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第12話 番外編 ヒール。

「どきなさいよ!この大女!!」


わなわなと震えながら、空になったワイングラスを握りしめているご婦人が、ハインリヒ様の前に立ちふさがった私に罵声を浴びせる。先ほどかけられたワインで、侍女服がびしょびしょだ。足元に赤ワインの水たまりができている、


顔を真っ赤にして怒っていても、このご婦人は可愛らしい。

ヒール分を引いたら身長は155センチくらいか?

大女、ねえ…大女のおかげで、仕えている方のお洋服を濡らさずに済んだなら、少しは大女であることも役に立つのかもね…


ほどなく来たご婦人の夫と思われる方が何度も頭を下げて、なだめすかして鼻息の荒いご婦人を連れ帰った。遠巻きに事の次第を見守っていた女中の皆様が、手早く私の侍女服と床を拭きだす。お坊ちゃまが先ほどから何か言っているのだが、良く…言葉として頭に入ってこない。

「お坊ちゃま、私、着替えてまいりますね。」

そう断りを入れて、控室に急ぐ。




親友の勧めで、公爵家の侍女に上がった。

初めてお仕えしたハインリヒ様。


「お前、猫背だぞ?せっかく綺麗な礼儀作法が台無しだ。背筋を伸ばせ。ヒールのある靴を履け。」


小さい頃は身長なんか気にしたことはなかった。学院に通うようになって、周りの女の子より自分が背が高いと自覚させられた。仲が良かったと思っていた婚約者は、私に話しかけてこなくなった。かかとのある靴をやめて、フラットシューズに。ドレスもスカートにボリュームを出すと背が低く見えると聞いてそうした。髪だって結い上げなかった。いつの間にか…猫背になった…。


ヒールのある靴に履き替える。

ぐっと背筋を伸ばしてみると、世界がほんの少し広がった気がした。


「そうだ。しゃんとしていろ。お前は立ち居振る舞いが綺麗なんだから。」


書類から目をあげて、ハインリヒ様が笑う。

初めてハインリヒ様の笑う顔を見た。

少し癖のある金髪に、夏空のようなブルーの瞳。


たったその一言に、泣きそうになってぐっとこらえる。





でも、さすがに今日みたいな日はくじけそうになる。

今日の舞踏会で見かけた私の元婚約者は、クリーム色のふわんとしたドレスを着た小柄な女の子をエスコートしていた。

ハインリヒ様に群がる女の子も皆さん可愛らしい。

ワインをかけたご婦人は、ハインリヒ様の元婚約者。


「大女…か…違いない。」


控室で体を拭いて着替える。靴も靴下も濡れてしまった。

予備に持ってきていたハインリヒ様に作っていただいた余所行き着に着替える。靴のヒールは5センチ。


大きな姿見に映る自分に話しかける。もう何百回同じセリフを自分に語りかけたか。


「そうだ。しゃんとしていろ。お前は立ち居振る舞いが綺麗なんだから。」


鏡に、ヒールを履いてしゃんと背筋を伸ばす長身の女が映る。


よし。


パンッ、と頬を叩いて、歩き出す。




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