説明
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「――ッ!」
同時に、歯を食いしばった辰巳。
しかし、痛みは無かった。
あるのはただ無情にも過ぎていく時間のみ。しばらくたっても何の変化も起きないため、辰巳は思い切って目を開けた。
そこには――
「なぜ、なぜ当たっていない?」
驚いている少女だけだった。
辰巳は疑問に思う。
(何が・・・・・・?)
思わずあたりを見回すために首を動かす。
ふと、右を向いた時、辰巳の目には玄関のタイルが黒こげになっている箇所が飛びこんできた。
「――ッ!?」
直感だけで、考えることも必要なしで分かった。
――コイツ、普通じゃない。
追撃を受ける、と思った辰巳だったが、少女がとった行動は真逆だった。
「チッ! まあいい。それより、ご飯を頂けるかな」
下げた剣を腰に備え付けている鞘に戻すと、少女はそのまま辰巳を見下ろした。
しかし、辰巳的にはこんな場合じゃなかった。
ふざけんじゃねえ! の一言でも言いたい気分、状況なのだが、今そんなことを言ってしまったら人生が終わってしまう。
つまり。
今ここでは少女には逆らわない方がいいということが辰巳の中で結論付けられた。
そういうことで、案内することになったのだが、もうおんぶをする必要は無いらしく、少女は普通に立っていた。
台所は玄関を上がり、そのまま真っすぐ行った所にある。そこに、四人がけの木製のテーブルが設置されていた。
どうやらもう既に、先ほどの事情を聞いていた辰巳の母は台所にて調理を開始していた。
「母さん、連れて来たけど」
背後を警戒しながら辰巳は言う。
「ん? あらそう。じゃあ座っているといいわ」
後ろにいる少女のことはスルーで、母は手元に視線を据えたまま、席を勧めた。
「ではお言葉に甘えて」
言葉通り、少女は席へと座った。
さすがに辰巳にあんなことをさせた相手だ。母をあんな危険要素満載な美少女さんと二人きりでいさせるなんて到底出来るわけがなかったみたいで、辰巳はその少女の反対側の席を取った。
幸運なことに、まだ学校までに時間はあった。
しばらくすると、料理を持った辰巳の母が辰巳たちのいるテーブルへとやってきた。
「ごめんね、こんなつまらないものしかなくて・・・・・・」
本当に申し訳なさそうな顔をする辰巳の母。
(いや母さん、こんな得体の知れない服装をしたヤツに料理を出してやるだけでものすごいことだぞ)
対して、辰巳は少女のことを警戒していた。
「いえいえ、そんな。頂けるだけで有難い事ですよ」
料理を受け取った少女は、目をキラキラ輝かせながら料理を受け取る。
母は辰巳の隣の席に座り、
「(どうしてあんなのに料理上げるんだよ)」
少女が母の持って来た料理にがッついているうちに、辰巳は母に小声で言った。
「(あら、あなたがここに連れて来たって事は、それなりに信頼できる人なのでしょう? だから、よ)」
(いや、連れて来たっていうよりは、あんな事をされて強制的に連れてこされたというのが正しいんだけど、何か変な事もあったし、どうせ信じてもらえねーだろうし。はあ、今日の運勢最高だったのに、逆じゃねえか)
はあ、と溜め息をついた辰巳。
「そういやあ、名前は?」
味噌汁を飲んでいる少女に辰巳は尋ねた。
まあこんな状況で聞くのは危険を伴うだろう。しかし、そんな危険を冒しても聞かねばならない事が少しならずあるのだ。
「ん? 名前か? 私の名前はコロスーゾ=ヴァルキリーだ」
瞬間、辰巳の頭の中で危険信号が発していた。
(いや、今何か変な単語混じってなかったか!? もしかして日本語ではそういう意味なのかもしれないけど、別の国では違う意味ってことか? どっちにしろ危ないな。名前を付けた親の気がしれねーぜ)
