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ヴァルキリー家の娘事情  作者: たまご
第三章魔王の正体
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老騎士会

誤字・脱字がありましたら指摘をお願いします。

時間はもう既に正午になっていた。

 日本の私服を着ている辰巳。ジャケットを上から羽織り、なかなかいいファッションセンスをしているセラフィ。ただ単に黒いロングコートを着ているキッシム。

 これらを町中の人が見たら異様な小規模集団に見える。現に、そう思われているらしく、周囲にいる複数の奥様方から『ねえ、あのグループ見てくださいよ、何か異様じゃありませんミセス・マドワーゼル』『そうね、ミセス・アントワネット』的感じの会話が辰巳の耳には届いていた。といってもほとんど会話内容は解らない。あくまで雰囲気で判断した結果だ。

「これから行くのは私のお気に入りのお店でね。パスタやピッツァが美味しいんだよこれが」

「ピッツァ?」

「何だい、ピッツァを知らないのかい? 珍しいね。日本でも人気があると聞いていたんだが、私の勘違いだったかな」

 可笑しいなあ、と呟いて、それ以降何も喋らなくなった。

 ちなみに、ピッツァとはピザの事である。どうやら辰巳は正しい発音のピザのことをピッツァとは知らなかったのだろう。

 それからというもの、何度も言っているかもしれないが、挙動不審すらしないキッシムに、辰巳、セラフィは『キッシム魔王(まおう)説』を否定しかけていた。

 

 食事も終わり、時はもう既に『老騎士会(ナイトマスターズ)』の開始を示す時になりつつあるころだ。

 ここはその会議が開かれる部屋の前であった。辺りは薄暗く、一本の通路のようになっている。その通路に沿うように複数の扉が連なるように備え付けられている。その扉一つの大きさは優に三メートルを越しているだろう。その一つひとつにド派手な――とまではいかないが、手間がかかっていると思わせるような彫刻が絢爛(けんらん)に彫られていた。

 そんな薄暗く、どこまでも通路が続いているんじゃないかと思わせるようなところの、そのまた派手に彫刻された扉の前で、辰巳、セラフィはふらふらとふらついていた。

「やっぱ嘘だったんじゃねえか?」

 そこに、辰巳は今までのキッシムの行動を思い浮かべながら(たず)ねた。

 セラフィもその意見に同意したい気分であったが、やはり完全には捨てきれないのだ。だが、今セラフィの心中に存在しているであろう『信頼パラメーター』があるのだとしたら、比率は、キッシム魔王説を信じる、信じないでいくと、3対7くらいだろう。

「これまでの行動をみたって、何の素振りもしなかった。やっぱ考えすぎ・・・・・・だったんだよ」

 その甘い言葉がセラフィの思考に拍車(はくしゃ)を掛ける。

「だが、そうとも決まったわけではない」

 だが、それを、セラフィは叩き割る。

「確かに、キッシム先生に先程までに見せた素振りには怪しい観点はなかった。それは認めよう。だが、それはあちらに私たちはキッシム先生が『暗黒組織(ダークマター)』のリーダーである魔王と知られていないからではないか? それならばいつも通りの行動をとって当たり前だ。だったらそれを知っているような状況を作ってしまえばいいだけだ」

「どうやって――」

「その為の重大資料だろ」

 言うと、セラフィは封筒を取り出した。あの、A4サイズの写真が入った、正真正銘の重大資料。英国騎士団から長年逃げ延びてきた組織のリーダーの顔写真。

 それが今、手元にある。

 あとはそれがどの程度、キッシムの不安感を(あお)れるかどうかだけだ。

「そっか――」

 辰巳は了承する。いや、関心、といった方が正しいのだろうか。何だか今、辰巳はセラフィが大きく見える。それは、体がではない。体はそのままだ。言っているのは心の問題だ。そうやって、組織の為に恩師さえ疑う。恐ろしいには恐ろしい。恩師を信頼できないのか! と思うかもしれないが、これは信頼しているからこその決断だ。当初、セラフィは(うつ)になりかけるほど(なや)んで、苦しんだ。それがあっての今の決断だ。それが、辰巳にとっては尊敬に値した。セラフィはそれほどまでにキッシムのことを信用している。

 それでのこの決断。

 それらを考慮(こうりょ)して、辰巳はある言葉を口に出す。

「違うといいな」

 と。

 その言葉に、セラフィも優しく答えた。

 時も数分たち、奥の方から一人の頭が残念な中年男性がやってきた。

「すまないね、待たせちゃって」

 すべての元凶であるキッシム=エライダムが。

「なんとか貰ってきたよ臨時パス。これで出られるようになるだろう。それと、セラフィ、君には壇上(だんじょう)に出て、その情報を入手するまでの経緯(けいい)を語ってほしい。一応この議会最大の情報だ」

 誇らしげに語るキッシム。

「では、壇上で話せばいいのですよね?」

「そうだ。何、緊張することなんて何もないさ。たとえ君が間違っていたとしても、悪いのは君じゃない、そのくらいは上の人たちもわかっているだろう」

 その会話を最後に、目の前にある三メートル超えの扉が悠々(ゆうゆう)と開く。

 向こう側には既に三十人近い人が、席に座り、(するど)い眼光で入ってきた辰巳たちを見ていた。部屋の構造は俗に言う、裁判所を連想させるような造りだ。

 辰巳は案内され、一般傍聴席に案内された。キッシムは専用の席に案内されていた。

 セラフィは前に出て、中央の少し広めの空間にある小さな椅子へと腰を掛けていた。

 辰巳は緊張のあまり上を見上げた、そこには何と、四人の人がいた。別に浮いていたわけではない。ただ、高さ約十メートルほどの高さがある壁の四メートル付近の壁に穴が開いていた。そこに、四人のフードを被った人がいたのだ。

