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ヴァルキリー家の娘事情  作者: たまご
第四章ワルキューレ
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戦闘開始

誤字・脱字がありましたら指摘をお願いします。

動作は単純だった。

 キッシムは一気にカマエルの懐に入り込むと、鳩尾目掛けて拳を放った。だが、その速度が尋常ではなかった。

 速度は音速に等しい。

 両者は肉体を魔法で強化しているからこそ着いてくることが出来る領域。

 もし仮に、肉体を魔法で強化していなかったら、その場合は体がバラバラになるだろう。

 そんな中、キッシムとカマエルは激突した。

 瞬間。


 ドバッ! という衝撃波が放射状に広がった。


 辺りに置いてあったイスやテーブルは数十メートル飛ばされ、壁にぶつかる。その他の安易に設置されているものは吹き飛ぶ。

 それほどまでに強力な衝撃。

 しかし、両者は拳を握り締めるような形でたいじしていた。

 キッシムの放った拳はカマエルの鳩尾前で受け止められていた。

「くっ!」

 キッシムは攻撃が効いていない事を瞬時に確認すると、瞬きの時の内に行動を移した。

 今度は回し蹴り。音速に等しい速度――つまり威力を持った蹴りだ。

 しかし、それをカマエルは余裕をもって後ろへと退き、それを躱す。

「人間にしちゃあやるほうだな。だからこそあんなことはさせたくなくなる。天使も人間も関係なくな」

 余裕の発言に、キッシムは憤怒する。

「ざけるな!! こっちは必死なんだ!!」

 冷静な判断を失う。

 そのせいで反撃を受けた。

 グガ!? と体を剃らすような大勢で後ろへと飛んだ。

 すぐにキッシムは立ち上がる。

 目の前には天使。気を抜く暇などない。

 だが、その件の天使は未だに蹴った足を中にぶら下げ場がら言った。

「油断大敵。いかんぜよ」

 と。

 一体どこの歴史上の偉人だ! と突っ込みたくなるが、今はそんな場合ではない。

 カマエルもキッシムが立ち上がるのを確認すると、自身の目の前に魔方陣を組み上げた。

「即席魔方陣、名付けて『憤慨する天使(アングリーエンジェル)』」

 瞬間だった。

 その魔方陣から数多の火の玉がキッシム目掛けて飛び出した。青色の輝く高温の火の玉。その数およそ百、いや、それすら優に越しているだろう。

 圧倒的な火の玉の量。

 さすがのキッシムも瞬く間に呑み込まれていった。

 ジュウ、とキッシムがいる箇所から焦げた臭いが漂ってきた。

「・・・・・・」

 それを、カマエルはただ黙って見ている。

 たとえ、肉体を魔法で強化していたとしても、その強化している肉体の防御現界を越えてしまえば肉体にはダメージが伝わる。しかし、今回は火の玉だ。温度は人間がいくら訓練しても、いや、並大抵の努力を怠っては適応することはできないだろう。

 だからこそ、カマエルは確信した。 

 これで終わりか、と。

 この焦げた床にはきっと黒い炭と化したキッシムがあるのだろうと。惜しい人間を殺したな、とカマエルは考えた。

 あっけなかった――

 ――そうであるはずだった。

 後ろから魔力を感じた。

 無論、カマエルのものではない。となると――

「――ッ!?」

 カマエルは咄嗟に横へと飛んだ。

 そこに、さっきまでカマエルがいた場所に、光線のような一本の線が通っていた。

 横に飛び退いたカマエルは、すぐに魔力を感じた場所を見る。

 そこにはやはり、キッシムの姿がある。しかし、服装の所々は焦げたように黒い部分があった。

「生きていたのか」

 そう、カマエルは生きていた事に、称賛を送った。

「・・・・・・」

 キッシムは黙って何も喋らない。それどころか肩を激しく動かし、息を乱していた。

「まあそれくらい、が妥当だろうな。即席で完成させたとはいえ、天使が作り出した魔法だ。生きていただけで称賛に値する。やっぱ強ぇよお前さんは」

その言葉に、キッシムは怒りを覚えるが。ただそう思っただけで、何もしなかった。

 それほどまでに蓄積したダメージ。

「それでも」カマエルは言う。「まだやるのかい? 自分の命を捨ててまでも」

 その質疑に、キッシムは当たり前だ、とだけ答え、付け加える。

「あいつらだけは――いや、あいつらに関わりを持つすべての存在を殺らなければ、私たちの怒りは収まらん」

 眼光には鋭さがあった。

「それをされても可笑しくないことをあいつらはやってきたんだ。報いを受けるのは当然のことだろう。そうは思わないのか?」

キッシムは両手を使い、ボロボロの体でカマエルに語った。

「それは確かに正しいな。人間ってのは、恨みをどうしてもはらしたいがために、己を犠牲にすることがある。お前がその典型的なパターンだな。でもよお、そいつらを殺して何になるってんだよ。もう一度考えてみろよ。そんな下らない奴等を殺して、その後何になる。昔はもう戻ってこねーんだ。今を一生懸命生きろよ、そうした方が楽しいと思うぜ、やっぱり」

