第8話 俺の秘書官。
「…お前はどう思う?」
煮詰まった会議を切り上げて執務室に戻る。スペーナ国もフルール国も自国のワインを我が国に輸出したいと言ってきているが、重鎮たちは自国のワイン産業を守るためには受け入れるべきではない、と。どこまでいっても平行線なので、持ち帰りとした。
「うーん、そうですね。うちの国のワインに自信があるのなら、反対するのもどうかと。安価で美味しいワインが入ってくるのであれば、庶民は喜びますでしょう。半面、一部の…その利権を独占している一部の人は、それは反対しますよね。売り上げは減るでしょうから。」
「うむ。」
「国内のワイン産業においては、いい刺激材料になるのではないかと思いますね。高くて当たり前のワインを作り続けるのか、安価で美味しいワインに対抗できるものを作っていけるのか。このままの産業体系で良いのか。考えるタイミングです。私は輸入してもいいと思います。自信があるならうちのワインを国外に輸出すればいいことです。」
「うん。そうだよな。」
「お疲れでしょう?お茶にしますね。」
「ああ。」
そう言って俺の秘書官は控室でお茶を入れ始めた。ちょうど一息つきたかったタイミングだ。
すっと伸びた背筋。茶器を扱う手つきも綺麗だ。
10月も半ばになったので、リボン付きのタイが付いたブラウスにジャケット。広がりすぎないスカート。高過ぎず低すぎないヒールの靴。
かゆいところに手が届く、というか…
俺、もうこいつだけいたら侍女も秘書官もいらなくないか?
*****
「ねえ、エミー?あなた10月の舞踏会どうするの?」
「出ますよ。」
月に一度はこうしてエミーを呼んで、自室で話し込む。お菓子やらワインも用意した。
「え?誰と出るの?」
「え?ハインリヒ様の侍女として、ですよ。」
「なーんだ。私はまた、貴女が熊を捕まえたのかと思っちゃったわよ」
「熊ねえ…熊もいいけど、このままハインリヒ様の秘書官兼侍女としてやっていくのもありかなあ、って思ったりしてる。お給金いいし。仕事も楽しいし。」
「え?」
「だって…熊だって選ぶでしょう?この前裏庭で偶然見ちゃったんだけどね、前話していた2メートルの騎士様がお城の侍女にお菓子を手渡されててね…それが150センチくらいしかないくらいの小さくてかわいい女の子なわけよ。もう、騎士様も真っ赤な顔でさあ…やってらんないわ。」
もう酔ってるの?エミー?
「私、お給金をためて、やっぱり東洋の島国まで行くわ。うん。」
エミー?