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会長と僕のとある日?

「すごい生徒会長さんとやればできる副会長さん」サイドです。

 

 僕が生徒会長になってからしばらく経ったある日。


 生徒会室の中で僕1人、来週に行う新入生対象の抜き打ちテストの内容を考えていた。

 しかし、今日は遅くまで残る事はできない。

 今日はとても大切な日なのだ。


「よし。また今度、先生に確認してもらおうかな」


 去年のテストの内容を参考にテストの内容を作り、一枚だけ印刷を刷る。

 そして、出てきた紙を生徒会長の机の中に入れて鍵を締める。


 本当なら今すぐにでも先生の所へ行って、確認してもらうのが良いのだろうけど今日はそんなことをしている暇は無い。

 なぜなら、今日はある人と待ち合わせをしているから。

 僕は時間を確認して、荷物をまとめる。

 あと、10秒以内に来なければ、ほっていこう…。


 カチカチと秒針が進んでいくのを見ながら、荷物を纏め、生徒会室のカギを持ち、ドアに手を掛けようとする。

 すると、僕が開く前に盛大な音と共に生徒会室のドアが勢いよく開いた。


「お、お、おまたせ!!!」


 おそらく全力で走ってきたんだろう。

 肩で息をしながら、興奮気味の会長が現れる。

 そんな興奮気味の会長を見ながら、やっぱり連れていくの止めようかな…と思ったのは内緒だ。

 正直、僕自身も少し興奮しているのは間違いない。


 なぜなら、あの数カ月前までTVでは見ない日は無いと言うほどの有名人と会うことになっているのだから。

 そして、その有名人の付き添いとして、本を出せばたちまちトップセラーと言われている人気小説家とも会えるのだ。


「わ、ワンちゃん!早く行こう!!!」

「そんな慌てなくても大丈夫ですよ?まだ時間はありますから」

「で、でも!お待たせしたら悪いよ!!!」


 会長は僕の腕を取り、ブンブンと振る。

 普段からテンションが高くて多少鬱陶しいと感じる事があるけど、今日はもう鬱陶しいのレベルじゃない。

 迷惑なレベルまで興奮している。


「会長、興奮するのは分かりますけど、そんな鼻息荒くしないでください。相手に引かれますよ?」

「そ、それはダメ!あの人に引かれたら私死んじゃう!?」

「なら、死なないように息を整えて冷静になってください。ちなみに誰にも言ってませんよね?」

「うん!当然だよ!!バレたら連れて行ってくれないもん!」

「へぇ、綾乃は誰かと会うんだ。それに私にも言えない相手…そして、あの人に引かれると死んじゃうレベル…ここまで興奮させる…この条件を考えると~…あ~、綾乃の好きだった有名人とかかな?」

「な、奈央!?!?」

「…相変わらず勘だけは冴えますね」


 絶賛大興奮中の会長の後ろから二ッコニコの岩瀬先輩が現れる。

 たぶん、興奮している会長に何かを感じ取って面白い事が起きると予想したんだろう。


「綾乃の好きだった有名人……ん~、あ~前に引退した千夏とかそうじゃない?もしくは、紅葉とか?

