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チィ姉と俺のとある日?

「才色兼備な姉と普通な俺」サイドです。

 

 季節が春に変わり、ほんわりと温かくなったある日。

 俺とチィ姉は街へと出かけていた。


「ふーちゃんふーちゃん!あっち行ってみようよ」


 チィ姉は俺の腕に抱きつきながら、満面の笑みで、街の中を歩いていく。

 一応、変装をしてはいるが、メガネに帽子という簡単な形。

 だから、注意して見れば簡単にバレテしまうのだ。


 しかしまぁ…これが意外とバレない。

 まぁバレているけど無視してくれてるのかもしれない。


「一応、言っておくけどあなた有名人なの分かってる?」

「元・有名人だもん。もう引退しちゃったんだから」

「それでも、チィ姉は日本で知らない人が居ないほどの人なんだから、ちょっとは考えて行動してよ。

 俺がバレちゃうでしょ」

「大丈夫、大丈夫。ふーちゃんは私のマネージャーっていう感じに私が引退する時に沙羅が情報操作してるから」

「いや、それでも…まぁいいけど」


 チィ姉のこの笑顔を見せられるともう何とも言えない。

 俺はため息を吐きながらチィ姉の引っ張っていく方へと歩いていく。

 チィ姉が芸能界を引退してから約3ヶ月。


 チィ姉が俺に妊娠したということを言ったのが天皇誕生日の日だった。

 そこから俺とチィ姉は話し合いをした。


 今後、どういう風に暮らしていくのかという話だ。

 俺としては身体を大事にしてほしかったし、妊娠したことで芸能活動にかなりの支障が出ると思っていた。だから、できれば休止という形を取ってほしいと頼んだ。

 しかし、チィ姉はそれを拒否をした。


「私ね、この子がお腹の中にいるって知った時に思ったの。もう、この仕事を止めようって。

 だって、この子を大切にしたいもん。もちろん、私はまだまだアイドルしていたいよ?

