異常
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セラフィは商店街の道を歩いている。
(ここにもいないか。一体どこにいるというのだ、魔王は。大体、その組織の全貌も掴めていないのだろう。なのに、探す必要などあるのか?)
言っていたあの組織とは、朝辰巳たちに言っていた英国騎士団が今、騒いでいるという組織の事だろう。
(にしても・・・・・・)
セラフィは自分の服装を見た。
全身が漆黒色の甲冑で覆われている――といっても、隙間なくというわけではない。胸、腕、腰、脚といった戦闘において最優先して守らなければいけないような箇所に甲冑が装備されている。『なぜ頭は付けていないんだ?』という事には、きっと戦闘において、やはり全身に装備していると重く、邪魔になるからだろう。それなのか、胸などに装備された甲冑も、極端に小さく、そのせいで肌が大いに露出していた。
きっと、セラフィが気にしていたのはこの事だろう。
(さて、ここにも魔王はいない。出るか)
町の人たちが気づかないのは、セラフィは『無色の掛布』を使っているからだ。『無色の掛布』とは、魔法の一種で、魔力によって自分の姿を外部から見えないようにする魔法だ。さらに、内部から外部への音も遮断する。
そんな魔法を使っている為、人が横を通っても気づかれない。
さてと、と言い、セラフィは町を出ようと、一歩踏み出した瞬間、セラフィにとてつもない魔力の重圧が襲いかかる。
「な――ッ!?」
突然の出来事に、しばらく思考が停止した。
(何だこの魔力は、こんなことがありえるのか?)
進めた足を一旦止め、考える。
(もしかして、これが魔王なのか!? それなら説明がつくかもしれない。英国騎士団という一国にも等しい組織から逃れているのだ。これほどの魔力を持つ者がいたとしても不思議ではない)
冷や汗を流しながら、セラフィは考える。
(それで、だとするなら、これは確認しなければ。出来ればこんなことはしたくはないのだが、仕方がない。英国騎士団という組織に加入しいている以上、その組織の目的に沿って行動しなければならない)
魔力の重圧に気押されている足に無理矢理力を入れる。
いくら強力な魔力が出ているとはいえ、そこらにいる一介の町人に感知できるようなことはない。あくまで一定以上の実力と知識を有することでようやく魔力を感知できるようになる。
セラフィは魔力が出ていると思われる場所に向かう。
向かった場所は路地裏にあった小さな公園だ。しばらく使われていないのだろうか、遊具の所々に錆が入っている。
しかし、セラフィはすぐには飛び出さず、物陰に隠れていた。
(落ち着けセラフィーナ=ヴァルキリー。見るだけだ。見たら本部に報告。だから落ち着け)
小さく深呼吸をした後、ちょっと顔を物陰から出す。
夕陽に照らされ神秘的雰囲気を醸し出している路地裏の公園に、一人の女性がいた。しかし、普通ではなかった。
容姿は黒に少し茶色も混じっている髪で、目は少し碧眼寄り。ここまでは至ってそこら辺にいそうなハーフの主婦さんなのだが、
(なんだあの服装は、とんがり帽子にマント?)
