第4話 侍女、始めました。
「あら、似合うじゃないの!」
うちのお仕着せの侍女服を着こんだエミーは、髪を結い上げてキリっとした知的美人に仕上がった。この貴族社会では、婚約破棄された令嬢が侍女に上がるというのはよくあること。ほとぼりが冷めるのを待って、良い人を見つけたり、手に職をつけたり…
エミーリエの家族も快く了承してくれた。デイーはうちに迷惑をかけないか心配していたけど。
もうすぐ帰国する兄上の専属になった。仕事内容は、自分にも侍女が付いていたので大丈夫だろうと言っていたし。
「要は…うちの侍女と同じようにしたらいいんでしょう?」
そう言って笑った。
兄上の部屋と、兄上の執務室の管理も任せた。
うちの両親は兄上の帰りを待たず、さっさとバカンスに出かけて行ったし。
父上が未処理の書類が次々に兄上の執務室に放り込まれていく。これは…あれね?父上の兄上への抗議?本来ならとっくに机を並べて執務の引継ぎが行われていたはずだから。兄上がアカデミアを出てから…まさか5年も遊学して帰らないとは思わなかったでしょうしね。
兄上の帰国のタイミングも悪かった。使用人も夏の休暇に入るタイミングだったし。急だったし。私もこれからデイーの家族と伯爵家の別荘に向かうし。
取り急ぎ、帰ってきた兄上に挨拶を済ませ、エミーを紹介する。
「おかえりなさいませ。お兄様。お兄様専属になった侍女のエミーリエです。なにかあったら彼女に。」
「ああ。」
「エミーリエ、レオナルト公爵家の嫡男、私の兄上のハインリヒ。」
エミーは深々とお辞儀をしている。大丈夫そうね。
「お兄様?お父様とお母様は待ちきれずにバカンスに出かけました。私も出かけてしまいます。使用人も少なくなりますので、ご了承ください。」
「ああ。」
*****
久しぶりに戻った実家は、思いのほか静かだった。時期が時期だからな…皆、夏の休暇に入っているようだし。交代で休暇を取っているが、当主もバカンス中だからか本当に静かなもんだ。
侍女に申し付けて、風呂の用意をしてもらって、風呂に入る。
人手が足りないらしく、俺の侍女がお湯のバケツを運んでいた。ぬるめの、ちょうどいい湯加減だ。
「髪を洗いますか?お坊ちゃま?」
と入浴中に声をかけられて驚く。妹と同じ年の子だろう?髪を洗わせるわけにはいかないだろう?それとも、なにか?俺狙いだったり?だから若い侍女とか女中は面倒で嫌なんだ。
「いや、いい。」
そういうと、風呂場から気配が消えた。
風呂から出ると、着替えとタオルが揃えて置いてあった。
ガシガシと髪を拭きながら部屋に戻ると、氷の入ったレモネードが用意してある。
そのわきのトレーには、至急と書かれた書簡が何通か載せてある。ペーパーナイフも添えてある。
「…へえ」