(なんだありゃあ)

 疑問に思う。

 不気味に見えたのだ。

 そして、遂に『老騎士会(ナイトマスターズ)』が始まる。

 議会進行係らしき人が、キッシムがいる群衆(ぐんしゅう)から、出てきた。年は三十代半ばくらいだろう。

 その進行係の人は壇上に上がり、ごほん、と咳を払い、

「えー、これでは第百七十八回『老騎士会(ナイトマスターズ)』を始めます。今回の議題は事前にも説明させていただいたように、候補生(カデット)であるセラフィーナ=ヴァルキリーから暗黒組織(ダークマター)に関する情報を開示していただきます。では、セラフィーナ=ヴァルキリー、こちらへ」

 すると、進行係の人は、壇上を譲るような形でその場を退いた。

 セラフィは勧められたとおりにそこへと上り、話す態勢を取った。

「ご紹介に預かりました、セラフィーナ=ヴァルキリーです。今回開示させていただく情報の元は七人の魔女たち(セブンシスターズ)からです」

 その七人の魔女たち(セブンシスターズ)の単語が出てきた瞬間、会場内はざわつきで()まった。

 しかし セラフィは動じず、さらに続ける。

「なので、あまり情報の信憑(しんぴょう)性には欠けますが、ご了承ください」

「少し待ちなさい」

 突如、ここの者たちではない声が降りかかる。

 一瞬、辰巳は声の発生源が分からなかった。だが、会場内の人たちはすべて、視線を上に向けていた。もちろん、セラフィもだ。

「セラフィーナ=ヴァルキリーと申したな。そなた、なぜ七人の魔女たち(セブンシスターズ)と接触できた」

 声を出しているのは上にいる四人のうちの一人。

「そうそう接触できる組織ではなかろう。それに、偶然会ったというのも考えにくい、もし、そなたは七人の魔女たち(セブンシスターズ)と取引でもしたんではあるまいな、それは重罪だぞ」

 その声だけでも威圧感が分かる。

 セラフィは少し動揺した声色で、

「いえ、偶然といってしまえば偶然ですが、それは私の主観的思考です。あちらから接触してきたのです」

 そして、セラフィはあの時の、ジョージ・ライリー・スコットが接触してきたことを嘘偽りなく話す。あの情報を除いて。

「して、その情報とは」

「はいそれは――」

 キッシムが黒いロングコートの中から例の封筒を取り出した。

 しかし。

「いえ、それではありません」

 周囲がざわめく。

「本当はこちらです」

 取り出す。真の封筒を。

 見た目は代わり映えしない。キッシムが持っているものとまったく同じだ。

「これが本当の正真正銘の情報です。すいません、キッシム先生。嘘をいってしまって」

「いや、気にするな」

 やや薄い笑みを浮かべ、嘘をついていた教え子を許す。

 セラフィはその封筒を、近寄ってきた人に、渡す。その人は、ささっと上にいる四人のうちの一人に手渡した。もちろん、先程まで、セラフィに質問をしていた人である。

 それを見た人は、嘆息をつく。

「セラフィーナ=ヴァルキリー。このことは本当か? 主はこの英国騎士団を愚弄(ぐろう)する気ではなかろうな」

 その言葉には殺気さえ感じられた。

 その言葉に冷や汗をかきながらも、セラフィは言う。

「はい、嘘偽りもございません。七人の魔女たち(セブンシスターズ)の一員であるジョージ・ライリー・スコットから渡されたもの、そのままの物です」

「では何だこれは!!」

 四人のうちの一人は手渡された封筒を下にいるセラフィヘ突きつける。

「まるでここにいるキッシム=エライダムのようではないか!!」

 その発言に、室内は沈黙に陥る。

 セラフィはその沈黙など気にせず、自分のペースに入ったという確信で、自信に満ち溢れる。

「ええ。その通りです。その写真に写っているのは間違いなくキッシム先生です」

「何を・・・・・・!?」

 キッシムも戸惑う。

「何を言っているんだセラフィ!! 私はそんなこと知らんぞ!?」

 勢い謝ってイスから立ち上がる。

「すいませんとはそう言うことなのかッ!!」

「静かに! セラフィーナ=ヴァルキリー、(まこと)なのか」

 その追求にセラフィは首を縦に動かす。

 さらに、四人のうちの一人――仮にBとしておこう。Bは顎を擦りながら、キッシムに問う。

「キッシム そなたはこの事を自覚しているのか?」

「知りませんよこんなこと! 出鱈目(でたらめ)です!」

 形相が激しくなる。

 その返答にBは考えをまとめに入るべく、もう三人に意見を求めた。

 会話内容は聞こえないが、答えは数分後には帰ってくる。

「仕方がない事態になった。これは英国騎士団創設以後の最大の事件だ」

 Bは拳を堅く握る。

「判決を下す」

 その次の言葉に。期待に。すべての神経が使われる。この場の全員が息を飲む。


「キッシム=エライダムに数日間の監獄入りを命ずる」



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