表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋色のもみじ  作者: 桜華
5/5

【最終章】



【最終章】


取り返しのつかない過ちをしてしまったら、どのように償えばいいんだろう。

幸せなんて俺には似合わない。

そう言われてる気がした。



「紅輝っ!!夕紀ちゃんが…」

バサっ。

俺は体をすごい勢いで起こした。

「夢か…。」

そして俺はハアとため息をついた。

時計を見るとまだ夜中の3時だった。

パタッと倒れるとまた眠りについた。


それから毎晩夢を見た。

「紅輝っ!!沖田さんが大変だって…」

―うそだ。

「紅輝っ!!沖田さんが屋上から…」

―ウルサイ。

「紅輝っ!!夕紀ちゃんが飛び降りた…」

―やめろ…!!


「またこの夢…」

俺の日に日にだるくなっていく体は家族を心配させた。


葉太が俺の顔をのぞき込んでいた。

「紅輝…。最近顔色悪いけど…」

「…夢見る。」

「え…?どんな?」

瑞樹もその場にいるが相変わらず気まずいままだった。

何も言わずただこっちの話を聞いていた。

「沖田夕紀が…飛び降りる夢。」

「え…それってもしかして…」

「当然なんじゃない?沖田さんに仲良くなれないって言ったんでしょ」

「は?何で知ってんだよ」

「沖田さんから聞いた。…紅輝はこのままでいいの??」

「どういう意味かわかんねぇんだけど」

「沖田さんと、このまま気まずいままでいいの?って。」


…俺はどうしたい?

沖田夕紀と仲良くなりたい?

きっと、そばにいられない理由なんてない。


「…でも俺には幸せになる権利なんてない」

「紅輝…。」

「…」

「過去は過去でしょ。前に辛いことがあったから今幸せになっちゃいけないなんて誰が言ったの!?紅輝には幸せになる義務があるんだよ…!!」

「え…?」

「西園寺さんだってそれを望んでるんじゃないの??俺だって、紅輝には幸せになってほしいよ…」

俺は立ち上がった。

「ありがとな」

そばにいてくれてほんとよかった。

心の底からそう思った。


「西園寺紫乃…。懐かしいね。」

「あれから3年か…。紅輝もそろそろ変わらないといけないね。」

「夕紀ちゃんがいるし大丈夫じゃない??」

「そうだね…」



俺は走った。

あの背中を探して。


あの笑顔を…見たい。

あの黒髪に…触れたい。

あの声が…聞きたい。

沖田夕紀に…会いたい。


「沖田…っ」

「え…??」

振り返った顔が何故か懐かしかった。

「今さらだけど…俺…お前と仲良くなりたい。」

「うそ…!?」

「ホント。」

「だって紅輝くんあたしのこと嫌いなんじゃ…」

彼女の頬に涙が伝った。

「別に、嫌いじゃないわけじゃなかったよ。」

「まわりくどっ。わけわかんないよ…」

沖田夕紀はその場にしゃがみこんでしまう。

「素直じゃなくてごめんな」

ただそれだけが言えなくて。

でもそれだけが言いたくて。

素直じゃなくてごめん。

伝えられなくてごめん。

知ろうとしなくてごめん。

君に、会えた喜びが俺の枷を外したんだ。

これからの今を忘れない―。


「許さない…」

「は??」

しゃがみこんだまま沖田夕紀は笑っていた。

俺もそれにつられた。

「沖田夕紀…俺な、」

「ちょっと待った」

沖田夕紀は話そうとする俺の言葉を遮った。

「その沖田夕紀ってやめない?」

「は…??今さら??ムリだし。」

「さっき沖田って呼んでたじゃん」

「あれは勢い…」

キーンコーン…

チャイムが響いた。


結局また何も話せなかった。

だけど、がっかりしている半面、ほっとしていた。

話したくない、そんな自分が俺を止めた。


予鈴を聞いた俺たちは教室に戻った。

「仲直りしたんだー」

俺たち二人を見て、瑞樹や葉太は声をそろえた。

「よかった…。」

「葉太、ありがとな」

これまで葉太と瑞樹には迷惑ばかりかけていた。

特に葉太は心配していた。

「ほんとに迷惑かけてごめんな」

「気にしないでよ。俺の幸せはみんなが幸せでいることだよ…―」

俺はもう、独りじゃない。

そばにいてくれるコイツらがいる。

―でも

コイツらを失ったら俺は

一体どうするんだろう…?