 ファンの皆にも笑顔で居た欲しいし、皆の期待にも応えたい。

 でも、やっぱり一番笑顔で居てほしいのはふーちゃんだもん。それにこの子にも辛い思いを感じさせてあげたくない。

 だから、私、今度の年越しライブを最後に引退する。

 沙羅にはもう伝えてあるんだ。沙羅もそれが良いって言ってくれてる」


 と、チィ姉は真剣な目で俺に言った。

 この時、俺はチィ姉が本当にお母さんになるんだ。という想いと、自分が家族を支えなければならないという想いが大きくなった。


 そこから、俺とチィ姉は沙羅さん、悠斗、小牧さん、美羽にチィ姉が妊娠したと言うことを公表し、チィ姉の意思を伝えた。

 そして、12月31日。

 日本で最も売れ、人気を得たスーパーアイドルのラストライブ。

 楽しみにしていたファンたちのためにチィ姉は精一杯の楽しいライブを作り、年が明けた時、チィ姉は日本中に居るファンの人たちに自分の状況と心境を語り、引退した。

 この引退ライブはチィ姉が引退してからも未だに伝説として語り継がれている。


「ふーちゃん、ふーちゃん。ほらほら、早くしないと無くなっちゃうよ!」

「そんな慌てなくても大丈夫だって。それに沙羅さんが予約してくれてるんでしょ?それにチィ姉がさっきから寄り道するから」

「むっ!私のせいにするの!」

「チィ姉以外、誰のせいなのか俺には分からない。ほら、早く行かないと相手待たせることになるんじゃ?」

「ああ!?そうだった、早く行こっ!」

「走るなって。お腹出てないけど一応妊婦なんだから」

「大丈夫大丈夫」

「ほんっと…その子がチィ姉に似ないことを願うよ…」


 ピョンピョンと跳ねるチィ姉の頭を優しく叩いて反省させて、目的地の場所へと向かう。

 今日は沙羅さんからのプレゼントだ。

 あの伝説的カリスマパティシエと言われている光一郎のケーキが食べられるのだ。

 それも彼の隠れ家と言われている家で。


 最初は冗談なのか?と思った。

 あの「神が愛したチーズケーキ」と言われ、チィ姉が芸能界で絶頂期だった時でさえ買うことができなかった代物。

 そのチーズケーキを食べられると言うのだから。

 しかし、沙羅さんは「光一郎とはフランスで彼が有名じゃない時から知ってる。あと彼のガールフレンドもね」と雑誌を読みながら、まるで当たり前のことのように言った。


「楽しみだね、あの光一郎のチーズケーキが食べられるなんて」

「そうだけど、ホントに良いのかな?」

「何が?」

「だって、沙羅さんが言うには休暇中なんでしょ?それなのに一応一般人の俺と元・有名人のチィ姉が行ったら迷惑じゃない?」

「ん~、別に良いんじゃない?だって、これを逃したらもう食べられないかもしれないんだし」

「チィ姉…よだれよだれ」


 ハンカチでチィ姉の口元から垂れるよだれを拭きとる。

 本当にお母さんになるんだろうか………。


 俺とチィ姉は電車に乗り、沙羅さんが行っていた最寄駅へと向かう。


「確か、駅まで行ったら待ち合わせだよね?」

「うん。まぁ光一郎が来るとは思えないけどね」

「どうして?」

「あの人、有名人だよ?人が集まって、付けられてでもしたらダメじゃん」

「そっか。そうだよね」


 チィ姉も一緒なんだけど…とは口に出さずに、チィ姉の少しずれてしまっている帽子を正す。

 俺たちの前の席には女子高校生らしい子達が、何やら最近の音楽について話している。

 この子達の中ではもうチィ姉の音楽は過去の物になってしまっているのだろうか?

 たった数カ月でも芸能界の、人という興味は簡単に入れ替わる。


「ふーちゃん」


 ぼけ~っと前の女子高生を眺めていると、横にいるチィ姉が俺の手の甲をつねる。


「若い子をそんなに見てると痴漢だよ」

「見てないよ。それよりもあの子たち、チィ姉の気が付いてないのかな?」

「さぁ?もう私のことなんて忘れたんじゃないかな?」

「ふ~ん…まぁ別に良いけどね」

「そうそう。今は美羽ちゃんが一番なんだから」

「そだね」


 チィ姉が日本に大きな影響を作ったのは真実だけど、今は美羽というトップアイドルが居る。

 前にいる女子高生にとってチィ姉はもう過去の人なのだろう。


 そんなことを考えながらチィ姉とコソコソと話していると、電車が駅に止まる。

 すると、あるカップルが乗ってきた。


「会長、そんな慌てなくてもまだ時間ありますから」

「だって、だって!相手を待たせるわけにはいかないよ!ワンちゃん」

「そりゃ…相手の事を考えれば興奮するのも分かりますけど」

「興奮!?そんな言葉じゃ表せないよ!ワンちゃん!だって、だって…あ、あの…」

「会長、それ以上はトップシークレットです。もし言ったら今ここで降りてもらいますよ」

「黙ります。黙りますから連れて行って…ワンちゃん」

「ちょ、そんな本気で泣かないでくださいよ」

「うぅぅ、今日のこの日をどれだけ待ち望んでたか…」

「わかりました、分かりましたから」


 女の子の方はチィ姉並みの美少女であり、男の子の方はカッコいいというより…なんだろう?可愛い??

 とりあえず、結構お似合いのカップルだ。

 それにしても…なんだか昔を思いだすな…あの感じ。

 そんなことを考えているとチィ姉もさっき入ってきたカップルを見ていたらしい。


「ねね、あの子達可愛いね」

「そうだね。なんか昔を思い出した」

「うふふ、確かに。あの女の子、芸能界に言ったら凄いことになりそう」

「だろうね。誰かさんにそっくりだ」

「誰かさん?美羽ちゃん?」

「本気で言ってる?」

「……わ、私、あんな公共の場で甘えさせて貰ったこと無いよ?」

「当たり前でしょ。あんなことしたら怒ってるもん」


 あの子たちは普通にカップルなのだから許される事だ。

 もし、チィ姉があの女の子のように男の子の腕にすがるような事をしたら…間違いなく怒ってる。

 しばらく、お似合いのカップルをチィ姉を見ていると、ふと気になった事が出てきた。

 さっきから男の子は女の子の事を「会長」と呼び、女の子は男の子の事を「ワンちゃん」と呼ぶ。

 たぶん、会長っていうのは生徒会長とかそこら辺から来ているだろうけど…ワンちゃんってなんだ??


