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負犬物語 -スラム・ドッグス-  作者: 民間人。


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藤壺

 アンダーと別れて家へと戻ったビッチは、いの一番に赤子をベッドに下ろし、おむつを確認する。


「ぅぇ・・・」


 足を無意味にばたつかせる我が子の膨らんだおむつを見て、思わず声がこぼれた。彼女は心底嫌そうにおむつを取り替える。自分のそれより一回り高いおしりふきで丁寧に残りを拭き取り、赤ちゃん用の乳液を丁寧に塗り込む。『自分の子に似合わず』大人しい良い子らしく、泣きじゃくることも少ないのは内心助かっているものの、彼女にとっては愛情も愛着もない『どの男』のかも分からない子供である。特別な思い入れがあるわけでもない。

 時計を見て、厨房へ入ってミルクを作る。ついでに自分の食事も片手間に用意してしまうと、ミルクを冷やす間に電子レンジを開いた。


 今日の食事は『レンジで簡単スパゲッティ』たらこ味である。特別においしいとも感じないが、手軽さは群を抜いている。温めが終わるまで冷蔵庫の中からリンゴ酢を取り出して一杯飲む。

ひとしきりルーティーンを終えると、何気なくスマートフォンを開いた。

ロック画面の通知欄を見て、まずは眉を顰める。


『さよ衣 着てなれきとは いはずとも かごとばかりは かけずしもあらじ※ 』


ベインからと一目で分かる連絡が一番上の通知欄にある。彼女はこれをスワイプして通知欄から削除し、動画配信アプリをタップする。子育てに関する情報を伝える配信者の投稿履歴を確認し、最新動画を視聴する。

 ミルクの温度を時々確認しつつ、全ての作業を片手間にこなした。

 動画を再生し終える頃、アンダーからのSNSメッセージが通知される。何らかのサイトのURLと見て、彼女はSNSを開いた。


URLに続いて短いコメントが追加される。


『俺も先日お世話になったけど、子育てがつらいようなら相談してみてな』


URLは子供の保護施設のようであった。彼女が何より驚いたことを、率直に返信する。


『お前でも出来ちゃったの!?』

既読がついてからしばらく間をおいて、『前保護した子を預かってもらったの』というコメントが返ってくる。思わず鼻で笑い、彼を弄る。

『そりゃそうか。お前じゃ無理だわなw』

『いきなり刺してくんな。泣くぞ』


 再び乾いた笑いが零れる。ミルクを軽く振りながら、片手でてきとうなスタンプを送りつけると、そこで会話が終わった。


少し心が和んだらしい彼女は、電子レンジと赤子に呼ばれ、取り敢えずレンジを開ける。そして、泣き声に何度も返事をしつつ、幼子にミルクを与えた。ミルクは凄まじい勢いで哺乳瓶から吸い上げられていく。大量の白い泡が瓶の中で膨張して、赤子の口元からも少しミルクが垂れた。


「あーあーあー」


彼女は柔らかいタオルハンカチで口元を拭ってやる。続けてスマートフォンがメッセージ受信の音を鳴らしたが、彼女は赤子がミルクを飲み干すまでそれを無視し続けた。


ミルクを与え終え、自分の食事を摂りながら、スマートフォンを開く。通知は職場からで、次の健康診断の日程を伝えるものであった。彼女は一目だけ確認してその場にスマートフォンを放り、パスタを啜る。時折赤ん坊の様子を横目で確認し、10分足らずで食事を終えると、さっさと片づけを始める。洗い物を済ませる間に、二、三度泣き声を聞いたが、彼女は構わずに洗い物を続けた。

洗い物を終えると赤ん坊をあやして落ち着かせ、眠らせてからソファの上で寝転がった。

 毛布を体に掛け、「電気消して」と一声かけると、ひとりでに部屋の電源が落ちる。電源が落ちた後、顔全体にブルーライトを浴びながら、ファッション情報を適当に漁る。『男ウケの良さそうな』ファッションにフラグを立て続け、そのまま画面を顔面に貼り付けるようにして眠りについた。


紫式部『源氏物語』「第四七 総角」薫20

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