第6話 会場到着!空気がガチすぎる
オーディション会場の建物は、思っていたよりもずっと大きかった。
白い外壁に、巨大なガラス張りのエントランス。
その前には、すでに多くの女の子たちが並んでいる。
「……ひよりさん……」
優ちゃんが、私の袖をぎゅっと掴んだ。
その手は冷たくて、少し震えている。
「大丈夫大丈夫! ほら、深呼吸!」
「……すー……はー……」
「よし! じゃあ行こっか!」
私は優ちゃんの背中を軽く押して、列の最後尾に並んだ。
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周りを見渡すと、みんな“本気の顔”をしていた。
髪型もメイクも完璧。
姿勢も良くて、オーラがある。
中には、すでに芸能活動してそうな子もいる。
「……みんな、すごい……」
優ちゃんは完全に気圧されていた。
「優ちゃんもすごいよ。可愛いし、ダンスできるし!」
「……ひよりさん、軽く言いすぎ……」
「本気だよ?」
優ちゃんは顔を赤くして俯いた。
(かわいい……!)
私は心の中で叫んだ。
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列が少しずつ進んでいく。
エントランスの自動ドアが開くたびに、中から冷たい空気が流れてきた。
その空気は、緊張と期待が混ざったような、独特の匂いがした。
「ひよりさん……」
「ん?」
「……帰りたい……」
「ダメです!」
私は即答した。
「優ちゃん、ここまで来たんだから! 大丈夫、私がついてる!」
「……ひよりさんがいなかったら、絶対無理……」
「じゃあ、ずっと一緒にいるよ!」
優ちゃんは少しだけ笑った。
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受付が見えてきた。
スタッフがテキパキと番号札を配っている。
「次の方、どうぞー!」
私たちの番が来た。
「エントリー番号……白石優さんですね。こちら番号札です」
「は、はい……!」
優ちゃんは震える手で番号札を受け取った。
「付き添いの方は、こちらの待機スペースへどうぞ」
「あ、はい!」
私は案内されたスペースに向かいながら、優ちゃんに手を振った。
「優ちゃん、頑張れー!」
「……う、うん……!」
優ちゃんは小さく頷いた。
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待機スペースには、同じように付き添いで来ている人たちがいた。
でも、私は落ち着かない。
(優ちゃん、大丈夫かな……)
そう思っていたとき――
「ねえ、あなたも付き添い?」
隣の席の女の子が話しかけてきた。
明るい茶髪に、ぱっちりした目。
雰囲気はギャルっぽいけど、どこか柔らかい印象。
「あ、はい! 友達の付き添いで!」
「そっかー! 私も妹の付き添いなんだ!」
「へえ、妹さんが受けるんだ!」
「うん! めっちゃ可愛いよ! でも緊張しいだからさー」
「わかる! うちの子も緊張で死にそうだった!」
「“うちの子”って言うの可愛いね!」
「え、そう?」
そんな他愛ない会話をしていると、少しだけ緊張がほぐれた。
(……でも)
私はふと、会場の奥を見た。
ステージの方から、歌声が聞こえてくる。
その声は、まだ遠くて、誰のものかもわからない。
でも、胸の奥がざわついた。
(なんだろ……この感じ)
私は無意識に立ち上がっていた。
「どうしたの?」
「なんか……すごい声が聞こえた気がして」
「え、誰か歌ってるの?」
「うん……」
私はステージの方へ視線を向けた。
その瞬間――
胸の奥が、ぎゅっと掴まれたような感覚がした。
(……なに、この感じ)
まだ姿は見えない。
でも、確かに“何か”が始まろうとしていた。