「チィ姉、ワンちゃんって凄いあだ名じゃない?」

「ふーちゃん。ワンちゃん。なんか似てるね」

「その考え方をすると、あの男の子の名前は犬ってことになるけど?」

「犬って書いてケンって読むのかも」

「いやいや、確立低いでしょ」

「それじゃ~…ん~、名前のどこかに犬って字が入ってるとか?ほら、犬ってワンちゃんって言うでしょ?」

「ん~、言うけど…普通に考えて人のあだ名にはしないでしょ」

「そうかなぁ、可愛いと思うけど」


 チィ姉の頭の構造が分からない…。

 人に「ワンちゃん」って呼ばないだろ…。まるでペットみたいじゃん…。

 それなら、あの男の子がワン・なんちゃら。って感じに中国人っぽい名前だと考える方が筋が良い。

 チィ姉はコッソリと少し離れた所に座る例のカップルを見ながら懐かしそうな顔をする。


「高校生って元気だよね。あーやって何事にも楽しんでる」

「チィ姉が言うと説得力あるね」

「まぁね。私もずっと楽しんでるもん」

「これからもでしょ?」

「うん。もちろん。この子と私とふーちゃんでずっと楽しむの」

「俺、頑張らないとなぁ」

「ふーちゃん、頑張ってるよ?」

「これまで以上に頑張らないと」

「たくさん小説書いて、私を楽しませてね」

「頑張らせていただきます」


 これからは本当にこれまで以上に頑張らなければならない。

 チィ姉とお腹の子を守っていかないといけないのだから。


「ふーちゃんもお父さんの顔になってきたね」

「そうかな?」

「うん、すっごくカッコいい」

「そりゃどうも。それよりもそろそろ降りるよ」

「うん。この子も早くチーズケーキ食べたいって言ってるもんね」

「それはチィ姉が食べたいからでしょ」

「そうともいう。でも、この子も絶対食べたいと思ってるよ」

「栄養は行くだろうね。ほら、着いた。行こう」


 チィ姉の手を繋ぎ、優しく立てるように促す。

 そして、沙羅さんに言われた駅に降り立つ。


「ワンちゃん!早く早く!」

「会長、かばん!かばん忘れてますって!」

「あ~~!?」


 隣の扉ではさっきのカップルさんが慌ただしく、でも楽しそうに改札へと走っていく。

 これからデートでもするんだろうか?