「紅輝…?」

俺を呼ぶ声。

これが聞こえなくなったら俺は

普通でいれるだろうか。


「ごめん…」

俺は教室を出た。


「紅輝もいろいろ複雑なんだよね」

「うん…。よく夕紀ちゃんと仲良くなれたよね」

「え…?どういうこと?」

2人は顔を見合わせた。

「紅輝は…、女の子に近づくことはなかったんだよ。」

「え…?何で…?」

「仲良くなって好きになるのが怖かったから、かな。」



屋上の扉を開いた。

秋の風が頬をすべる。

爽やかな秋晴れの青空が何かを吸い取る。

俺は寝そべってただ空を見上げていた。

ただ…空を…。


「紅輝、中2の頃好きな女の子いたんだよね。その子も紅輝のこと好きだったんだけど…」

「紅輝もその女の子もモテてたから女の子はいじめられて…。紅輝は女の子を守ってたんだけど、紅輝もいじめられてストレスが溜まってたんだろうね。少しずつすれ違い始めて、ある時紅輝がその子のこと殴っちゃったんだ。」

「女の子は嫌われたと思ったんだと思う。それに、いじめられてたのもあったし…そのあと学校の屋上から…」

「…っ!!」



紫乃…

俺は…幸せになる資格なんてあるのか…



「紅輝はそれからずっと気にしてて…。その子の遺書に『誰も責めないで。これは私自身が勝手にやったことだから。後悔なんてしてないよ。ただ、紅輝くんの足を止めてしまうんじゃないかってことが心配です』って書いてあったもんだからいたたまれないような気持ちになっちゃって…」



紫乃を守れなかった俺に沖田夕紀と仲良くなる資格なんてあるのか…?


「紅輝くんっ!!」

息を切らせた沖田夕紀の声が聞こえた。

振り返ってびっくりした。

沖田夕紀の頬から大きな雫がこぼれ落ちていたことに。

自分の頬を一筋の水が伝ったことに。

「沖田夕紀…?」

「紅輝くん…。瑞樹くんと葉太くんから聞いたの。悲しい過去があったのに、あたし、近くにいてもいいの…?」

「…俺の話を?」

「うん…。」

「…俺は沖田夕紀だからいいと思った。」

「その涙はピリオドだと思っていいの…?」

「…いいんじゃないの」


終わりがあっけなくて

胸から空虚感がぬけなかった

周りが話しているのを聞いて

初めて失ったことに気づいた

実感がわかないのに怒りだけがこみあげて

涙がぼたぼたこぼれ落ちた

その時命の重みを知った

あふれる涙が二度と帰ってこないと思い知らす

儚く散っていったあの子の代わりを

きっとずっと求めていた

でもあの子の代わりなんていなくて

自分が変わらないといけなくて

だから俺はずっと

背を向けていた

君に会えてよかった

君を…好きになってよかった…


「あたしはずっと紅輝くんのそばにいるから…」

「ありがとう―…」




「雨だね…」

瑞樹がぽつりと言った。

「傘持ってきてないよ」

「お前は彼女にいれてもらえよ」

俺はそう言うと葉太の背中を押した。

「あ!!俺さぁ、今日委員会だから先帰ってて。」

「あぁ…わかった」

「じゃあばいばーい」


何でこう必然的に一緒に帰ることになるかなあ。

「沖田夕紀は傘持ってきてるんだよな?」

「え?紅輝くんが持ってきてるんでしょ?」

・・・!?


