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ヴァルキリー家の娘事情  作者: たまご
第三章魔王の正体
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動き出す闇

誤字・脱字がありましたら指摘をお願いします。

あれから二時間後。

 キッシムは英国騎士団のさらに下に存在する監獄に入れられた。

「本当によかったのか?」

 辰巳の問いかけに、セラフィは答える。

「ああ。多分な、ライリーの持ってきた情報だ。あとはことの成り行き次第だ」

 そして、セラフィは少し付け加える。

「私の考えが正しければキッシム先生は脱獄(だつごく)するだろう。そうした場合は暗黒組織(ダークマター)のリーダー確定だ」

 セラフィがいるのはキッシムと最初に会った場所、教室らしき部屋の中間辺りにある机に上だ。同じく、辰巳も机の上に座る。

「そうなった場合も想定して、今から会いに行きたい者がいるんだが、大丈夫か?」

「大丈夫もなにも、別に俺は構わねえぜ。それに、拒んでいられる状況下じゃねえだろうし」

 では決定だな、と言うと、セラフィは机から飛び降りる。

「そいつは英国騎士団内の唯一無二の友人だ」

 

 向かった先は世にも奇妙な場所ではなかった。至って普通の部屋。大きさはまあ別に広いとも言えないし狭いとも言えない大きさだ。

 だが――

「誰もいねえじゃんか。お出かけ中か?」

 辰巳が言うと、セラフィは動き出した。

「何をいっている。別に部屋だからと言って、そこにいるわけではない。その普遍(ふへん)的考えは捨てとくんだな」

 言うと、セラフィはいきなり下の方の壁を叩き出した。小さいお尻がふりふりと振られる。

「何・・・・・・してんの?」

「ああ、これは教授の隠し部屋を探しているんだ。こうやって叩くと空洞のところとそうでないところの音は違うだろ。そこを探している。たっちゃんも探してくれ」

 いやいや、まずはそのたっちゃんを直そうな、と呟きながら、渋々壁を叩くのを手伝いに入った。

 しかし、案外早く見つかった。大体、こういうときは主人公である辰巳が見つけるべきなのであろうが、違かった。

 カタン、と部屋の一角の壁がいきなり倒れたのだ。

 倒れたのは一辺一メートルほどの正方形型で、そこから出てきたのは一人の少年。年は辰巳よりも一つくらい下に見える。

「どうしたんだい、こんなところで。前はすぐに見つけられただろうに」

 髪はしっかりと整えられており、艶やかな黒が光をも飲み込みそうなほどに、黒冷やかに照らされていた。顔立ちは幼い。さっきもいったが辰巳よりも一つくらい下に見える。

「教授。今回はそんなところにしたのか。相変わらず警戒心の強いやつだな」

 すると、教授と呼ばれた少年は、えへへへ、とお姉さんに構ってもらい、嬉しさを露にした弟みたいな笑みを浮かべる。

 だが、教授と呼ばれた少年は辰巳のことを見つけるや否や、目に余るスピードで、セラフィの背後にぴったりとくっついた。

(なんと羨ましいことをッ!!)

 それを見て下心な辰巳は置いておいて、セラフィは話を始めた。

「教授、安心してくれ、こいつはそんな怪しいやつじゃない。私ととある用件で連れてきた日本人だ。名は――たっちゃんだ」

「違う!!」

 辰巳は咄嗟(とっさ)に否定する。

 教授はその、声の大きさにビクッ、と肩を震わせさらにセラフィに密着する。

 そんな光景を(ねた)みながら、修正を入れる。

「俺は多田野辰巳だ。決してたっちゃんなんて家族内の呼び名何て呼ばせねーぞ」

「そうであったな、貴様には名前があったな。いかん、ついつい思い出してしまった」

 逆じゃねえのか!? という辰巳の問いに、セラフィは完全無視態勢を整え、教授が出てきた穴へ入っていってしまった。

「ちょ、おい待て」

 辰巳も慌ててそこへと入る。

 中は冷房が効いているのだろうか、多少涼しかった。なぜ、冷房をつけていようと多少かと言うと、ちゃんと訳くらいはある。中は長方形状になっていて、いかにも秘密基地というかんじになっている。そして、ここからが、本題だ。その空間の大部分がパソコンやその他機材で埋め尽くされている。そのせいで、空間の六割近くは埋まっていた。その為、冷房をかけていても機材の熱で多少しか効き目がないのだ。

