第7話 王城には熊がいます。
「エミーリエ、夏過ぎたら俺は外交の仕事で王城に上がるんだが。」
「はい。承知しております。」
侍女が選んだ今日着る服に着替えながら、話を切り出す。今日も襟元の空いた、涼しげな、それでいてだらしなくない絶妙な選び方だ。
「お前、俺の秘書官として王城に上がらないか?」
「はい。お坊ちゃまの命令でしたら。ただ…」
「ん?なんだ?」
「私、私服をあまり持ってきておりません。制服を用意いただければ幸いでございます。侍女服では失礼でしょうから。」
「そんなことか。仕立て屋を呼ぼう。ついでに何着か服も作れ。茶会だのに呼ばれたりもするから。もちろん、俺持ちだ。」
「はい。ありがとうございます。」
エミーリエの秘書官用の制服が出来上がってくる頃、ぼちぼちと使用人たちも休暇から戻ってきた。両親と妹と、そこに付き添っていた使用人も戻った。
静かだった夏が、終わっていく。
*****
「ねえねえ、エミー?兄上にこき使われてるんでしょう?大丈夫?」
「大丈夫よ。仕事は大したことないわ。王城には行けるし、王立図書館には入れるし。それにね…トルデ…」
「ん?」
民族大移動のようなバカンスが終わり、お土産交換会もひと段落した。
私はまた学院の後期の授業が始まったからバタバタしてたし。エミーはエミーで毎日侍女の仕事と兄上の秘書官の仕事をこなして、なかなかに忙しそうだ。
エミーとゆっくり話す機会もなく、もう9月も中旬を過ぎていた。明日の日曜日に久しぶりにお休みだというエミーを、こっそり自室に呼んだ。
それにね、と言ったエミーがどうしたことかニマニマ笑っている。
「それにね…トルデ!王城にはね!熊がたくさんいるのよ!」
「ん?熊?」
「もうねえ、近衛にも騎士団にも、あまり見れないけど軍にも…熊がね、熊がたくさんいるの!!いるところにはいるのねえ…うふふふふっ」
「熊?…ああ…熊のように大きい男、ね…」
また…この子は…
「もう、毎日のようにワクワクするのよ!本当に大きい人っているのねぇ…。父も兄も大きいと思ってたんだけど、そんな比じゃないの!もう縦横大きかったりね…この前は二メートルはあろうかという騎士を見たわ!!!」
「……」
こんな楽しそうな顔のエミー、久しぶりに見たわ。顔がだらしなくてよ??
軍は平民から上がってきた人も多いが、近衛騎士はほとんどが貴族の次男坊や三男坊。エミーが恋に落ちたとしても、そう問題はないか?
「どなたか、好みの男の子がいるの?ん?」
「いやいやいやいや…騎士団の交代の時とか、そんな時に見かけるだけで、声すらかける機会はないわよ。やっぱり…リサーチは必要かしら?」
リサーチ?
ときめき、ではなくて??