 綾乃、いつも千夏の出てたドラマとか見てたよね?」

「え?あ、うん!ほんっと綺麗で可愛くて私の憧れの人なんだ~。だから、今日はとっても楽し…み………」

「…はぁぁぁぁ、あなたバカですか?」

「うっ。ご、ごめん」


 二ッコニコだった岩瀬先輩の顔が更に笑顔に変わる。

 さすが昔からずっと会長を見てきただけある。この人に掛かれば会長など簡単に誘導尋問できそうだ。


「へぇ。犬塚くんにどんなコネがあるか知らないけど、あの元トップアイドルの千夏に会えるなんてすごいじゃん」

「僕のコネじゃないですけど。まぁ色々あるんです」

「その辺りも気になるけど、まぁ聞かないでおくよ。それよりも一つお願いしていいかな?」

「なんですか?」

「私は千夏にはあまり興味というか、綾乃ほどファンじゃないから詳しくは知らないんだけど千夏の結婚相手って確か」

「あぁ、紅葉っていう人気小説家ですね」

「そうそう。その人のサインを貰ってきてくれない?」

「あれ?岩瀬先輩、ファンなんですか?」


 なんか岩瀬先輩のイメージとは違うような…。

 紅葉の書く小説って恋愛系が多かった気がする。ドロドロとしてなくて、甘ったるくもない良い感じの恋愛小説だったような…。

 岩瀬先輩なら昼ドラとかにやってるドロドロとしている話が好みのようなイメージだったけど。


「恥ずかしながらファンなんだよ」

「へぇ。でも、女性ファン多いですからね。あの人の本って」

「あの甘くない感じの、でもドロドロしていない絶妙の話が好きなんだ。だからサイン貰ってきてもらっても良いかな?」

「ええ。良いですよ。でも、してくれなかったらその時は」

「ああ。分かってるよ。紅葉は顔出ししない人だからしょうがないから」

「大丈夫だよ、奈央。だって、千夏の夫なんだよ?絶対優しいに決まってる!」

「まぁ綾乃の言うような人だと良いね。それじゃ時間も厳しそうだから私は行くよ」

「あれ?奈央は行かないの?」

「遠慮しとく」

「奈央は紅葉の顔気にならないの?」

「気にならないって言うと嘘になるけど、別に見たいとも思わないよ。それに、想像したのと違ったら嫌じゃない。だから、紅葉も顔出しをしないんだと思う」

「イケメンじゃないとかなのかな?」

「さぁ?私はイケメンでも不細工でも良いよ。彼の書く小説だけで」

「へぇ、岩瀬先輩ってホントに好きなんですね。紅葉」

「まぁね。それじゃ私は行くよ。また明日」


 岩瀬先輩は少しだけ恥ずかしそうにハニカミながら手を振って生徒会室を出て行く。

 あの恥ずかしそうなハニカミ姿はなんだか新鮮で、少しだけ心がキュンとさせられる。

 岩瀬先輩もあーいう顔をするんだ…。


「ワンちゃん!奈央はダメだよ。あの子は私より可愛いもん…取られちゃう…」


 少し岩瀬先輩の背中を眺めていただけでこれだ…。

 会長はさっきまでのハイテンションが嘘のように、テンションが下がり不安そうな顔を浮かべる。

 その姿は僕の心をさっき以上にキュンっとさせられる。


「わ、ワンちゃん!?」


 あまりに心をキュンとさせられたせいで、思わず抱きついてしまった。

 会長のお気に入りのシャンプーの匂いがする。

 少しだけ僕よりも暖かい感じがする。

 僕の腕の中では会長がモゾモゾと抵抗しようと必死になりながら慌てている。


「会長、そろそろ行かないと時間が危ないです」

「だ、だったら早く」

「でも、もう少しだけこうしておきたい」

「うっぅぅ…どうしたの?ワンちゃん」

「どうしたんでしょう?なんとなく抱きつきたくなりました」


 会長が悲しそうな顔をしていたから。なんて粋なセリフを吐けるわけもなく、少しだけ嘘を吐く。

 でも、会長の顔は赤くしながらも笑顔が戻り、僕の背中に手を回してくれる。


「ワンちゃんの心臓の音、落ち着く。とくんとくんって」

「激しく動いてません?」

「ううん。とくんとくんって普通だよ。昔は抱きついたら凄く激しく動いてたのにね。馴れたのかな?」

「さぁどうなんでしょう?」

「馴れちゃダメだよ。ワンちゃんは動揺してる所が可愛いんだもん」

「それじゃ完璧に馴れますね。ちなみに会長の心臓の音はどうですか?」

「私?わたしはもうどっきどきだよ。聞いてみる?」


 上目使いに優しく微笑んでくる。

 僕の視線は会長の心臓。つまり、胸の方へ行ってしまう。


