エピローグ「悠久の旅路と黄金の夕陽」
それから、どれほどの月日が流れただろうか。
遺跡の周囲に築かれた街は、今や大陸最大の文化都市へと発展し、空を舞う魔導飛空艇が、世界中から人々を運んできていた。
しかし、その中心にそびえるルピナス遺跡だけは、数1000年前と変わらぬ気高くも優しい姿を保ち続けていた。
遺跡の最上階にあるテラス。
そこには、かつての守護者エリスと、その番であるレオンが、寄り添って夕陽を眺めていた。
二人の姿は、あの日と何一つ変わっていない。
結魂によって遺跡の心臓部と命を共有した彼らは、時間の流れを緩やかに飛び越え、永遠に近い若さを保っていた。
エリスの銀色の髪が、沈みゆく太陽の光を浴びて黄金色に染まっている。
「……綺麗だね、レオン。あの日、お前と一緒に見た景色よりも、もっと輝いて見える」
エリスが隣で微笑むと、レオンはその手を強く握り返した。
レオンの瞳には、かつての荒々しさは消え、海のような深い知性と、変わることのない情熱が宿っていた。
「ああ。世界がどれだけ変わっても、君の隣で見る夕陽が、俺にとっては一番の宝物だ」
二人の足元では、かつての「防衛配信」の名残である魔導端末が、今も静かに光を放っていた。
現在は配信こそ行っていないが、その記録は「人類の愛と共生」の歴史として、世界中の図書館に永久保存されている。
「レオン、覚えているか? お前が初めてここに来た時、私のトラップを花吹雪に変えてしまったことを」
「はは、あったな! あの時のエリスの、鳩が豆鉄砲を食ったような顔、今でも忘れられないぜ」
「ふん、失礼な。私は真剣に排除しようとしていたんだぞ」
エリスがわざとらしく頬を膨らませると、レオンは愉快そうに笑い、彼を抱きしめた。
その温もりは、何100年経っても、エリスにとっての「唯一の正解」であり続けた。
ふと、遺跡の下の方から、子供たちの賑やかな笑い声が風に乗って聞こえてきた。
「守護者様に会いに行こう!」
「レオンさんの冒険譚を聞かせてくれるかな?」
エリスは、その声を聞いて、慈しむような眼差しを街の方へと向けた。
「……行こうか。新しい世代が、私たちの物語の続きを待っている」
「ああ。俺たちの旅は、まだまだ終わらないからな」
二人はゆっくりと立ち上がり、手を繋いだまま、光に満ちた遺跡の中へと戻っていった。
ルピナス遺跡の心臓部は、今も力強く、および穏やかに鼓動を続けている。
それは、孤独を捨てて愛を選んだ守護者の、および彼を信じ抜いた冒険者の、永遠に続く魂の歌だった。
空には、かつて二人が愛を誓った「恋人の天秤」が、一番星として輝き始めていた。
その光は、愛し合う二人の進む道を、これからも永遠に、優しく照らし続けていくことだろう。