その服装に驚きを隠せないセラフィ。
すると、
「やっと来たのねぇ。まったく 、お姉さんをこんな日差しの中に長時間放置させておくなんて。女性にとって紫外線は天敵なんだから」
突如、女性の口が動いた。
「いるのは分かってるの。ほら、そこの物陰に隠れている」
俯いていた顔を持ち上げ、セラフィのいる方に向ける。
(分かって言っているのか? いいや、そんなはずはない。私は今、『無色の掛布』を使っている)
考えているセラフィにさらに女性から声がかかる。
「バレてないと思っているでしょう。でも、多分それ、なんつったっけ? そうそう、『無色の掛布』ね。それ、魔力を全身に覆って発動させる魔法だから、わたしみたいなそれを知っている人にやったら魔力を感知されて意味ないわよ。だから、ね」
(分かっているなら仕方ない、か)
覚悟を決め、セラフィは物陰から出る。
「あら、随分と若いのね。わたしが見てきた中では若い方よ」
「それはどうも。でも、あなたとてそれ相応に若いであろう。それと、あなたは何者だ? 魔王・・・・・・とでも?」
魔王でなくてもあの魔力を持っているということは、相当の使い手だ、とセラフィは思う。
「まさか、わたしは魔王なんかじゃないわ。わたしは――そうね、ただ言うのもつまんないし。さて、わたしは一体どこの誰でしょーうか」
調子良く腰を曲げてセクシーアピール。すると、腕と腕の間にある大きな胸が強調される。
「む・・・・・・」
少しそれが気になったセラフィは自分の胸を見る。
・・・・・・、ない。まな板だ。
可哀想に。
「ほらほら、早く答えてっ」
「一般人ではないのは解るが――」
気を取り直してしばらく考える。しかし、時間が惜しかったようで、女性から答えた。
「ブー残念、時間切れー。正解は――」
ゴクン、と生唾を飲むセラフィ。
「『七人の魔女たち(セブンシスターズ)』でしたー。ちなみに、名前はジョージ・ライリー・スコットです。まあ、ライリーとでも言ってね。よろしくー」
こちらに手を振ってくるライリーだが、その言っていた組織の勢力は英国騎士団と同等、とまではいかないが、それに匹敵する。しかし、大勢の人によってではない。組織の名前にもあった七人。その人数によって構成されている。わずか七人で一国にも等しい英国騎士団と匹敵するほどの勢力を持っているのだ。
「な――ッ!?」
セラフィは驚きを隠せず、思わず一歩後ずさる。
そんなやつが一体、英国騎士団の末端の私に何の用があるというのだ、とセラフィは疑問に思う。
「そんな驚くことはないわよ。別にわたしはあなたと戦いにきた訳じゃないからね。戦ったって、おもしろくもなんともないから」
その一言で、セラフィは多少安堵を取り戻した。
「まあ、どうしても戦いたいって言うのなら、やってあげてもいいけど」
その言葉に一瞬ビクッ、と肩を震わせたが、『いや・・・・・・』と恐る恐る否定した。
ところで、本題に戻ろう。なぜ、七人の魔女たち(セブンシスターズ)という巨大勢力の一人が英国騎士団の末端であるセラフィに接触してきたか、ということだ。
セラフィは英国騎士団内で、『候補者』という枠組みに値する。それは、英国騎士団内では末端――つまり、雑用係りというふうにもなる。だから、そんな雑用係りであるセラフィは『魔王捜索』という危険な任務につかされている事はおかしいのだ。したがって、それほどまでに英国騎士団は焦っている、と解釈できる。それだけの時間、その英国騎士団を騒がしている組織は強力かつ隠密機動に特化しているという事だ。長年――とまでいかないが、長い間その組織を捜索している英国騎士団だが、今尚、組織の全貌どころか組織名さえつかめていない。今は仮の組織名を使っている。それほどまでに混乱しているのだ、英国騎士団は。そんな中、これだ。末端に巨大勢力の一人が接触してきて、もしかしたらこれを機に、英国騎士団を七人の魔女たち(セブンシスターズ)は潰そうとしているのかもしれない。もし、潰そうと考えているのなら、とんでもないことになる。英国騎士団は、世界に数多のパイプ――つまり繋がりを持っている。その繋がりは時に世界経済をも影響し兼ねない。そんな組織を潰してしまったら世界恐慌なんてレベルの問題ではなくなる。それを意味するのは世界の終わりだ。そうなると各国の政治が崩壊する。それほどまでに影響力を持った組織なのだ、英国騎士団は。
「それにしても、英国騎士団もあなたみたいな候補者まで捜索に駆り出されるなんて、切羽詰まってるのね」
ライリーは、近くのビルの壁に立て掛けてあっただろう箒を持つと、セラフィの方へと足を動かした。
「――!!」
思わず一歩後ずさる。
無理もない。あんな恐ろしい存在が近くに寄ってくるのだ。怖くなって当たり前。
「ちょっとぉ、別に戦うなんて言ってないのにその反応はないんじゃない? 泣いちゃうわよ」