「あっ、少し激しくなった。ワンちゃんはえっちだねぇ」

「しょ、しょうがないでしょ。男なんですから」

「おっぱいに興味ある年頃だもんね~。触ってみる?  あっ、また激しくなった。くすくす、おもしろい」


 ケラケラと楽しそうに笑う会長は僕の心臓の音を聞くために耳を胸に押し当てる。

 そして、わざと胸を僕に押し当てるのだ。


「あ、また激しくなった!ワンちゃんエッチだー」

「………」

「毎日、私の事を厭らしい目で見てるんでしょ?知ってるよ、たまーに胸に視線感じるもん」

「……」

「あ、今も見てる。やらしー、ワンちゃん、やらしー」

「…会長、今すぐ黙らないと本当に触りますよ?」

「へ……あ、わかった!そうやって誤魔化そうと」


 ニヤニヤとする会長を見ながら、僕の頭の中では悪魔と天使が葛藤する。

 このバカにお灸を添えるために触ってやれ!という悪魔。

 このバカは何しても無駄だ!自分の気持ちに素直になれ!という天使。

 つまり、2人とも触れっと言っている。

 そんなバカみたいな葛藤の結果、僕はほんの少しだけ会長の胸に触る。


「ひゃっ!?わ、わ、わ、ワンちゃん!?」

「だから言ったでしょ?」

「こ、ここは学校だよ!生徒会室だよ!神聖なる場所だよ!」

「神聖な行為ですけど?てか、別に」

「ワンちゃん!!!!そこに直りなさい!!そんなエッチなワンちゃんに育てた覚えはないよ!もぅ!学校でそんなことをするなんて信じられない!」

「学校じゃなきゃ良いんですか?」

「………………」


 まるで梅干しのように顔を赤く染め、パクパクと口を開け閉めする会長。

 あ、この反応はOKなんだな…。でも、理性と戦っているわけか。


 そんな会長を見ながら笑いが込みあがってしまう。


「な、何笑ってるのさ!」

「いいえ、それよりもそろそろ行きましょうか」

「うぅ、なんか誤魔化された…」

「大丈夫ですよ。僕は会長の事が一番好きですから。会長の目も顔も匂いも、もちろん胸も全部大好きです」

「うぅぅぅ…は、恥ずかしい…なんか恥ずかしい…」

「ほら、行きますよ」


 今にも爆発しそうな会長の手を取り、生徒会室から出る。

 そして、爆発しないように当たり障りのない会話をしながら学校を出て、駅へと向かう。

 電車がやってくる頃には会長も元通りになり、テンションが高くなり始める。

 そりゃまぁ自分の憧れだった人に出会えるのだから興奮しないわけがないか。

 それに会長自身、千夏の最後のライブに行って、突然の引退宣言を受けたのだ。

 年明け早々から呼びだされて、僕の服がびしょびしょになるまで泣くほどだったんだから、しょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。

 電車がやってくるというアナウンスが流れ、電車が駅に入ってくる。


 本当は僕の家なら歩いて行ける距離なのだ。しかし、駅から家までが若干遠い。

 今から家に帰り、駅に向かうほどの時間はもうない。会長とバカなことをしていたせいで。

 会長もそのことを分かっているらしい。

 電車の扉が開き、降りる客が居ないと確認すると会長は慌てたように電車の中に入る。


「会長、そんな慌てなくてもまだ時間ありますから」

「だって、だって!相手を待たせるわけにはいかないよ!ワンちゃん」

「そりゃ…相手の事を考えれば興奮するのも分かりますけど」

「興奮!?そんな言葉じゃ表せないよ!ワンちゃん!だって、だって…あ、あの…」

「会長、それ以上はトップシークレットです。もし言ったら今ここで降りてもらいますよ」

「黙ります。黙りますから連れて行って…ワンちゃん」

「ちょ、そんな本気で泣かないでくださいよ」

「うぅぅ、今日のこの日をどれだけ待ち望んでたか…」

「わかりました、分かりましたから」


 すがりつくように僕の腕に抱きつき、泣きそうな顔でこちらを見る。

 正直、ウザい…。

 電車の中は他の高校の女子学生数人と大きな帽子を被った女性の隣にカッコいい男性。おそらくカップルだろう。


「ワンちゃん、あとどのぐらいで付くかな?」

「もう少しです。分かってるでしょ」

「あと何分かな?」

「知りません。ちょっと落ち着いてくださいよ、恥ずかしい」


 ちらっとこちらを見るさっきのカップルさんが笑ってる。

 それにしても…なんであんな大きな帽子を被ってるんだろう?