 そんな空間の奥、そこに教授と呼ばれた少年とセラフィが居座っていた。

「やはり動かないか――」

 何やら教授の操作しているパソコンに、二人とも釘付けになっている。

 仲間外れにされたと、勝手に考えている辰巳はすぐさま二人のもとへと近づいた。

「何やってんだよこんなところで、ゲームか?」

 上から覗きこむような形で会話に入ったら、

「勝手に入ってくるんじゃない。教授の大切な――命と平等な価値を持つものに貴様が持つ菌が付着したらどうしてくれるんだ」

 あまりにも残酷(ざんこく)な一言だった。

「別に大丈夫だよ。辰巳――さんだっけ? どうぞこちらに」

 それに対し、教授は優しい一言で、横を譲る形でその場を動いた。

「で、何やってんだよ」

 もう一度質問を繰り返す。

「これを見れば分かるだろう。監視だ」

 セラフィは言うと、目の前にあるパソコンに指を向けた。

 そこに映っていたのは映像だ。 

 正確な場所は分からない。だが、状況は分かる。壁一面は石畳で覆われている。まあ、よくファンタジー系で見かけそうな石の壁のことだ。それに、一人の男性が室内――と呼ぶべきかは定かではないが、ふらふらと足を動かしていた。しかも真剣な顔つきでだ。そのためか、映像に映っている辺りいったいは、ピリピリとした感じが見ただけで分かる。

 さらに奥、男性が徘徊(はいかい)いている奥に鉄製の棒が数十本ならんでいてまるで牢のようだ。

「何だよ、これ」

「何って、キッシムのいる監獄だよ」答えたのは教授だ。「セラフィから言われてね、監視とまではいかないが、まあ、行動を起こすか否かを見ているんだ」

 どうやら辰巳に恐怖感を無くしたらしい。

「まあそういうことだ。覚えておけ」

 お前が言うな、と辰巳のツッコミが炸裂した。

 それにしても――

「この他の映像はなんなんだ?」

 瞬間、よくぞ聞いてくれました、というような顔付きで、教授がパソコンから辰巳に視線を向けた。

「これはねっ、僕が防犯カメラにハッキングして、その映像をここに映しているんだよ。まあ僕にかかれば英国騎士団(ここ)のセキュリティなんてちょちょいのちょいなんだけどね」

 輝いていた、目が。まるで少女漫画のように。

 そ、そうか、と辰巳はその回答に微に引きながらも、疑問を抱いた。

 魔法に科学、一体ここはどうなってんだ。どっちかに統一しないのか? と。まあどうでもいいことだ。

 科学があるお陰でこうしてキッシムの様子を見ることができるのだ。それだけでよしにしよう。

「そうか。教授はパソコンに詳しいんだな」

 その言葉に教授はさらに目を輝かせた。

「まあやろうと思えばアメリカのペンタゴンくらいはハッキングで制圧できるよ」

 さらりと恐ろしいことを言いやがったコイツ、と辰巳は教授の隠された素顔の一部を垣間見ることになった。

その後も、数十分とたつが行動は監獄(かんごく)にいるキッシムは行動を起こさない。それどころか、身動きひとつしない。本当にいるのでしょうか、と思わせるほど、牢の中は静まり返っている。

 そこのことに疑問を持ったセラフィは教授に指令を飛ばした。

「教授、ここをもうちょっとアップしてくれないか?」

 お安いご用、と言い、ズームアップさせる教授。

 鮮明に、先程よりは牢の中の様子が分かる。

 が、しかし。

「いないぞ」

最初に声をあげたのはセラフィだった。

言った通り、牢の中には誰もいない。本来いるはずのキッシム=エライダムの姿がどこにも見当たらない。ベッドにも、牢の奥にもどこにもいない。ただ、空の牢がそこにあるだけ。

「本当だ。もう少しアップしてみる?」

 それに、セラフィは首肯する。

 教授はパソコンを操作し、さらに牢の中を拡大させる。

「やはりいない。まずい」

 試しにサーモグラフィもやってきたが反応はなかった。

「ダメだ。いない。どうするのセラフィ」

 弱気な教授にセラフィは言う。

「まあ焦るな。まずはこのことを『騎士(ナイト)』の称号を持つ者に連絡しろ」

 慌ただしくなる教授部屋内。そこに、辰巳は状況判断できずにただ座ってパソコン画面に視線を投げ続けていた。

 そして、辰巳は言う。

「いるじゃん、キッシム先生。ほらそこに、何だかベッドの下に潜り込んでる。何してんだ?」

 その言葉に、セラフィたちは驚愕する。

「何を言って――」

 いるんだ、と言おうとしたのだろう。だが、その言葉が途中で消え、また、途中から言う。

「――確かにいるな」

「え、本当!?」

 セラフィに続き、教授も声をあげる。

「本当だ。コンタクトレンズ探してる」

 なんともあっけがない光景だ。

「でもどうしてアップしても見えなかったんだ?」

「黒のコート着ているからじゃないか?」

 言ったのは辰巳だ。

「そうか。何だ。心配をかけるんじゃない」

 セラフィは胸を()で下ろす。

「それはそうと、これからはどうするんだ?」

 話を切り出したのは辰巳だった。

「うむ。貴様にしてはいい質問だな。まあなにもすることがない、と言ってしまえばないのだが、まあないな」

 それから静寂がこの場を包み、いづらくなったセラフィが、

「何だ! 悪いことでもしたか!?」

「「いや別に・・・・・・」」

 反応したのは辰巳と教授だった。しかもビックリするほどピッタリハモった。

 セラフィはこほん、と業とらしく咳をすると、話題を開く。

「これからもキッシム先生の監視を続けると言って無理があろう。さてどうする?」

 しかし、二人に考えなんてなかった。

「ふむ、では、外で少し茶でも飲むか」

 

