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ヴァルキリー家の娘事情  作者: たまご
第二章 イギリスへ
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少女のもとへ

誤字・脱字がありましたら指摘をお願いします。

「・・・・・・!!」

 辰巳は家の前の道で意識を取り戻した。

 何も覚えていない、ただ平穏(へいおん)な風景が目の前には広がっていた。しかし、なぜか辰巳の中はモヤモヤとした違和感(いわかん)が残っている。

(そういやあ、学校行かなきゃ・・・・・・)

 そんな違和感もいず知れず、辰巳の頭には『学校に行く』という当たり前の事が浮かんでいた。


 学校に着いた辰巳は教室に入った。

 室内はガヤガヤと騒々(そうぞう)しく、どうやらもうすぐ担任の磯部(いそべ)が来るのだろう、と辰巳は適当に考えて席へと向かう。

 窓際の席に着くと、後ろから声がかかった。

「なあ、お前にしちゃあ珍しいな、ショートホームルーム始まる直前に学校に着くなんてよお」

 ふと、声をかけて来たのは幼稚園らいからの付き合いがある葛野(くずの)。なんだかモテたい時期らしく、髪を週刊(しゅうかん)誌に載っていたイケメンモデルみたいにセットして、毎日登校している。しかし、その効果は未だに現れない。

「ああ、そういやあそうだな。ま、こんな日もあるさ」

 今は春だというのに結構な暑さに見舞われている足丘市、辰巳は暑さを隠しきれず、ネクタイを(ゆる)め、シャツのボタンをあけた。

「そうか、ならいいけど」

 そう言うと、葛野は事前に開いていたであろう教科書とノートに視線を向けた。

 話も終わり、辰巳は急いでショートホームルームの準備を始める。すると、「やっぱ宿題ムズイわ、見せてくれよ」と後ろからの救援(きゅうえん)要請(ようせい)

「は!? まだ春休みの宿題終わってなかったのかよ。ったく。じゃあ、見せる代わりにジュースな」

 交換条件を出し、宿題を手渡す。

「サンキュー」

 またく、と辰巳は溜息をして、準備を再開する。

 それにしても、まだ違和感が残っている。自分でも分からない、デジャブとでもいうのか、そんな感じのものが残っていた。

「やっぱ分かんねーな」

 独り言を言ったつもりなのに、どうやら声が大きかったらしく、後ろの葛野に聞こえたらしい。

「ん? 分かんねー問題でもあんのか? 理科だけなら教えられるぞ。お前は中一のときから理科だけは分かってねーみたいだからな」

 ニヤニヤしながら言ってくる葛野に、辰巳は軽くあしらった。

「ちげーよ。ただ、なんか気になってことがあるもんだから」

「なんだなんだ? ついに恋愛から無縁だったお前に気になる女の子でも出来たのか。そうかそうか、お前も(すみ)にはおけねーな。誰だ? やっぱ委員長の(えい)()か? 巨乳派なのか? それとも――」

 声が途切れた。そう知った時、葛野は机にうずくまっていた。

「痛ってーなオイ!! (なぐ)るこたあねーだろーがよー。だいたい、そんなんだからモテねーんだろ」

 余計な事を言ってくる葛野に、辰巳は、

「うっせー。そんな事言ってるお前こそどうなんだ? なんだか週刊誌のモデルの真似(まね)してるのか知らねーけどよ、モテてねーだろ。それよりか、昔より悪化してねーか?」

 理由は知らないが、辰巳は激怒(げきど)した。

「な、なななんだと!? 貴様、俺に言ってはならない事を言ったぞ! そんなことはない! 断じてない! あったとしても俺は認めねーぞ、だってこの間だって、女子に声かけられたもんっ! だからそんなの」

「それ、ただからかわれただけじゃないの? どうせ『三年の葛野さんですか? キャー、あれが(うわさ)の――』って感じじゃねーの? お前、去年の夏からその髪型だろ?」

