第15話 自分の番が近づく
黒瀬瑠歌のステージが終わってからも、私はずっと胸の奥がざわざわしていた。
でも――
現実は容赦なく進んでいく。
「一次審査の結果を発表します。番号順に呼ばれた方は、こちらへお進みください」
スタッフの声が響いた瞬間、
優ちゃんの肩がびくっと震えた。
「……ひよりさん……」
「大丈夫。優ちゃん、絶対いけるよ」
私は優ちゃんの手を握った。
優ちゃんの手は冷たくて、汗ばんでいて、震えていた。
(……そりゃそうだよね)
あれだけ緊張して、あれだけ頑張ったんだ。
結果を待つ時間が一番つらい。
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番号がひとつずつ呼ばれていく。
「……32番、33番……」
優ちゃんの番号は――
**38番。**
あと少し。
優ちゃんは息を止めて、じっと前を見つめていた。
(……がんばれ……!)
私は祈るように手を握りしめた。
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「37番……」
優ちゃんの肩がぴくっと跳ねる。
「次……だ……」
「うん……!」
私まで心臓が痛い。
付き添いなのに、なんでこんなに緊張してるの。
(……優ちゃんのこと、こんなに大事だったんだな)
自分でも驚くほど、胸がぎゅっとなる。
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「38番――」
その瞬間。
「はいっ……!」
優ちゃんが小さく震える声で返事をした。
スタッフが優ちゃんに紙を渡す。
「一次審査通過です。二次審査の案内はこちらになります」
「……っ……!」
優ちゃんの目に涙が溜まった。
「優ちゃん……!」
「ひよりさん……! 受かった……!」
優ちゃんは私の胸に飛び込んできた。
私は思わず抱きしめた。
「すごいよ! 優ちゃん、ほんとにすごい!」
「……うん……! ありがとう……!」
優ちゃんの声は震えていたけど、
その震えはもう“恐怖”じゃなくて、“喜び”だった。
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でも――
その喜びの余韻に浸る間もなく、スタッフの声が響いた。
「二次審査の準備をお願いします。呼ばれた方は控室へ移動してください」
優ちゃんが顔を上げる。
「……ひよりさん……」
「うん」
「……次……私の番……」
優ちゃんの声が震える。
でも、さっきまでの“逃げたい震え”じゃない。
“やるしかない震え”だった。
「大丈夫。優ちゃんならできるよ」
「……うん……!」
優ちゃんはぎゅっと拳を握った。
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そのとき――
控室の奥で、黒瀬瑠歌が立ち上がった。
静かに、ゆっくりと。
その姿を見た瞬間、
胸の奥がまた跳ねた。
(……瑠歌ちゃんも……二次審査に行くんだ)
当たり前だ。
あの歌声で落ちるわけがない。
でも、胸がざわつく。
(……また見れる……)
その事実だけで、心臓が熱くなる。
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「ひよりさん……?」
「ん?」
「……ひよりさんも……緊張してる……?」
「えっ!? わ、私!? なんで!?」
「だって……顔真っ赤……」
「うっ……!」
図星すぎて言葉が詰まった。
(……なんで私まで緊張してるの)
優ちゃんのことも心配。
でも――
瑠歌の姿を見るだけで胸がざわつく。
(……これが……“推し”ってやつ……?)
自分でもよくわからないまま、
私は優ちゃんと一緒に二次審査の控室へ向かった。