内心、冷や汗をかきまくっているのだが、まずはこの少女の名前が分かっただけよしとしよう、と勝手に結論を出す。
「いや失敬。噛んだ。正しくはセラフィーナ=ヴァルキリーだ。まあなんだ、長いからセラフィとでも呼べばいいだろう。こちらはそんな気にしておらんからな」
間違えるな!! と辰巳は叫び、名前に関する疑問は消え去った。
言い得終えると、セラフィと名乗る少女は終盤の野菜炒めへと箸を伸ばしていた。
しかし、まだ大いなる疑問が他にあった。辰巳はその疑問点を探すべく、頭をエンジンのようにフル回転させ――る必要は無かった。
それは服装だ。どう見たっておかしいこの服装。
漆黒色の甲冑に、胸、腕、腰、足といった重要な所にしか着物をつけていないのだ。そんなの、誰もが疑問に思うべき事だろう。
「それで、セラフィさん、でいいんだっけ?」
「いや、呼び捨てでいい」
「・・・・・・セラフィ、何でそんなその――」
動かしかけた口を一旦止める。言いにくい、と考える。何でそんな格好してんだ? と聞けるわけがない。そんな事が平気で聞ける方がおかしい。いわいる無神経というやつだ、と辰巳は思った。
「何だ? そんないちいち言葉を区切るな。こちらとしても何だかイライラするんでな。何でも聞いていいぞ。こちらとしてもやはりその方がいい」
「じゃあ聞くけど、何でそんな服装なんだ?」
(まさかコスプレなんて事じゃあるまいし)
その質問に、セラフィは躊躇することなく、
「ああ、何だその程度の事か。私はてっきり貴様が私の事を変な目で見てその辺のホテルにでも連れて行ってあんなことやこんなことをさせるための口実でも言うんだと思っていたのだが」
言った瞬間、辰巳の母の見つめる目が肌身も凍るほど冷たくなった。
「そして――」
「分かったもういいから、俺が聞きたかったのはその程度のくだらないことですから! もうそれ以上何もいわないで!」
泣きつく辰巳。なんだか一方的にやられているように見える。
「そうか、ならやめよう」
言うと、セラフィは野菜炒めを食べ終え、お茶を啜っていた。
「この服についてだったな」
お茶を飲みえ、ようやくセラフィは先ほど辰巳に聞かれた質問の回答にようやく着手した。
「これはその、英国騎士団の制服兼戦闘服というのだがな、決してコスプレというような不純な目的のために作られたのではないぞ。ただ、英国騎士団の団長がこういう特殊な趣味を持った人であって、私が独自に制作したものではないっ! 決してだ!」
顔を青森産のリンゴのように真っ赤にさせたセラフィ。
(貴様、今世界中のコスプレイヤーの人たちを全否定したぞ!?)
心の中では絶叫しているのだが、辰巳はそういう風な趣味は持ち合わせていない。
「てか、何だ? 英国騎士団って・・・・・・?」
真っ赤な顔を深呼吸で落ち着かせ、セラフィは答えた。
「ふむ、英国騎士団というものは、主に世界のバランス――つまり平和を乱さぬように世界の裏で暗躍する組織であって、その行動範囲は全世界にも上っている。そのため、世界にさまざまなパイプも築き上げている。まあ、主な活動を大雑把に言ってしまえばこんなものだ」
「裏でって、警察みたいなもんか? 例えるならアメリカの『CIA』とか『FBI』みたいなさあ――」
まあそんなの当たり前か、と思って答えた辰巳だったのだが、セラフィの顔色が突然生き生きした感じになった。
「ふん、そんな表の小規模な組織と一緒にされては少し困る。『CIA』などという極小規模範囲でしか活動できない組織とな」
(また言っちゃったよコイツ。全世界の『CIA』『FBI』で働いている人の事全否定しちっまたよ!!)