 そんな疑問が浮かびながらも、キョロキョロする会長を抑えるのに必死で、疑問がどこかに飛んでいく。


「ワンちゃん、私すごく興奮してる」

「さっきの続きはここでは勘弁してください。僕、そんな勇気無いです」

「ち、ちがっ!違うってば!」

「だから大声出さないでください。迷惑です」

「だ、だって、ワンちゃんが」

「冗談なの分かるでしょ…はぁ、それで?興奮するのは分かりますけど相手に粗相のないようにお願いしますよ」

「当たり前だよ。絶対にそんな事しない」

「ちなみに僕も会長もおまけなんですから。そこのところを心に刻んでおいてください。メインは僕の父です」


 星井千夏も紅葉も僕の父である光一郎のチーズケーキを食べにくるのだ。

 僕たちは家までの案内役でしか無い。

 だから、楽しく会話するなんて考えちゃいけない。というか、そんなことはできないと思う。

 だって、日本では知らない人はいないほどの人気を誇っている2人なのだから。オーラがあるに決まっている。


「あ~、楽しみだなぁ。やっぱりお腹大きくなってるのかな?幸せそうなのかな?」

「そりゃ幸せでしょ。好きな人との子どもがいるんでしょ?」

「まだお腹の中だよ?でもそうだよね、絶対幸せだよね。…ん?どうしたの?ワンちゃん顔赤いけど?」


 会長は本当に楽しそうな顔をしながら僕に話かける。

 この人との子ども…どんな子になるんだろう…。と少し考えてしまい、顔が赤くなったらしい。

 僕は浮かんだ考えを沈ませるように頭を振り、「なんでもありません」と返す。

 会長は不思議そうな顔をしながらも、あと数分後に起きる出来事を楽しそうに話す。

 そして、少しの時間が経つ。

 アナウンスで降りる駅を知らせ、電車の扉が開くと同時に会長が飛びだした。

 電車内のカバンを置いて。


「ワンちゃん!早く早く!」

「会長、かばん!かばん忘れてますって!」

「あ~~!?」


 慌てて会長のカバンを持ち、会長の後を追っていく。

 会長は改札を抜けると、辺りをキョロキョロと見回す。

 僕も同じように見回してみると、星井千夏と紅葉らしき人は見当たらない。


「ワンちゃん、星井千夏さんはどんな格好をして来てるとか知らないの?」

「それは聞いてないですね。でも、まぁわかるでしょう。あそこのベンチで待ってましょう」

「うん。あ、その前にはしゃぎすぎて喉乾いちゃった」

「買ってきますよ」

「ありがとう。それじゃ~…ミルクティで」

「わかりました。それじゃベンチで待っててください」


 駅のそばにある自動販売機の所へ向かい、会長はベンチの方へ歩いていく。

 自動販売機の前にはさっきのカッコいい男性がいる。

 ここは2つ同じのが並んでいるから特に気にすることじゃないけど。


 僕は隣の開いている自動販売機の方に立ち、お金を入れる。


「え~っと、ミルクティ…」

「えっと…ミルクティ、ミルクティ……」


 隣の人も同じようにミルクティを探しているらしい。

 なんとなく親近感が湧いたような気がする。


「あ、ここ売り切れてる……会長うるさいだろうな…」


 まさかの売り切れ…。

 会長の事だから、ミルクティ以外認めないだろうし…。

 何より、あの人は興奮気味だ。お目当てのミルクティが飲めないとならばうるさくなるに違いない。

 しかし、幸いなことにここの自動販売機は2台あり、入っている種類が同じなのだ。

 隣の男性がお金を入れ、ミルクティのボタンを押す。


 ガタンッと下からミルクティが出ると、ミルクティのボタンに「売切」という文字が浮かぶ。

 ………まさかの展開。

 ミルクティってこんなに売れるもんなのだろうか?それとも僕が会長の胸を触ったから天罰?

