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異世界ダンジョン防衛配信中の孤独なオメガ、最強アルファに運命の番だと言われて溺愛される件  作者: 水凪しおん


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第11話「民衆の盾と共鳴する絆」

 査察団の撤退から数日が経過したが、遺跡を巡る状況は依然として予断を許さないものだった。


 王都では、エリスを支持する民衆の声と、遺跡の利権を主張する保守的な貴族たちの声が激しく対立していた。


 エリスは連日、配信を通じて外の世界の様子を注意深く観察していた。


 かつては他人事として眺めていた情報の渦が、今は自分たちの未来を左右する鼓動のように感じられる。


「……レオン、外では多くの人が、私たちのために戦ってくれているんだね」


 エリスはソファに座り、空中に浮かぶコメントの流れを指でなぞった。


 『守護者様、負けないで!』


 『愛に国境も法律もない!』


 熱を帯びた言葉の数々が、冷たい石造りの部屋に、不思議な活気をもたらしている。


 レオンは、遺跡の各所に設置された魔導カメラの死角を点検しながら、不敵な笑みを浮かべた。


「ああ。あいつらの熱意は、どんな強力な魔法よりも頼りになる盾だぜ。だがエリス、俺たちはただ守られるだけじゃいけない。この遺跡が、世界にとって『必要な場所』であることを証明しなきゃならないんだ」


 レオンの言葉に、エリスは真剣な眼差しを向けた。


「証明……。どうすればいい?」


「この遺跡にある古代の知識を、独占するんじゃなく、世界のために少しずつ公開していくんだ。癒しの魔法や、不毛の地を豊かにする技術。それを使えば、誰も君を『排除すべき障害』だなんて言えなくなる」


 レオンの提案は、守護者としてのエリスの常識を覆すものだった。


 これまでのエリスは、遺跡を外部から隠し、守ることだけが使命だと思い込んできた。


 しかし、レオンが示す未来は、遺跡を開放し、人々を幸せにすることで守るという、全く新しい守護の形だった。


***


 エリスは深く考え込み、やがてゆっくりと頷いた。


「……お前の言う通りだ。私は、この場所を守るために、孤独を選んできた。でも、お前が教えてくれた。分かち合うことで生まれる強さがあることを」


 エリスは立ち上がり、遺跡の深部に眠る巨大な魔導書を呼び出した。


 空中に展開された無数のページには、現代では失われた高等な魔術理論が、光り輝く文字で記されている。


「これは、土壌の浄化と植物の成長を促進する古の魔式だ。これを地上へ送ろう。飢えに苦しむ人々を救うために」


 エリスが指先で数式を整理し、配信画面の隅にその理論の一部を投影し始めた。


 世界中の学術院や魔導師たちが、その画面を食い入るように見つめ、驚愕と興奮の声を上げた。


 『信じられない……! これが数1000年前に失われたという「豊穣の術式」か!?』


 『守護者様は、これを無償で提供してくれるというのか!?』


 エリスの慈愛に満ちた行動は、瞬く間に世界中に広まり、彼を「拒絶の壁」ではなく「救済の光」へと変えていった。


 この動きは、エリスを排除しようとしていた貴族たちを沈黙させるに十分な衝撃だった。


 彼らがどれほど理屈を並べようとも、現実に人々を救うエリスの力と善意を否定することはできない。


 王宮からは、改めて友好的な使者が派遣され、エリスとレオンの権利を認める内容の親書が届けられた。


 そこには、ルピナス遺跡を「永世中立の聖域」とし、エリスをその最高責任者として公認する旨が記されていた。


「やったな、エリス! これで誰も文句は言わせない!」


 レオンは子供のように喜び、エリスを軽々と抱き上げた。


 エリスは驚きながらも、その喜びを全身で受け止め、レオンの首に手を回した。


「……ありがとう。お前がいなければ、私は今も、あの暗い地下で一人、侵入者を殺し続けていたかもしれない」


「よせよ。俺はただ、君の本当の美しさを、世界中に知ってほしかっただけだ」


 二人の心は、今や迷いなく一つの未来を向いていた。


***


 その日の夜、聖域ではギルドの仲間たちを交えた、ささやかなお祝いが開かれた。


 エリスは皆が持ち寄った珍しい料理に舌鼓を打ち、聞いたこともない地上の冗談に声を上げて笑った。


 彼の銀色の髪は、聖域を照らす柔らかな光を反射し、まるで星屑を散りばめたように輝いている。


「守護者様、次は私たちの街にも遊びに来てくださいね!」


「ああ。遺跡の管理が落ち着いたら、ぜひ行かせてもらうよ」


 エリスの言葉に、団員たちは歓声を上げ、酒杯を掲げた。


 かつての冷徹な守護者は、今や誰からも慕われる、温かな心を持つ少年へと生まれ変わっていた。


 レオンは少し離れた場所から、皆に囲まれて笑うエリスの姿を、愛おしそうに見つめていた。


 彼の胸の奥では、結魂の刻印が一定のリズムで心地よい脈動を繰り返している。


 それは、エリスが感じている幸福が、そのまま自分に流れ込んでいる証拠だった。


 (エリス。君をこの世界に連れ出して、本当によかった)


 レオンは心の中でそうつぶやき、自分も仲間の輪の中へと入っていった。


 外の世界には、まだ多くの困難や謎が待ち受けているだろう。


 だが、今の彼らなら、何が起きても大丈夫だという確信があった。


 1人のオメガと、1人のアルファ。


 彼らが紡ぎ出した愛は、数1000年の孤独を超え、世界を塗り替えるほどの輝きを放ち続けていた。


***


 夜も更け、宴の喧騒が遠のいた後、二人は中庭のテラスで夜風に吹かれていた。


 エリスはレオンの肩に頭を預け、空に浮かぶ銀色の月を見上げた。


「……ねえ、レオン。私たちのこの配信、いつまで続けようか?」


「いつまでって、そりゃあ、俺たちがじいさんになって、腰が曲がっても続けるに決まってるだろ」


 レオンの言葉に、エリスはクスクスと笑った。


「それは楽しみだね。お前が腰を痛めて、私がそれを魔法で治す配信か」


「はは、最高じゃないか。世界で一番、長生きな夫婦の日常配信だ」


 レオンはエリスの手を握り、その手の甲に深く口づけをした。


 そこには、かつての凍てつくような冷たさは、もうどこにもなかった。


 あるのは、明日という新しい日への希望と、終わることのない愛の温もりだけだった。


 遺跡の深部からは、二人を祝福するように、静かな魔力の旋律が響き続けていた。

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