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ヴァルキリー家の娘事情  作者: たまご
第四章ワルキューレ
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これからすべきこと

誤字・脱字がありましたら指摘をお願いします。

セラフィはホールの隅で唖然としていた。

(消えた・・・・・・)

 考える。

 確かあれは辰巳――いや、カマエルから放たれた圧倒的な魔力を感じてから、すべてが変わった。

 キッシムも戦闘を放棄しており、今はカマエルと話をしていた。それも、何やら楽しそうにだ。

 分からなかった。

 しかし、戦闘が終了したということは分かる。

 だが、なぜあの敵同士であったあの二人がああやって話していることも疑問だが、それよりもっと根本的な疑問があった。

 それは、辰巳の中になぜ天使という霊的存在であるべき存在が宿っていたか、ということだ。だったら、あのカマエルという天使が持つ莫大な魔力が無意識下の内に流れ出し、気づくはずだ、と。そうあるべきなのに、全く感じられなかった。

 そう思っている頃だ。

 キッシムとの愉快な会話から離脱し、カマエルがセラフィの方へと近寄ってきた。

「すまねえな。怪我はなかったか? ついムカっとして最後本気を出しちまった。精神的なダメージとかは?」

 それもない、とセラフィは返した。

 それより、よセラフィは疑問をぶつける。

「本当に天使なのか? だとしたら、なぜたっちゃんの中にいた」

「そりゃあ――」

 言葉を濁す。

「堕ちたんだよ。と言っても堕天使ってわけじゃねーぞ。ただ、ヘマをして天界から下界に堕ちたっつー意味での、だ。そしたら丁度こいつの中に入っちまったってわけだ。そしてこの数年間、出る方法も分からず、眠ってた。そしたらある日いきなり身に覚えがある感覚がして、その攻撃を軽くあしらったんだよ。多分それはお前が放った『ウィル・オー・ウィプスの輝き』っつーやつだったかなー。そんな、やつだった。それでもまだ寝ぼけてて、また眠っちまったんだよ」

 その台詞の一部分に、セラフィは着目した。

 だから、たっちゃんに攻撃が当たらなかったわけか と。ようやくモヤモヤが吹き飛んだ。

 さらに、カマエルは続ける。

「そいで、そこいいるキッシムっつーやつの魔力で目覚めたってわけだ」

「そうだったのか・・・・・・」

 少し恐怖も残るが、セラフィはふう、と溜め息をつき、一段落つこうとした。だが、またしてもカマエルが言った。

「そうそうそれとだな、キッシムについてなんだが、あいつはここから、逃がしてやってくれ。あいつはこれからちょっくらやんなきゃいけねー大切な用事が出来ちまってよ。部下を引き連れて、ある場所へと行かなくちゃなんねー。もちろん、武力とかは使わねーし、喧嘩なんて物騒なモンはしねえ。ただ、ちょっと昔の因縁を絶ちきりに行くだけだ。その後は――まあ楽しくどこかで暮らしていくだろうさ」