また、心の中で絶叫している辰巳。
しかし、そんな辰巳のことなどお構いなしに、セラフィは話を続ける。
「それで、この頃妙な組織が現れたのだ。大抵の事ならすぐにかたがつく。しかし、この組織はそうはいかないのだ。私もよくはその組織については知らない。私は下っ端に近い存在だからな。だが、組織の名前とリーダーの仮の名前なら聞いた」
妙な組織。英国騎士団は、大抵の事ならすぐにかたがつく、とセラフィは言っていた。その大抵のことと言うのはテロリストの即殲滅。盗まれた絵画作品の回収といった、そう簡単にはいかない事柄ばかりだ。テロリストの殲滅といっても作戦という名のトラップを二重三重と仕掛け、突入し、殲滅ではなく、指令を受けたら即出動し、あっさりと殲滅するということでの事で、だ。
そんな凶悪なテロリストをもあっさり殲滅させるような組織が、そう簡単には行かない、と断言しているのだ。
「じゃあ、お前はその組織を追って、ここまで来たってことなのか?」
「いや、そうであるのだが――」
質問に言葉を濁すセラフィ。
「ってことは、朝お前が倒れていたのはその組織に追われて、やられたというのか?」
つまりそれは、こう解釈することもできる。
朝何時に襲撃されたのかまでは定かではないが(朝かも分からないが)、まず、セラフィが襲われたというとすると、ここ近辺でということになるだろう。さすがに襲われた状態で何キロも歩くことには無理がある。となるとやはり、ここ近辺で襲撃されたということに間違いは無いだろう。
つまり、
まだこの近くにその襲撃者がいるということになるのだ。
しかし、襲撃されたと仮定したとしても、その当人であるセラフィに襲われたような外傷は見当たらなかった。
「いや、確かに、襲われたと解釈するなら、そういう考えも浮かぶであろうな。だが、違う」
セラフィは辰巳の発言を否定し、自信満々(まんまん)の表情を顔に浮かべ、こう言った。
「私は英国騎士団から給付される今月の金をすべて使い果たし、挙句の果て、今月の食費が無くなってしまったのだッ!!」
(ようはただ単に最初調子こいて金を使いすぎたってとこか、まあ簡単に言うとドジったってことだな)
思った途端だった。
「まあそういうことだ」
辰巳は口を開いていないのに、セラフィがまるで辰巳の心を読み取ったかのように言った。
辰巳の母は、『何でこの子独り言、言っているんだろう?』といった感じの表情になり、辰巳は内心疑問符がたくさん出て、訳が分からなくなっていた。
(つーか今心の中読んだ? でも、そんなの本当にありえんのか? もしかすると、ただ自分で考えていた事が口に出て偶然被ったってことも――)
「それはないな。私は確かに貴様の心の中を読んだ」
即答だった。
セラフィは食事を食べ終え、腕を組んで言ったのだ。
「まあこれは私たちにとってごくごく当たり前の技術だ。そんな驚くことは無い」
(いや、当たり前の技術って、そんなの――)
思わず顔を苦くする。
「え? ちょっと、たっちゃん、さっきからどうしたの? 顔色悪いわよ?」
たっちゃんとは家族内の愛称だろう。そこに、嫌味度マックスの顔色になったセラフィが会話に入り込んでくる。
「ふん」
鼻先で笑った。
嫌な奴だ、と思う辰巳。
人生そんなもんだ。
顔を真っ赤にさせ、俯いていると、
「私はこれで失礼させてもらう。おいしいご飯すまなかったな」
言い、もう一度辰巳のことを見た。
「たっちゃん・・・・・・くっ!」
また笑った。
立ち上がり、出て行こうとするセラフィ。
(早く行っちまえ)
と、辰巳は心の中で念じていた。
しかし、セラフィは一旦ドアの前で立ち止まった。
「(いかん、つい末端の情報であっても一般社会には流してはいけないのであったな)」
小声でゴニョゴニョ言っているが、少し距離があるため、聞こえなかった。
「すまぬがちょっと二方に礼がしたいんでな、少し頭をこちらに出してくれはせんか?」
特に断る理由が見つからなかった辰巳とその母。言われたとおりに頭を少し前に出す。セラフィはこちらに近づき、両手を辰巳たちのおでこにかざした。
瞬間、
「な――ッ!?」
グラリと辰巳と母の体がふらつき、倒れた。そのまま、辰巳たちの意識が暗闇へと消えていく。
(一体、何が――?)
辰巳の意識は消えた。




