第1話 陽キャ女子高生、転入生と出会う
四月の風は、まだ少しだけ冷たい。
でも、私――**天野日和**のテンションは、いつだって春全開だ。
「ひよりー! 今日のホームルーム、またまとめよろしくねー!」
教室に入るなり、クラスの誰かが声をかけてくる。
私は手をひらひら振って応える。
「任せといて! 今日も元気にいきましょー!」
ギャルの美咲も、オタクの智也も、帰宅部の海斗も、みんな私に気軽に話しかけてくれる。
別に“人気者になりたい”とか思ったことはない。
ただ、誰とでも普通に話せるだけ。
それが私の取り柄で、たぶん唯一の才能だ。
――そんな私でも、今日はちょっとだけソワソワしていた。
理由はひとつ。
**転入生が来る**からだ。
新しい人が来ると、クラスの空気が変わる。
その変化をどう受け止めるかで、クラスの雰囲気は大きく変わる。
だから私は、自然と“まとめ役”みたいな立ち位置になってしまう。
(今日も、うまく空気作れるといいな)
そんなことを考えていたら、担任が教室に入ってきた。
「えー、今日は転入生を紹介する。入ってきて」
教室の空気が一瞬で静まる。
扉が開き、ゆっくりと一人の女の子が入ってきた。
黒髪のボブ。
細い肩。
制服の袖をぎゅっと握りしめて、視線は床に落ちている。
「白石優です……よろしくお願いします」
声は小さくて、震えていた。
教室の空気が、ふわっと揺れる。
(あ、これは……緊張してるやつだ)
私はすぐに察した。
こういう子は、放っておくと孤立しやすい。
だからこそ、最初の一歩が大事だ。
「白石さん、こっちの席だよー!」
私は手を挙げて、明るく声をかけた。
優ちゃんは驚いたように顔を上げ、私を見た。
その目は、怯えた小動物みたいに揺れていた。
(かわいい……!)
思わず心の中で叫んだ。
でも、表情はいつも通りの笑顔を保つ。
「私、天野日和! よろしくね!」
席に着いた優ちゃんに、私はすぐ話しかけた。
彼女はびくっと肩を震わせたけど、少しずつ表情が和らいでいく。
「……よろしく、お願いします」
「緊張してる? 大丈夫だよ、うちのクラスみんな優しいから!」
「……うん」
その“うん”が、か細いけど確かに聞こえた。
――この瞬間、私は思った。
(この子、守ってあげたいタイプだ)
私の“深入りしない主義”は、基本的に誰にでも適用される。
でも、優ちゃんみたいに不安そうな子を見ると、つい手を差し伸べたくなる。
その日の放課後。
優ちゃんは、帰り支度をしている私のところへ、そっと近づいてきた。
「あ、あの……天野さん」
「ひよりでいいよ!」
「……ひより、さん」
その言い方が可愛すぎて、私は思わず笑ってしまった。
「どうしたの?」
優ちゃんは、制服の袖をぎゅっと握りしめたまま、勇気を振り絞るように言った。
「……お願いが、あります」
「うん、なんでも言って!」
「……一緒に、アイドルのオーディションに……来てほしいんです」
「…………え?」
私は一瞬、理解が追いつかなかった。
アイドル?
オーディション?
私が?
「わ、私……アイドルになりたくて。でも、一人じゃ怖くて……」
優ちゃんの声は震えていた。
でも、その目だけは真剣だった。
(ああ、この子……本気なんだ)
私はすぐに笑顔になった。
「いいよ! 行こう!」
「……え?」
「だって優ちゃんが困ってるんでしょ? 行く行く!」
優ちゃんは、ぽかんと口を開けた。
「……そんな簡単に……?」
「簡単だよ! 友達のお願いだもん!」
その瞬間、優ちゃんの目に涙が浮かんだ。
「……ありがとう……」
その涙は、嬉し涙だった。
(よし、これで優ちゃんの力になれる)
私はそう思っていた。
――このときはまだ知らなかった。
この“軽いノリ”が、私の人生を大きく変えることになるなんて。
そして、
**人生初の“推し”に出会うことになるなんて。**