 それにしても、あんなに慌てなくてもいいだろうに…。

 俺達は改札を通り、駅の外へと出る。


 ここの駅はそこまで大きくない。むしろ小さい方だ。

 だから、待ち合わせ場所を設定していないんだけど…。


「ん~まだ来てないみたい」

「そうだね。ふーちゃん、あそこに座ってようよ」

「だね。ちょっと俺、飲み物買っておくよ」

「あ、ミルクティ」

「あいよ」


 チィ姉は駅の近くにぽつーんと置いてあるベンチの方へと歩いていく。

 俺はポケットから財布を取り出して、駅の近くに置いてある自動販売機へと向かう。


「えっと…ミルクティ、ミルクティ……」

「え~っと、ミルクティ…」


 自動販売機の中に入っている種類の中からミルクティを探していると、横の自動販売機ではさっきのカップルの男の子がミルクティを探している。

 ……なんだろう?この子に親近感湧いてきた気がする。


「あ、ここ売り切れてる……会長うるさいだろうな…」


 俺がミルクティのボタンを押して、ガタンッと下から出てくる。

 こっちはあるのに隣は売り切れているとか残念としか言いようがない。

 まぁ俺が居なくなった後に買えば………あっ…売り切れた…。


 ミルクティを下から取り出して、自分のを買おうとするとミルクティのボタンに売り切れという文字が光る。

 そして、横の高校生の男の子もそれに気が付いた。

 俺と男の子の間に変な空気が流れる…。


 もし、俺がこの子にミルクティを譲ったとしよう。うん、俺はそれでも良いと思う。

 しかし、チィ姉が面倒くさい…。どうせ「ミルクティじゃなきゃ嫌だ!」とか言いだすだろうし…。

 でも、さっき呟いていたように、この男の子の彼女もうるさいらしい…。

 ……ここはチィ姉に大人になってもらおう…。


「このミルクティいる?」


 横にいる男の子にミルクティを差し出しながら言う。

 すると、男の子はビックリした顔をしてミルクティと俺を見比べた。


「え?でも、お兄さんが買ったんですから」

「いや、売り切れちゃったし。君の彼女が欲しがってるんでしょ?」

「え、えと…そうですけど、あの悪いですから」

「大丈夫大丈夫。ほら、持っていってあげなよ」


 手に持っていたミルクティを男の子に渡して、俺は別のココアを買う。

 チィ姉にはこれで我慢してもらおう。


「あの、お金は」

「いいよいいよ。どうせ小銭だし。それじゃ俺は行くよ。彼女さんを大切にね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 ペコペコと頭を下げる男の子に手を振って、チィ姉が座っているベンチへと向かう。

 すると、ベンチに座っているチィ姉の隣にさっきの男の子の彼女さんが座っていた。

 …もしかして……。そんな嫌な予感が頭の端に浮かぶ。


 あの年頃の子ならチィ姉の全盛期のファンだろう。

 忘れたとはいえ、あんなに近くで顔を見れば思い出す。

 もし、あの子が騒ぎでもしたら、ここの近くの人は集まってしまう。

 そんな嫌な予感が頭に浮かんでしまった。

 しかし、現実は違ったらしい。

 さっき、ミルクティを譲った男の子が俺の横に立つ。


「もしかして、あの…九十九楓さんですか?」


 遠慮がちに俺の顔を窺いながらこちらを見てくる男の子。

 そして、向こうのベンチではチィ姉が俺の姿を見つけ、満面の笑みで手を振る。

 その横では男の子の彼女さんがこっちを満面の笑みで手を振る。


「あ~…そうです。九十九です。あの子は君の彼女?」

「あ、はい…。すみません…会長。あ、いや、綾乃さんは星井千夏の隠れ大ファンだったんです」

「そっか。んじゃ俺が誰かってのも…」

「はい、すみません。あ、僕は犬塚真也です、光一郎の息子です」

「あ~、だからワンちゃん…納得。大変だね、君も…」

「ええ…まぁ…」


 犬塚くんの苦笑いを見て、一気に俺と彼の距離が詰まる。

 そっか、お互い大変な彼女を持ったな…という親近感がそうさせたのだろう。

 俺と犬塚くんは一呼吸をしてから、ベンチの方へ歩いて行く。


「ふーちゃん!さっきのカップルの子達が待ち合わせてた子なんだって!」

「ワンちゃん!ほ、ほ、星井ち」

「会長、口を閉じないとここで帰ってもらいますよ」

「うぐっ!?」

「くすくす、この子可愛いね。ふーちゃん、お持ち帰りしたい!」

「チィ姉、今すぐその変な動きをしている手を止めないと帰らすよ」


 今にも女の子に抱きつきだそうとするチィ姉を引っ張って、距離を取らせる。

 今のこの子に抱きついたりでもしてみろ…この子が正気じゃなくなる…。

 ただでさえ、大ファンだった星井千夏がこんな近くに居て、自分を見てくれているのだ。

 普通のファンなら失神している。


「お互い大変な女を好きになったね…」

「そうですね…」

「まぁお互い頑張ろう。馴れれば大したことじゃないから」

「ですね」


 お互い自分の彼女を抑えながら、目を合わせて苦笑いをする。

 やっぱり、犬塚くんとは意気投合しそうだ。




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