「じゃあ、なんだよ『あの噂の』って、カッコいいからの事じゃないの!?」

 ちょっと涙目になりかけている辰巳の友人葛野、ちょっと同情(どうじょう)する。

「それはただお前が夏休みデビューしたからだろ。今頃夏休みデビューってないだろ」

 もう目の涙腺(るいせん)が崩壊直前の目になった葛野。しかし、そんなことなど気に()めす、辰巳はさらに追撃(ついげき)をかけた。

「それに、ちょっと髪型変えたくらいじゃモテねーっつうの。まず、お前のファッションセンス、絶対に週刊誌見て決めただろ」

「何で分かったんだ?」

「なあに、簡単なことだ。前は去年からブランド物しか使わなくなっただろ、ほら、その筆箱(ふでばこ)もブランド物。つまりブランド物ブランド物って頼り過ぎなんだよ。そのせいか、高いものしか着てなくて、髪と服の一つ一つがあってない。だからだろ」

「そ、そんな――」

 さらに涙目になる葛野、なんだかまた同情してしまう。

「もういい! そんな話は信じないぞ!! この野郎! よくもこの俺に嘘をつきやがったな。クソが――」

 もう(くや)しくて悔しくてたまらないのだろうか、葛野は辰巳にたてつく。

「何だと!? 本当のことを言ったまでだ! 嘘なんかついてねーぞ!」

 むぬぬぬぬ! と両者一方に引かず闘士を燃やしている。そのせいか、顔と顔との距離が物凄く近い。もうおでこ同士がくっついている。

 その時。

「おーい、ショートホームルーム始めるぞ。みんな席に着け」

 ドアから入ってきたのは担任の磯部。顔は頼りないのだが、胸部(きょうぶ)の筋肉はモッコリと膨れ上がっており、両腕の上腕二頭筋は小山のごとく大きい。さらに、服装は黒のジャージのズボンに対し、上は吸水(きゅうすい)性の高いシャツを身にまとっていた。この礒部には、一五歳の時にレスリング日本代表に選ばれかけたとか、ほんの少し前、とある日本一の山で月の輪熊と対峙したとか、何だが恐ろしい噂が後をたたない。まあ、よく生徒指導室に生徒を吊り下げて運んで行くという目撃情報も聞く。

入ってきた磯部は、教室を見渡すと、やけに(さわ)がしい場所を発見した。

「おい、そこ。多田野と葛野、静かにせんか。もうはじまるぞ」

 二人はようやく磯部が入ってきている事に気づくと、ブワ! とすぐさま言い争いを一時中断し、前を向く。逆らうと説教地獄にでもなるのだろうか。

 言い終えた磯部は教壇に出席簿()を置くと、

「じゃあ今日は始業式だ。くれぐれも式典(しきてん)中になんか居眠りこくなよ。それと、この後すぐに始業式は始まるから、終わったら廊下(ろうか)に並ぶように。以上だ」

 目で合図したのだろうか、タイミング良く号令を出したのは委員長の瑛理千智(ちさと)、黒い髪につやのある綺麗(きれい)なロングヘア、顔はぱっと見たら当分は忘れないと思ってしまうほどに明るい雰囲気を(かも)し出している。なんだかいつも告白が後を絶たないとか。一回、葛野も告白してみたが、ことごとくフラれたのだとか。

 磯部に言われたとおり、辰巳たちは廊下に並び、出発した。

 向かった先は体育館。『ここは創設以来、一度も手をくわえていない我が校の(ほこ)りじゃ』と言うほどである。いたるところに黒ずみやひびが走っていた。

(たく、何が『我が校の誇り』だ。壊れたらお終いじゃねーか)

 ぶつぶつ呟きながら辰巳は指定の位置に腰を下ろすと、床の冷たい温度が布を通して伝わってきた。

(やっぱ、体育館はこういうのはいいよな)

 うんうん、と感心しているうちに、始業式は始まった。

 だいたいこういう式典は暇なものだ。先生方の話や校歌斉唱(せいしょう)、校長先生が送る、超暇(ひま)な対談などなど、そんなものが一般的だ。この足丘市立足丘中学校もそんな一般的始業式をやる中学の一つだ。

