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負犬物語 -スラム・ドッグス-  作者: 民間人。


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連絡

 アンダーが講義を終えて帰宅した際に、その電話はかかってきた。

 自分のスマートフォンがけたたましい呼び出し音を鳴らすのは久しぶりのことで、彼は思わずスマートフォンを取り落としてしまった。

 慌てて床から持ち上げ、画面をのぞき込むと、発信者はパピーの件でお世話になっている保護施設からであった。さっそく通話のボタンを押す。


「もしもし」

『もしもし。アンダー様のお電話でお間違えないでしょうか?』


 彼は素早く手元にメモ帳を寄せる。ボールペンは参考書のすぐ隣にあった。


「はい。お世話になっております。ご用件はなんでしたか?」

『ええ、こちらこそお世話になっております。実は、パピーくんの件で、保護者との会話を進めていたところ、我々の方で対処して頂けないかと、そのようにご回答を頂きまして』


 衝動的に頭に血が上る悪癖を何とか抑えながら、アンダーは淡々と返事を返した。


『そこで、我々の施設で保護しようということになったのですが、現在、パピーくんのご様子はいかがでしょうか』


 アンダーは隣に目をやる。パピーはオコジョたちと威嚇をして遊んでいる。


「・・・まぁ、ぼちぼちですね。少し丸くなったかなと」


 そう答えると、受話器越しの会話が自分のことと気づいたのか、パピーは肘掛け代わりの鞄を挟んで隣に近づいてくる。じっとりとした視線を受けながら、アンダーはなるべく受話器の向こう側に意識を集中させた。


『そうでしたか。それは良かった。アンダーさんのご協力のおかげです。本当にありがとうございます。それで、保護の日程ですが・・・』


 黙って続きを待つアンダーの手から素早くスマートフォンが奪い取られる。アンダーがパピーを諫めようとすると、スマートフォンを耳に当てたパピーが、つっぱねるように答えた。


「俺いかないから。そっちに」

「おい・・・!」


 アンダーがスマートフォンを奪い取ると、受話器越しに子供達の声が遠く聞こえた。それに重ねて、施設の保護員の生温い、諭すような声が耳元でささやかれた。


「あ、あの・・・。すいません」

『アンダーさん。こちらこそ申し訳ありません。パピーくんの意思も尊重しなければいけませんね。それで、どういたしましょう。今後も私共が訪問して、保護観察をしながら、様子を見るという方法もございます。もちろん、アンダーさんのご意向を尊重いたしますので』


 アンダーはパピーに視線を送る。彼は口を引き結び、人を刺しそうな剣幕で彼を睨んでいた。アンダーは呆れたような溜息と共に、困ったような苦笑いをこぼした。


「・・・わかりました。一緒に様子を見ましょう。ただ、彼の通学とか、そういう事に手が回らないのが現状でして・・・。そのあたりはどうすればいいでしょうか?」

『ご協力ありがとうございます。通学等に関しては、パピーくんの御意向を尊重していくのが良いかと思います。彼なりに安心できる場所ができてから、巣立って行くというのが理想ですので。もしもご負担が大きいようでしたら、私共が責任をもって保護いたしますので、アンダーさんの出来る範囲で、くれぐれもご無理なさらないようにお願い申し上げます』

「はい。はい。お願いいたします」


 一連の通話を終え、ようやく通話を切ると、未だにパピーが険しい表情で彼を睨んでいた。


「居ていいからな」

「・・・ありがとう」


 パピーは、そう言ってそっぽを向く。そそくさとアンダーの傍を離れると、2匹でじゃれ合っているオコジョたちの間に割って入り、指や手でちょっかいを出して遊び始めた。


「そいつら意外と凶暴だから気をつけろよ」

「んー」


 短い会話を終えると、アンダーは手近にあった鞄の上にスマートフォンを投じ、煎餅布団の上に座って、パソコンを開いた。


「お?サボりか?」


 パピーがにやつきながら声を掛ける。アンダーは鬱陶しそうに眉をひそめ、吐き捨てるように言い放った。


「法令のアーカイブがあるんだよ」

「ふーん」


 含み笑いを浮かべるパピーに、アンダーは手元のスナック菓子を放り投げる。すかさずキャッチしたパピーがそれを開くと、中には菓子の食べかすだけが袋の四隅に溜まっていた。

 勝ち誇った笑みを浮かべるアンダーに、恨めし気な視線が向けられる。彼は構わずに、法令のデータベースへとアクセスし、参考書と判例集を机の上に広げた。


 二人は、丸一日を外出することも無く、会話も少ないままで各々の時間を過ごした。


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