 言われているキッシムはその場を立ち上がり、ホールの外に出ていってしまった。

 それを不安そうに見つめていたセラフィが嘆息を漏らした。

「本当に・・・・・・大丈夫なのか?」

「まあやらかしはしねーだろうな。でも、今度の作戦が失敗しちまったらまた戻るかもしれねー。でも、今のアイツなら大丈夫だろう。立ち直った、っつたほうが良いのかもな」

 そして、先程出ていったキッシムはホールの外に待機させていた暗黒組織(ダークマター)の要員を引き連れて、カマエルとセラフィたちの側までやって来た。

 要員たちの表情は、今もなお警戒の色を消してはいなかった。

 そんな中、キッシムは言った。

「では、私は新たな方法で道楽者を見返してやる。それと、その道楽者にこきつかわれていた人たちも救出する。色々と迷惑をかけてすまなかった」

 軽く頭を下げるキッシムを見て、カマエルは照れ臭そうに、

「なんだよそんなことか。いいって、別に気にしちゃいねーよ。それに、礼を言うのはこっちの方だ。久々に楽しい事が出来たからよ。こんなのは数千年ぶりだった」

 これを、満面の笑みで言うカマエル。

 セラフィは何かおかしくないか!? と心のなかで疑問に思いながらも、ここは両者の思いを優先して、ぐっと堪えることにした。

 その後キッシムたち暗黒組織(ダークマター)はその場に消えた。

 静寂がセラフィの周りを包み込んだ。

「やはり、本当に大丈夫だったのか?」

 その静寂の中で、セラフィはカマエルに尋ねた。

「知らねーよそんなこと。さっきもいったろ、あいつは心を入れ換えた。それでいいじゃねーか。問題を起こしたら俺が止めに行きゃあいいだけだろ」

 そうか、とセラフィは言うと、キッシムの事を思い返した。

 大いに世話になった。そして、その恩も返せないままキッシムはどこか知らない遠くに行ってしまう。そう考えると、今までの悪行はともかく、礼をしないと気が済まなかった。

 もう足が勝手に動いていた。

 出ていった扉を乱暴に開け、十数メートル先にいたキッシムに言う。


 ――今までお世話になりました、と。


 キッシムは振り返らずに、腕だけあげ、振ってきた。それだけで良かった、と思う。

「気がすんだかい、ヴァルキリー家のお嬢さんよ」

 後ろにいたにはカマエル。

 その受け答えに、ああ、とだけ答えた。

 会話は繋がらずとも心は繋がっている。

 その後、セラフィはあることを思い出した。

「そういえば教授はどうした? それと英国騎士団の皆は!?」

「? 何だそんな事か。それならあっちの方のここみたいな感じのホールに押し込めておいたぞ。念のため、扉の鍵は閉めておいた。邪魔されちゃあ面倒だからな」

 カマエルはそのホールがある方向を指差す。

 それと、『邪魔されちゃあ面倒』というのは、キッシムとの戦闘の事だろう。

 セラフィは聞いた瞬間、直ぐ様そのホールがある方向へと足を進めた。

 だが、後ろから声がかかる。

「あ、それとすぐに辰巳(コイツ)が起きちまうから、倒れるぞ」言うと、カウントダウンを始めた。「三、ニ、一、――」

「は!? ちょっと待て――」

 セラフィは慌ててカマエルに駆け寄った。

 すると、カマエルの体から力が抜けるようにバタン、とセラフィの腕の中に倒れこむ。

ズシリ、と辰巳の全体重がセラフィにのし掛かった。

「・・・・・・」

 しばらくそのままにして、数秒たったらセラフィの背中に乗せた。

(さて、と。教授のところにも行かないとな)

 思うとセラフィはその場を後にした。

 

 教授がいるというホールには、セラフィが激戦が繰り広げられた例の大ホールから出発して四十分近く経ったらの事だった。

 理由は簡単。カマエルの説明不足だったからだ。このホールと似ている、と言われても、ここ英国騎士団本部には十数も存在する。その為、セラフィは背中に辰巳を背負いながら縦横無尽に駆け回った。その体力と気力は相当なものだ。

 事前に鍵は開けてある、という話は事実だったらしく、扉を押した瞬間にギイ、という耳にさわる音と共に扉が開いた。

「教授無事か!?」

 無事を確認する台詞を飛ばすと、それはすぐに返ってきた。

「セラフィ!? 無事だったの!?」

 扉から数メートル横に教授がいた。

「そっちこそ、怪我はないのか?」

「大丈夫。一回術式が発動したんだけど、何か停止したらしくて、なんとか生き残れたんだ――ってそんなことより、大変なんだ!!」急に慌ただしくなる。「辰巳が、いなくなっちゃったんだよ!!」

 それで今の今まで探していたんだけど全然見つからなくて、と嘆き言葉を教授は吐露した。

 それを聞いて、セラフィは疑問符を頭に浮かべた。

「たっちゃんならここにいるが・・・・・・」

 えっ? と驚く教授。セラフィは説明をした。

「そうなの? おかしいなあ、確かに術式が発動するまではすぐ隣にいたはずなのに――」

 それはきっと術式発動時にカマエルが目覚めたからだろう。それを教授たちは知らないから、『ここのどこかに埋められているかもしれない』という概念が生まれたのだ。

「まあそれについてはどうでもいいじゃないか。まずは生き残れただけで良しとしよう。それで、負傷者の人数は?」

「いや、不思議なことにいないんだ。術式が停止したとはいえ、後に上から瓦礫が落ちてきたんだ。それでも怪我人は〇」

 ならいい、とセラフィは言うと、視線を教授から辰巳に向けた。

 こいつがここにいる全員を助けたのか、という視線を。だがそれは正確に言うと天使であるカマエルの仕業と知っているが。

「で」教授は言う。「何で辰巳がセラフィと一緒にいるわけ?」

「ああ、そのことか。私がここに来る途中で見つけたんだ」

 そうなの? と顔をしかめつつ、教授が聞いてくるのを無視した。

 カマエルからは自分が関与したことは内密にして欲しい、と言われた。セラフィはその事を忠実に守っている。どうやらこの事を言うと、自分が危険視され、この仮の体である辰巳が狙われ兼ねないからだ、というのがカマエルの持論だ。

 だが、それはまだ想像に過ぎない。それでも想定できる事柄は潰しておかなければならない。それもカマエルが言っていた。

 それよりも教授!! まだ重大な事を聞いていないぞ。

「そうだ!!」

 教授は手をポンと叩いて言った。

「キッシム先生はどうなったの!? 僕らはこのホールの上に見えて以来のキッシム先生の行動が分からないんだ」

「それか、それなら――」

 セラフィは言った。

 キッシムの過去について、相当酷い目に遭ったということをカマエルから聞いたすべての事柄を一字一句間違えずに教授に教えた。それで、キッシムは自分のしようとしていた事を考え直し、ここを去っていったということもだ。

「そう・・・・・・」

 少し悲しいような、だが厳しさを持っている表情を教授は取った。

「でも逃がしちゃっていいのかな?」

「大丈夫だろう。キッシム先生はちゃんと心を入れ換えたらしいからな。武力は使わないらしい」

 すると、教授から不意を付かれたような質問を受けた。

「何だかキッシム先生と話したみたいな言い方だよね」

 えっ? と思わず怯む。

「ん、その反応はそうらしいね。でも、何でそんなに驚いているの? セラフィが話でキッシム先生の事を説得したんじゃないの? その前にセラフィしかいないじゃん。まあ事件は終わった、ということでいいのかな?」

 それに、セラフィはああとだけ言うと、付け足した。

「後はこの事を――まあ知っているだろうが、上の人たちに報告だけしておくか」

 面倒だがな、と呟いた。

「仕方ないよ。僕たちは下っ端戦闘員なんだから」

 そして、この暗黒組織(ダークマター)による英国騎士団侵略作戦は終了した、と言えるだろう。だが、その本来の目的がセラフィーナ=ヴァルキリーであったということは殆どの人たちが知らないことだった。本人からも言わなかった。


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