 ぼーと過ごしているうちに、始業式は終わった。

 号令担当の先生が声をかけ、みんな立ち上がり、礼をする。

「はあ、やっと終わったよ。暇で仕方ねーや」

 列を離れ、前の方にいた葛野の所まで歩み寄っていた。

「ん? まあそうだけど、暇じゃなかったら何だってんだよ」

 ごもっともな意見が出され、二人で微笑を浮かべた。

 

辰巳は授業中であることを忘れて、下校している後輩(こうはい)たちを見下ろしていた。

(たく、受験なんてもんがなかったら俺らだって帰れたのによ、なんだって午後も授業を受けなきゃ何ねえんだよ)

 溜息をしながら、窓の外を見下ろし、適当に授業をさぼっていた。しかし、そんな安息な時間はそう長くは続かなかった。

「これ、多田野。私の授業より下校中の生徒を見ているほうが楽しいか? お前ら三年はもうすぐ受験だろう。集中せんか」

 ベシベシと教科書で頭を叩いてくる教師、柴原。

「センセー」

 辰巳を叱り終わり、教壇(きょうだん)に戻ろうとしているとき辰巳は話しかけた。

「何だ多田野」

 声をかけたのは辰巳、素朴な疑問を投げ掛けた。

「何で勉学なんてあるんでしょうね」

 それを聞いた柴原は(あき)れ顔になって言った。

「そりゃあ、社会に出たら必要だからだろう。ま、お前も大人になれば分かるだろうよ」

 質問も終わり、立ち去った柴原、また声がかかった。

「センセー、俺もう電車は大人料金です」

 教室中が笑いで(うま)った。

「あのな、多田野。私が言いたかったのは・・・・・・」

「あーオッケーです。すいません」

 まったく、と柴原は言い残し、授業に戻った。

 その後というものの、やはり、辰巳は授業に集中することは出来なかった。それは、暑い事もあるだろうが、そんなことより、どうもなんだか違和感が残っている事が一番だろう。

 そんなことで今日一日が終わった。

 帰り際、葛野が『カラオケ行こうぜ』と誘ってきたものの、辰巳は軽くあしらい学校を後にした。


 帰宅した辰巳に待ち受けていた試練があった。

 買い物だ。

そんなの昼にいくらでも行く機会があったろうと、反撃(はんげき)した辰巳であったが、『ごめーん、忘れっちゃったのよ、お願いだから行って、ねっ』と手を合わせられ言われたので、さすがの辰巳も(ことわ)れられずに引き受けてしまったのだ。

「ったく、しかたねーな」

 気を取り戻し、覚悟(かくご)をすえた辰巳はしぶしぶ買い物に行くことになった。

 

 ここら一帯にはスーパーと言えるものが存在しない。代わりに商店街がある。

 辰巳は買い出しの品メモを持ちながら確認していた。

(えーと・・・・・・人参にじゃがいも、玉ねぎか。それにウコン、コエンドロ、こしょうにショウガ、唐辛子。・・・・・・? コエンドロ? なんじゃそれ、そんなもの一体何に使うんだ?)

 せっかく途中までは今晩の夕食のメニューが出来あがっていたのだが、間に変な、聞いた事の無い食材が割り込んだため、瓦解してしまった。

(ま、分かる食材だけ買って、後はいっか)

 結論付けた辰巳は、結局分かる物だけ買うことにした。

 その時、

 視界の隅にふとどこかの城の天守閣(てんしゅかく)連想(れんそう)させるような綺麗な金色の髪を持った髪が(なび)いていた。しかし、あんな綺麗な、見たら少し視線を向けてしまってもおかしくないくらいに綺麗な髪があるのに、周りの人たちは見向きもしない。それよりか、その存在自体がないような気もする。

 辰巳はすぐにそちらを見た。初めて見るような感覚はない。まるで、一回どこかで会ったような感じがあった。いわいる()()感というやつだろう。

 今までの辰巳ならそんな既視感もなく、ただ、『可愛い』と思っただけで、すぐに買い物に戻るだろう。しかし、今の辰巳には既視感がある。そのせいだろうか、辰巳は足を動かしていた。その見とれてしまうような金色の髪を持つ少女の元へと。

 あの少女が朝からの違和感の(なぞ)を握る鍵だと、そう本能が叫んでいる。


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