 こうして、特にやることがなく、セラフィの独断で決まってしまった提案に乗るしかなかった辰巳と教授だったのだが、今三人がいるのは教授の隠し部屋を出たすぐ外にあるあのごくごく普通の部屋だった。

 そこで、テーブルを一つ真ん中に置き、茶会が開かれていた。

「やっぱ俺らこんなところで、こんなことやっていていいのかな」

 落ち着かず、お茶を飲んでいた手をふと止め、辰巳は心配する。もちろん、キッシムについてのことだろう。

「なに、やることがないのだ。仕方があるまい」

 それに対し、セラフィは妙に、が付くほど冷静な態度(たいど)を取っていた。

「今はやることがなし。かといって逃げ出すわけにもいかん。そんな事よりもキッシム先生が暗黒組織(ダークマター)のボスと確定したわけではない」

 そのセラフィの言葉に、割り込むような形で入ってきたのは教授だ。教授はテーブルの上にもノートパソコンを展開し、防犯カメラの映像を写し出していた。

「そうだね。確かにキッシム先生は未だに動かない、これはもうリーダーという考えはなくしてしまっていいかもしれないよ?」

 教授は残りの紅茶を飲み干して、またパソコンへと視線を落とした。

 そうなのか、と辰巳は平然としないまま、これからの時を過ごすはめになった。

 それからというものの、明確な会話が持ち込まれず、ただ淡々と、無情なまでに時間が過ぎていっている頃。

 それは唐突に起きた。


 轟!! という爆音が、英国騎士団内にこだまする山彦(やまびこ)(ごと)く響いた。


「な――ッ!?」

 あまりにも突然に起きた出来事に、セラフィも思わずイスから落ちそうになる。

「何があったのだ! 教授!」

 すぐさま教授に監獄にいるキッシムの様子を聞いた。

「かかか変わりはないよ。いるもん」

 困惑に満ちた表情で、慌ただしい表情で教授は言った。

「では何が・・・・・・?」

 セラフィは自分の頭をフルに使って事態の把握(はあく)に努めようとする。だが、思いつくし、現段階でセラフィが考えられることはなかった。

 そんな中、教授は一心不乱にパソコンと向き合っていた。

「判った。これだ。何だか煙が――」

 見つけると同時に、セラフィは抱えていた頭をすぐにパソコンへと持っていった。

「これは――!?」

 見てもさっぱり分からなかった。

 教授のパソコンの画面には一つのウインドウが開かれている。そこには映像が映し出されていた。

 辺りは、見える範囲はすべて煙に視界を(うば)われており、状況が把握できない。ここから解るのはただひとつ。キッシム以外の誰かが英国騎士団に攻撃を仕掛けたということだけだ。

「クソ、こんな時によりにもよって不足の事態が起きるというのだ!!」

 すぐにセラフィは二人に指示を出した。

「このままではいつ次の反撃が来るか分からん。数秒後にもまた攻撃が来るか分からん。いったんここは身の安全を確保し、態勢をたてるぞ」

 その数秒後、鼓膜が破れるかと思うほど、辰巳たちが立っている床もが震えるほど大きな爆音が響く。

「すごい当たった。セラフィって予知能力者?」

 言ったのは教授ではあるが、今はどうでもいい、というような顔つきで、セラフィは言った。

「一時、教授の隠し部屋に避難だ。教授、あそこは衝撃にも強い作りになっているんだろうな」

 もちろん、と答える教授。

 さらに付け加える。

「一応戦車の砲弾でも耐えられる仕組みになっているよ。なんせあそこには世界一硬い合金である超鋼合金が五十センチの厚みが使われているからね」

「よしでは入るぞ。ふん、仕方がない。たっちゃんも一緒に入れ」

 ん? ちょっとおかしくなかったか? と感じていたが、時が時なのでスルーした。

 中に入ると、教授は隠し部屋の唯一の出入り口である壁を閉めた。

「それも重いんじゃないのか?」

指を指しながら、辰巳は聞いた。

「いや、これは薄い外の壁と同じ作りのものだよ。まあ、これから閉めるのが本題なんだけどね」

 言うと、閉めた横にある丁度L字型の短い底の部分にあたるところに、大きな扉が埋め込まれていた。

「さすがに一人の力じゃ無理だから、辰巳――さんだっけ? 手伝ってよ」

 ああ、と頷くと、手伝いに入る辰巳。まだ完全には名前を覚えてもらっていないみたいだ。

 そんなことはさておき、何とか扉を閉め終わった二方は、奥にいたセラフィのもとへと向かった。

「これからどうすんだよ」

 突然の出来事に動揺を隠せない辰巳。先程まではやることがあったため、意識をそちらへ向けていることが出来たが、今は違う。一段落付いてしまった。それがかえって辰巳の心に恐怖感を植え付ける。なにもすることがなくなり、初めて命の危険性を感じたのだ。

「これからやることは一つしかない」


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