 そんなバカなことを考えていると隣に居た男性が話かけてきた。


「このミルクティいる?」


 ミルクティを差し出しながら優しい笑顔でこちらを見る。


「え?でも、お兄さんが買ったんですから」

「いや、売り切れちゃったし。君の彼女が欲しがってるんでしょ?」

「え、えと…そうですけど、あの悪いですから」

「大丈夫大丈夫。ほら、持っていってあげなよ」


 お兄さんもミルクティが欲しそうな雰囲気だったし、もう片方の手にはコーヒーがある。

 勝手なイメージだけど、このお兄さんはコーヒーを飲みそうなイメージだ。だから、このミルクティは大きな帽子を被っていた女性のモノだろう。

 もう一度、ちゃんと断ろう。と思い、声に出そうとするとお兄さんはミルクティを僕の手に乗せていた。

 もう断っても受け取ってくれないだろう。それにしても、このさりげなくできる辺り、イケメンすぎる…。


「あの、お金は」

「いいよいいよ。どうせ小銭だし。それじゃ俺は行くよ。彼女さんを大切にね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 お兄さんは優しい笑顔を僕に送りながら手を振り、ベンチの方へと歩いていく。

 イケメンだ…、顔もイケメンだったけど、性格もかなりのイケメンだ。

 要くん以外にもあんなイケメンがいるとは…。

 僕は感心しながら、僕の分のコーヒーを買い、会長がいるベンチの方へと向かう。


 すると、ベンチの方ではさっきのお兄さんの彼女さんらしき大きな帽子を被った女性が会長と楽しげに話していた。

 というか…あの大きな帽子を被ってる女性って……ほ、星井千夏さん???

 若干ながら帽子の影に見える顔は確かにちょっと前にTVで見た事のある顔だ。

 そして、さっきの電車の中での雰囲気と、現在僕の前で立ち止まっているイケメンのお兄さんは星井千夏さんの彼氏ってことになる。

 ってことは……もしかして、この人が星井千夏さんと一緒に来るって聞いてる九十九楓さんって人で…あの人気小説家の紅葉さん?


「もしかして、あの…九十九楓さんですか?」


 確たる証拠が無いから「紅葉さんですか?」とは言えず、本名の方で聞いてみると、イケメンのお兄さんは苦笑いをしながら僕の方を見る。

 そして、ベンチの方へと視線を戻すと、会長が僕を見つけて満面の笑みでこちらに手を振る。

 その会長の横ではお兄さんの彼女さんが満面の笑みでお兄さんに手を振る。


「あ~…そうです。九十九です。あの子は君の彼女?」

「あ、はい…。すみません…会長。あ、いや、綾乃さんは星井千夏の隠れ大ファンだったんです」

「そっか。んじゃ俺が誰かってのも…」

「はい、分かってます。すみません。あ、僕は犬塚真也です、光一郎の息子です」

「あ~、だからワンちゃん…納得。大変だね、君も…」

「ええ…まぁ…」


 九十九さんは同情の目で僕を見る。

 この人は分かってくれる人だ…。そんな思いが心に響く。

 学校では会長が神としているから、僕がワンちゃんと呼ばれている事に違和感を持ったとしても「羨ましい!」という感情を持たれる。

 だから、九十九さんの同情は新鮮なのだ。そして、かなり嬉しい。


 僕と九十九さんは少しだけ小さなため息を吐いてから、ベンチの方へと向かう。


「ふーちゃん!さっきのカップルの子達が待ち合わせてた子なんだって!」

「ワンちゃん!ほ、ほ、星井ち」

「会長、口を閉じないとここで帰ってもらいますよ」

「うぐっ!?」

「くすくす、この子可愛いね。ふーちゃん、お持ち帰りしたい!」

「チィ姉、今すぐその変な動きをしている手を止めないと帰らすよ」


 会長が大声で叫びそうになるのを止めると、横に座っている星井千夏さんが九十九さんに止められる。

 その姿はもう馴れているの一言。つまり…星井千夏さんってTVで見てたような明るいキャラで、普段はそれ以上に明るいということか…。


「お互い大変な女を好きになったね…」

「そうですね…」

「まぁお互い頑張ろう。馴れれば大したことじゃないから」

「ですね」


 僕の考えている事が分かったのか、九十九さんが苦笑いを浮かべながら言う。

 やっぱり、大変なんだ…。星井千夏さんという妻は…。

 すこしだけ同情をしながら僕は九十九さんとの距離が一気に縮まったように感じた。



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