玉の西瓜を二個、岩場の溜まり水に沈めた。
子供達はプールのような場所で、パシャパシャと泳いで楽しんでいた。
ひとしきり遊んだ後、さあランチタイムだ――。
「さてと、そろそろ冷えてるだろうし、西瓜を食べようか」
ちょっと向こうの方へ浸けていた西瓜を取りに行った。
あれ?あれれ?
ない!
確かに、ここに浸けていたはずの西瓜が……。
きょろきょろ見回していたら、なんと!西瓜を担いで、さっさと向こうへ歩いていってるお猿。
何てことだ!
追いかけたって、猿の足には勝てない。
あーあ。
ここは猿が生息している山の麓の渓谷。
渓谷に到着して車を止めると、道に並んでお出迎えの猿軍団。
ぴょん!と車の上に飛び乗るのもいる。
道端に並んで、赤い顔をした猿達がじっとこちらの様子を伺っている。
女、子供が弁当を提げていたひには、猛烈な勢いで飛び掛って奪い取られる。
相当の覚悟がいるレジャーであった。
あのようなこともあったなあと、懐かしく思う現在です。
あの幼児二人も、今はすっかり大人の女になった。
わたしは彼女らに母と呼ばれるだけではなく、孫から婆と呼ばれる身になっている。
孫をつれてはあの渓谷へは行けないだろうなあ、と思うと残念です……。
「意外だった光景No.2」をお楽しみに。