ライリーは普通に言っているが、セラフィにとってはそんな場合ではないのだ。どんなに優しく接していても、結局は敵。しかも恐ろしい敵。悠々(ゆうゆう)とした態度でいられる方がおかしいのだ。
近くまで寄ったライリーは、持っている箒をクルっと回し、地面に柄の方を叩きつける。タン! と快音が広場に響き渡り、その後しばらく音がなくなる。
「さて、ちょっと時間を使いすぎたようね。今から本題に入るわ」
今までの目とは対照的にライリーの目は真剣味を帯びていた。
「まあ、別にあなたではなくても良かったんだけど、近くにいたからあなたに言うわ」
「何を・・・・・・?」
「それを今から言うのよ。焦らないで」
片手で焦るセラフィを抑える。
「さっきね、まあ、さっきって言っても数日前なんだけど、仲間から情報が送られてきたの。で、立場的に下であるわたしが、その情報を英国騎士団の誰かに渡してこい、って命令されて、どうせ本部に持ってっちゃったらそれはそれであなたたちから総攻撃を食らうでしょ? それで、幹部クラスの奴等に渡しに行っても何だかんだでどうせ攻撃食らうし、結局のところ、あなたみたいな下っ端くらいがちょうどいいのよ。どうせ、一人で行動してんでしょ?」
はあ、だから英国騎士団みたいな堅苦しい組織は嫌なのよねー、と溜め息を重く付きながら語るライリー。どうやらいろいろと難関を乗り越えてセラフィを選んだようだ。だがしかし、その事よりもまずセラフィが驚いたのは別だ。ライリーは確かに言っていた。『立場的に下であるわたしが』と。それはつまり、まだまだ上がいるということになる。あの吐き気を感じさせるほどの魔力を持っていながらも、それでも、まだ立場的に下。まったく、本当に、恐ろしい組織だ、とセラフィは思った。
「それで、情報とは?」
やれやれ、とセラフィの前で呆れ返っているライリーに、セラフィはその行動に終止符を打った。
「ええ、ちょっとした事――ではないわね。まあわたしたちにとってはちょっとしたことだけど、あなたたち英国騎士団にとっては莫大な価値を持つ情報なのは間違いないわ。絶対に。それで、その情報を持ち帰ったあなたは間違いなく出世できる。どう? あなたも早く高いくらいに登り詰めたいんでしょ。だったらはい、あげるわ。わたしたちが持っていたとしても宝の持ち腐れだもん」
話終えるとライリーは紫色の奇妙なマントのうちポケットに手を忍び込ませる。
(まさか武器を――ッ!!)
考えたセラフィは、腰に装備していた全長八〇センチメートルほどの剣の柄に手をさしのべた。
「違う違う、違うわよ。武器なんか持ってないもの。丸腰、大丈夫よ。武器といってもそういうのはこの箒くらいだから」
ライリーは視線をセラフィから手中にある箒へと向けた。
ま、せいぜい使えるとしても空を飛ぶことくらいなんだけどね、とこの箒の愚痴を言う。
「それで、これがさっき言った情報」
止められていた動作を再開するライリー。マントの内ポケットから出てきたのは封筒だった。A4サイズほどの大きさだ。中に何か入っているのだろうか、少し厚みが感じられる。
「これが英国騎士団にとって莫大な価値を持つ情報だと?」
受け取ったセラフィは、目の前に巨大勢力の一人がいることも忘れて封筒に視線を落とす。
「そう。あなたも早く出世したいんでしょ?」
それは当然の気持ちだろう。誰もが出世して偉い立場になって、お金を稼ぎたい、そう考えるのは人間の真理だ。
しかし、セラフィの回答は違った。
「いや、それは抜きとしても、この情報は戴いておこう。この組織に加入している以上、目的に沿って行動しばければいけないからな」
この場の雰囲気に慣れたのだろうか、少し表情が冷静に見える。
「あら、不思議ねえあなた、英国騎士団の輩は全員金にしか興味がないのかと思ってたのに」
「それは少し誤解だな。さすがに皆全員がそういう思考を持っているとは限らない。ま、いないとも言いきれないが・・・・・・」
封筒に落としていた視線をライリーに向けた。
「さすがにそうよね、謝るわ。で、開けないの? その封筒」
ライリーは箒を持っていない右手でセラフィが今持っている封筒を指差す。
「いや、これはまず本部提出だろうな。私はあくまで末端の人間、こんな大それた情報など今後目を通すかどうか」
「いいじゃない、別に。言わなければいいだけでしょ? あなた少し真面目なだけじゃない、さっきから見ていると、だから、ほら」
ビリ! と勢いよく封筒の端を破く。
セラフィはその光景を見てしばらく唖然とする。
まさか、なぜ――
(なぜ、なぜこの人がこの写真に写っている!? これが、本当に真実なのか!?)
セラフィはなぜ、なぜ故意になかったにせよ、この封筒の中身を見てしまったんだ、と後悔という名の渦で泣き叫ぶ。
そこには――




