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負犬物語 -スラム・ドッグス-  作者: 民間人。


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泥酔

「ただいま・・・」

「ぅ、くっせ!」


 扉を開けた途端、耐え難いアルコール臭を放つアンダーと友人が現れたことで、パピーはオコジョから手を離して鼻をつまんだ。上機嫌に鼻歌を歌う友人を食卓に座らせたアンダーは、慣れた様子でコップに水を注ぎ、それを友人に飲ませる。ちょうど一杯目の酒を仰ぐときのように、豪快に水を飲み干した友人は、しゃっくりの後にげっぷをし、周囲にアルコール塗れの口臭を垂れ流した。


 パピーは首のすわっていない赤子のような大人を警戒しきっており、アンダーの机の傍に貼り付いた。オコジョがしなやかな尻尾を振って男に近づこうとするのを、パピーの手が遮る。すらりとした長い胴を器用に掬い上げた彼は、オコジョを抱きかかえながら、突然の来訪者を睨んだ。


「悪い、ちょっと悪酔いしててな・・・」

「これ、ちょっとじゃないだろ・・・」


 パピーがそういうと、友人は唐突に笑い声をあげ、パピーに寄りかかろうとする。すかさずアンダーが腕で支え、自分の布団の上に眠るように誘導した。


「ぇ、なに、この、おっさん・・・?」


 アンダーは、目を白黒させるパピーの隣に鞄を置き、そこに肘をかける。背後からは熟成したアルコール臭が仄かに臭ってくる。


「大学の同級生。・・・酒癖悪いんだよ、こいつ」

「お前、変な奴と関わるとろくなことにならないぞ・・・!」


 鞄から参考書を取り出し、伸びをするアンダーに、パピーは心配そうに近づいた。アンダーは構わず少年の頭をてきとうに撫で、安いペンケースからペンを取り出す。

 ひどいいびきで地鳴りがする中、彼は慣れた様子で勉強を始めた。


「ほっとけ。そのうち正気に戻る」


 それから2時間、パピーは一歩も友人に近づくことなく、大いびきをかく男を凝視していた。アンダーが立ち上がると同時に瞼を持ち上げた友人は、低い天井を見て飛び起きる。


「お、おはよう。店の会計は財布から支払っといたからな」

「アンダーか・・・。わり。頭痛ぇ・・・」


 布団をはだけさせて頭を抱える友人のために、アンダーが水を一杯注いで運ぶ。すると、友人はそれを黙って受け取り、一気に飲み干して、やはりげっぷをした。

 同時に、周囲に再びアルコール臭が充満する。パピーが部屋の隅に離れると、ようやくその陰に気づいた友人がアンダーに尋ねた。


「あん・・・?子供?」

「親戚の子な。ちょっと預かってるんだ」


 友人はとろんとした目つきでパピーを見つめる。オコジョを強く抱き寄せたパピーの様子を見て、彼はぼさぼさの頭を掻いて立ち上がった。


「ありがとな、アンダー。ちょっと部屋戻って寝るわ」

「気をつけてな」


 友人はふらつきながら自室へと戻っていく。彼が完全に部屋を出た途端、アンダーは机の前にある窓を即座に開け放ち、カーテンを素早く束ねた。


「・・・くっせ!」

「くっせぇー」


 パピーはこだまのように言って笑う。アンダーは、ようやく肩の力を抜いたパピーの頭を掻き撫で、「悪かったな」と小さく言った。パピーは黙って頷くと、アンダーの布団の上に座り、アンダーの丸い背中を背もたれ代わりにして、夕方のニュースを見始めた。


 その様子を、アンダーは背中で感じながら、膝の上に乗ってきたオコジョ2匹を一撫でする。夕食の時間を告げる夕方のサイレンが鳴るまでの間、彼は捗らない勉強に手を付けることができた。


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