 いい終えると、カマエルは微笑を漏らす。

 しかし、キッシムは説得には応じなかった。

「違う私は自分のことだけを考えてはいない。私が昔、どんな酷い行いを受けたか、お前は知らないからそんな事を言っていられるんだ。今もなお、昔の私と同じ行いを受けている奴等がいるかもいれないんだぞ! それを見捨てろと? ふざけるな。私はもうあんな酷い環境で育ちたくなどない、働かされたくもない。だからこそ、この方法で、劣悪なあのクソったれどもを殺るんだ!!」

 わがままだな、とカマエルは嘆息をはき、目に鋭い光を灯した。

「お前がどうなろうと知ったこっちゃねえんだ。そうだ、どんな酷い行いを受けていようと俺にとっちゃあどうでもいい。ただ、俺はこの《門》を開けるな、と言っているだけだ。それ以外の方法で殺ればいいだろ、その劣悪な奴等を。もうやめだ。どうもお前は言うことを聞かないバカらしいからな。武力で解決させてもらう」

 言った瞬間だった。

 キッシムの背中を、先程感じた寒気とはレベルが違う何かを感じた。

「――ッ!?」

 これからがこの、天使の本気。

 キッシムは脚力のみで一気に後退し、十数メートル距離をとった。さらに、瞬時に防御魔法を何重にも渡って展開する。ミサイルなら簡単に防ぐことが出来る魔法だ。

 その瞬間。

 キッシムが作り上げた魔法を意図も簡単にカマエルが放った未知の魔法によって吹き飛ばされる。

 轟!! という爆風を伴う強力な衝撃波。

 キッシムは既にその場にはいなく、別の場所に姿が見えた。

「まだやるか?」

 本気を出してまだ数秒、それでも、キッシムには数時間の時に思えて仕方がなかった。

 そして、キッシムは考える。

 本当にこのままやって勝てるのか? と。確かに、こんな化物染みた奴とやりやって、勝てる勝率なんてほぼ〇に等しい。

「当然、私には目的がある」

 だが、キッシムはその考えを捨てた。

 絶対に奴等を殺す。それだけが今のキッシムを動かす原動力となっている。

「懲りないやつだ――ッ」

 意図を確認すると、カマエルは己の足で、一気にキッシムとの距離を詰める。

「――ッ」

 キッシムも、何とかその行動に対応し、カマエルの右足の蹴りを右腕でガードする。

 ゴギッ! と嫌な音がキッシムの腕に響いた。

「が――ッ!!」

 顔をしかめるも、カマエルは攻撃の手を緩めなかった。キッシムといてはいち早く、腕に回復魔法を施し、時間稼ぎをしたいところだが、出来ない。

 隙がない。嵐のような乱舞。

 それをキッシムは魔法で強化させた左腕、足を巧みに使い分け、何とかカマエルの攻撃を受けていく。しかし、どうしても交わせない。いくらやっても受け止める、という行為が精一杯だった。

「クソが――!!」

「喋っている暇があるのか?」

 瞬間だった。その『喋る』という行為に使った意識が、キッシムの本当に僅かな隙を生み出してしまった。その隙をカマエルは見逃さなかった。

 腕のみで攻撃をしていたカマエルは、足を足で払った。

「――ッ!?」

 まさかの攻撃に、さすがのキッシムも、転けてしまった。

「終わりだな」

 そう言い、カマエルは転けて中に浮いているキッシム目掛けて拳を落とした。

 さすがにその拳を交わすことも、受け止めることも出来ずに、諸にそれを喰らった。

 胃から胃液が込み上げ、さらには鉄の味まで感じられる。

 ドス! とキッシムはそのまま床に激突した。

 呻き声が聞こえた。

「終わりだ人間」冷たく、吐き捨てるように、「まあこれだけ俺と渡り合えたんだ、良しだな。あばよ」

 直後、切れ味鋭い音が、キッシムめがけて放たれた。


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