とある少年の惨劇
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時は今から二十年ほど遡る。
とある少年がまだ幼い頃のことだった。
ここはイギリス・イングランド某所に存在するスラム。
まだ七歳にも関わらず、少年はここで生活をしていた。父母共に一年前、病気になり、もう他界している。
少年が生活している環境は決していいとは言えない。見渡すと、建物はあるにはあるが、人の気配はまるで感じられない。むしろ、いるほうがおかしかった。コンクリートが剥げ、中にある鉄骨が剥きだしになり、錆びている。いつ崩壊しても不思議ではなかった。それが町の住宅地のように広がっていた。
ここはもう政府からも、他の国民からも見捨てられていた。
――いや、ここにいる人達はすでに人として認識されてはいない。ゴミのように思われている。
スラムの中央にちらほら見える人影も、元気で活発には見えない。その証拠に表情は俯いていて暗い。
少年はここで孤独に生活していた。裕福――とはいいがたいが、まあなんとか明日生きるための命は繋げられていた。
そして、少年には夢があった。「絶対にここを綺麗にしてみせる」という夢が。こんな地獄みたいな場所で、純粋な気持ちを持っていられるのは、少年の心が綺麗だという証拠だろう。
毎日毎日必死にスラム一帯のゴミを拾っていた。食事はゴミに紛れている残り物やリンゴ。これでもまだいいほうだった。酷い日は何も見つからなかった。飲まず食わずの日が続くことさえあった。一度、汚水を口に運んでしまったことがあった。その時は生死の境目をさまようほどの高熱を発した。それでも少年は、食事ができない日があっても、ゴミ拾いは止めなかった。ここを綺麗にしたい、という気持ちだけが、少年を動かす原動力となっていた。
そして、その夢が叶うときがやってきたのだった。
ここに工場が建設されるとのことだった。
最初は純粋にうれしかった。ここがただ汚いだけの、何の役にも立たずに放置されているのが嫌だった。それは少年にはとっては吉報だった。
工場の建設が始まった。希望するものは工場建設の下働きができた。もちろん、少年も参加した。
月給五万円。
決して多くはない額だが、今までお金さえ得られなかった彼らにとってはまるで財宝を手に持ったかのようか感覚だった。他の労働者はそれを娯楽や服、食べ物に大いに使った。だが少年は違った。生きていくために必要最低限の食にしか使わなかった。年頃の男の子がしそうな、欲しそうなものにも使わない。ただ余った分は貯めた。
しかし、この都合のいい給料の給付はそう長くは続かなかった――否、続くに続くが、それは労働者本人の体次第であった。
工場側の労働者の扱い方が劣化していったのだ。休息の時も与えず、水も与えず、ただひたすら労働。日本で考えたら労働基準法を破る働かせ方。
それが数ヵ月に渡って続いた。
そして少年は八歳になった。この年は普通に考えたら小学校二年生くらいだ。それでも、長きに渡って働き続けていた。死人だって出ている。その中で、八歳の少年が働いている。それはもう化け物じみていた。
だが、労働者たちも黙っていなかった。
遂にストライキが起きた。
無論、少年も参加していた。
しかし、それを工場側の人間たちは武力によって鎮圧させた。そして言った。「もう抜けられると思うなよ。私たちに逆らったら命はない。もうすでに貴様らの命は私の手の中だ」と。
このまま完成するまで働いてもらう、と付け足した。
もう自由はない。異様に、その言葉が少年を傷つけた。
では、これから何を生き甲斐にして生きていけばいいんだろう?
憂鬱だった。
死にたくもなった。
だがそこで、ある感情が少年を支配した。
そうだ。だったらあいつら全員殺っちゃえばいいんだ。こんなことを平気でやってのけるあいつらをみんな殺っちゃえばいいんだ。
負の感情。それが少年の心を支配した正体。
まだ幼いうぶな少年の心を邪悪な感情が支配した。
少年は逃げ出した。
汚い道を一心不乱に走った。
かといって、その目的は簡単に達成できるものではなかった。当然、少年もそのことくらいは分かっていた。だからこそ、逃げ出すという選択肢を選んだのだった。
案の定、懐には日本円にして三十万円というお金が貯金として残っていた。今まで少年がコツコツと貯めてきたお金だ。
少年は逃げ切れた。
その後、少年はそのお金でありとあらゆる学問を学んだ。血眼になって。
数年後、少年は『魔法』という領域にたどり着いた。