第2話 理不尽。
「エミー?私よ。開けて頂戴。一緒に晩御飯を食べましょう?」
ドンドンッとドアをノックすると、カチリッと鍵の開く音がした。
「トルデリーゼ?」
「そうよ。入るわよ。」
晩御飯の乗ったワゴンごと、エミーの部屋に入る。
もう6時は回ったが、まだまだ外は明るい。開け放たれた窓から、夕方の風が入ってくる。
もっと…荒れ果てた部屋、とか、痩せて目の下にクマを作ったエミー、とかを想像してきたが、いたって普通のいつもの部屋だ。目の下にクマもなさそうだ。過ごしやすそうな部屋着をするんと着ている。そこからすらりと伸びた長い脚。
エミーの部屋のお茶用のテーブルに二人分の食事を並べる。
こっそりデイーがワインも持たせてくれたから、グラスも並べる。
「で?」
「……」
グラスにワインを注ぎながら、向かいの席に座ったエミーに声をかける。
「で?貴女的には3日も籠って泣き暮らすほどエーベルハルトが好きだったわけね?」
「好き?ねえ…それはよくわからないわ。でもね、もう5年も婚約者だったわけだし、私たち仲良しだったし…そう思っていたんだけど」
「……」
「性格が合わないとか、誰か好きな人ができたとか、ならまだしも…」
そうよね。貴族の婚姻にそれもどうかとは思うけど。ぐいっとワインのグラスを空けたエミーのグラスにワインをつぎ足す。
「籠っている間も考えていたんだけど…例えば、目が小さいとか、鼻が低いとかなら化粧で何とかできそうだし、太っている、なら頑張って痩せてみるとかね。勉強ができないというなら努力すればいいし…性格、って言われると歩み寄るしかないかなあ」
うん、うん。そうね。
「でも、身長が高いから、って?どうすりゃいいのよ?ね?トルデ?」
そうねえ…
「私だって気にしてなかったわけじゃないわよ?舞踏会では背が高いのがばれないようにふわっとしたドレスを着て、靴なんかフラットシューズを履いてたのよ。髪だって結わえるとますます背が高く見えるだろうから下ろして…気を使ったっつーの。」
ぐいっとグラスを傾けるエミー。
「…そうねえ。似合わない格好だったわ。」
このすらっとした体躯を生かせるすっきりとしたドレスの方がどれほど似合うか、って私も思っていたわ。長身にふわふわのドレスにパフスリーブ。逆に…迫力が出る。
「似合わないって…トルデ…」
そう、舞踏会でこの子のお相手のエーベルハルトに群がってきていたご令嬢は、みなそれなりに小さくかわいい系。面と向かっては言われなかったのかもしれないが、私の方がお似合いだわ、ってつぶやきは聞こえてきていた。
…お似合いって…結婚相手を、しかも侯爵夫人になる人を、並んだ時の身長で選ぶのもいかがなものかと思う。エミーリエは次期侯爵夫人になるべく、かなり厳しく教育されてきたから。私の婚約者殿を見ても思う。どんだけ厳しく教育したらこうなるのよ!ってくらい。おそるべしローマン伯爵家!
「だから…背が高いからっていう理由での婚約解消って、納得できないっていうか、腑に落ちない、っていうか…理不尽?」
そうよねえ…