第6話 掘り出し物。
毎日のように来客が多い。夏のバカンスに行かないのか?
なんてことはない、帰国のお祝いと言いながら、自分の娘の自慢?今のところ直接言ってくる猛者はいないが、俺の嫁にどうか、ってことなんだろう。
連れてこられた令嬢たちは、この暑いのにきっちりとドレスを着こんでいる。
あと、化粧もみっちりだ。見ているこっちが暑苦しくなる。
侍女がその都度、冷たい紅茶を運んでくる。ミントの葉が浮いていたり、レモンが浮かんでいたりする。侍女は…髪を結い上げているので、首元が涼しげだ。
一段落したころ、王城に呼ばれる。
帰国のあいさつと、多分…登城して仕事しろって言う催促だろうと思われる。
「王城での晩餐に招待されておりますので、正装で。お坊ちゃまの滞在の長かったフルール国の雰囲気をピンブローチでほんの少し加味しておきました。お持ちになるものは、お土産のこの箱でよろしかったですね。本日つく護衛騎士はマックスさんです。」
「ああ。」
侍女は荷解きも完璧にやってのけた。各署へのお土産、家族への物、使用人への物。
視察先での殴り書きのようなレポートの清書。資料の添付。書籍の整理。なんなら、外国語の資料をこの国の言葉でわかりやすく書き起こしてくれた。
フルール語、イング語、スペーナ語…スペーナ語はさすがに辞書を片手にだったが…
それらを片っ端から片づけていく。
午前中は俺の執務を手伝い、書類の仕分け、走り書きした手紙の返事の清書…領地からの陳情の一覧表及び、その優先順位付け。
午後は来客の対応を執事長と。
夏中かかるかと思われた山積みの書類は、二週間もすると片付いた。
毎朝、侍女が机を磨き上げるほど机の上はさっぱりした。
「明日は日曜日ですので、お坊ちゃまの予定は入れておりません。一日ゆっくりお休みください。私も一日お休みを頂戴いたします。」
「ああ。」
まあ年頃の女の子なんだから、服を見にいくとか?かな。すらりとした長身の侍女が深々とお辞儀をして下がっていく後姿を見る。
掘り出し物、とオットマーが言っていたが…そうだな。妹の話では、訳アリ、ってことだったが、確かに小さな器のところにいたら、あふれてしまう能力かもしれない。
訳があるとしたら、その辺だろうか。
夏過ぎに俺が仕事で王城に上がることになったら、秘書官としてつれて行くか?
家の…父の業務を手伝わせるか?
どちらにしても、俺の侍女はそつなくこなしそうだ。
さて、俺も明日は一日だらだらと過ごそう、と心に誓う。