「この大雨の中帰れって…?」

「…」


冷たい…

あんな晴れてたのに…


「紅輝くん…ごめんね」

「あんたは悪くないよ…」


沖田夕紀が交差点で信号が変わるのを待つ。

俺はここでまっすぐ進む。

「紅輝くんっ」


この声が俺の足を止めなければ。


「昼間言いそびれてたんだけど、あたしっ紅輝くんが好きっ…」

信号が色を変えた。

沖田夕紀は走り出す。

「夕紀っ―…

一回しか言わないから―…

聞いて―…」

沖田夕紀は横断歩道の真ん中で立ち止まって振り向いている。

あたりは雨音だけが響いている。

彼女の頬を伝っているのは雨…?

それとも…


「俺…」

言いかけた時だった。

急に暗闇が眩しいライトで光りわたった。

ものすごい勢いでトラックがつっこんでくる。

俺はもう大切な人を失いたくない。

直感的に思った。

紫乃を失い閉ざしてしまっていた扉を開いたのは君だった。

そんな君がいなくなるのは嫌だと心から思えた。


止まっていた時間を動かす術を俺はもうきっと知ってる。


ププー…

クラクションが響く。

俺は走り出して沖田夕紀の背中を突き飛ばした。

これで良かった…

これで…


「紅輝ーーっっ!!」

彼女の叫び声は虚しく響いていた。



「紅輝っ…!!紅輝っ…!!」

俺を呼ぶ姉や母の声が遠くで聞こえる。

だけどその声も次第に聞こえなくなった。


黒と紫の渦が俺を取り巻いた。

紫乃…

お前を死なせたのは俺…


だけど…

そんな俺でも幸せになっていいのか…


胸が苦しい。

締めつけられるような衝動に襲われた。

熱い…

張り裂けそうだ…



「あなたが夕紀ちゃん…?」

「…え?」

紅輝の母親が夕紀に話しかけた。

「気にしないでね。あの子バカだから。あなたを守りたかったんでしょうけど、ただのバカだよ…」

そういう母親の目には涙が浮かんでいた。



「意識不明の重体…!?」

「…うん」

「うそ…」

「あたしのせいだ…。どうしよう…!!」

夕紀はその場にしゃがみこんだ。

「沖田さんのせいじゃないよ…」

「そうだよ。紅輝は自分の意志で夕紀ちゃんを助けたんじゃないかな。」


それから夕紀は一週間病院に通った。


秋の風が病室の白いカーテンを揺らしている。

夕紀は紅輝の病室を覗いた。

そこには座っている人影があった。

「―紅輝…っ!?」

夕紀は走りよった。

紅輝がゆっくりこっちを振り向く。

「―!?」

夕紀は直感的に違和感を感じた。

「紅輝…。それが僕の名前ですか…?」

「え…?うそでしょ?」

「すみません。でもなにも覚えてなくて…」

「…え?あたしのことも…?」

「…はい…」

「嘘でしょっ?!嘘だって言ってよ!!」

夕紀は珍しく取り乱し、涙を流していた。

そして夕紀は耐えきれず病室を飛び出した。



なんだろう…

心に開いたこの大きい穴は。

あのヒトを泣かしてしまった…

ただそれだけがすごくいけないことの気がした

何か大事なものがスポッと抜けているような気がする



「ねぇちぃちゃん…」

夕紀は知南に話しかけた。

「もし…大好きな人が自分のことを覚えていなかったら…どうする?」

「…えぇ?それでもそばにいたい理由なんて好きだからじゃだめなのかなぁ…?」

「…」

「早く行ってきなよ。好きなんでしょ…?」


もう何も迷ってない。


ねぇ紅輝くん…


あなたに会えてよかった


たくさんの思い出ありがとう


記憶の中に私がいなくても


これから重ねていけばいいよね


もし生まれ変わったら


ほかの誰でもなく


あなたと出会って


あなたにまた恋したい


あなたを好きと言いたい


出会えて良かった


なんて大げさだけど


心から思える自分がいたよ


「紅輝くんっ…―」


窓の外で、差しこむ秋色の光が風に揺れるもみじを輝かせている。


 ―END―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