ep 23
王帝の咆哮、大地を割り、海を裂き、空を断つ!
ガンツ親方の最高傑作、「王帝」を手にした真守の興奮は、まだ収まっていなかった。あの海を割る一撃は、確かに彼の全身全霊を込めたものではあったが、どこか「王帝」自身が力を導いてくれたような、不思議な感覚があったのだ。
(この力……もっと知りたい。どこまでやれるのか……!)
「親方、フィリア、エルミナ、デュラス……ちょっと、もう少しだけ付き合ってくれ」
真守は、仲間たちと、そして誇らしげに腕を組むガンツ親方に向き直り、悪戯っぽく笑った。
彼はまず、断崖から少し離れた、人の寄り付かない岩場へと「王帝」を向けた。
「まずは……大地!」
先程よりもコンパクトな振り。しかし、「王帝」の先端が岩盤に触れたか触れないかの瞬間、ズズズズンッ!という地鳴りと共に、強固なはずの岩盤に深々と亀裂が走り、その一部は粉々に砕け散った!まるで熟練の石工が巨大なノミを振るったかのようだ。
「次は……もう一度、海だ!」
今度は、先程とは逆に、薙ぎ払うのではなく、突き出すような動作で「王帝」を海面へと突き出した。
ドゴォォォォン!!
海面が爆発したかのように巨大な水柱が天高く噴き上がり、その衝撃波で周囲の海水が渦を巻いて大きく揺れ動いた。まるで深海から巨大な海竜でも現れたかのような、圧巻の光景だった。
「そして……空だ!」
真守は天を仰ぎ、「王帝」を力強く振り上げる。目に見える目標はない。しかし、彼のイメージの中で、空に巣食うかもしれない「何か」を断ち切るように。
ビュオオオオオオッ!
「王帝」から放たれた無形の斬撃は、空気を切り裂き、遥か上空の雲を、まるで鋭利な刃物でバターを切るかのように、綺麗に二つに断ち割った。その軌跡には、一瞬だけ虹色の残光が揺らめいたように見えた。
「ハハッ……! ハハハハハッ! こりゃあ良い! 本当に、とんでもない代物だぜ、親方!」
大地を割り、海を裂き、空を断つ。その規格外の力に、真守は子供のように声を上げて笑った。元・中学教師の仮面はどこへやら、強大な力を手にした純粋な高揚感が、彼を包んでいた。
「必殺技でも考えるか? そうだな……『天地空鳴覇王撃』!なーんてな!ハハハ!」
中二病全開のネーミングセンスに、さすがの彼もすぐに「いや、今のナシで」と顔を赤らめたが、その表情はどこまでも楽しそうだ。
そんな真守の姿を見て、仲間たちもまた、心からの笑顔を浮かべていた。
「マモル、すごい!本当にすごいよ!まるで伝説の勇者様みたい!」
フィリアは両手を胸の前で握りしめ、目をキラキラと輝かせている。真守の強さが、彼女にとってどれほどの安心感と誇りになっているかが伝わってくる。
「マモル様のその力……そして王帝の輝き……あるいは本当に、このアルカシア大陸に巣食う邪悪を打ち破る、希望の光となるかもしれませんわ……!」
エルミナは、聖騎士としてその力に神聖な可能性を感じ取り、期待に満ちた優しい微笑みを浮かべた。彼女の背の翼が、喜びに応えるように微かに輝いている。
「ふん、確かに凄まじい破壊力だ。武器としては申し分ない。だが、力に溺れるなよ、マモル。その『必殺技(笑)』とやらが、ただの自己満足で終わらんことを、この私が厳しく監視してやろう」
デュラスは、いつものように皮肉っぽい口調で言いながらも、その口元には隠しきれない笑みが浮かんでいる。彼もまた、この規格外の力と、それを振るう真守という人間に、大きな期待を寄せ始めているのかもしれない。
「かーっかっかっ! どうだ、ワシの目に狂いはなかったじゃろうが! その調子でガンガン使い込んで、王帝を真の伝説へと育て上げるんじゃぞ、マモル! そうすりゃ、このガンツ・アイアンハンマーの名も、末代まで語り継がれるわい!」
ガンツ親方は、自分の作品が期待以上の性能を発揮し、使い手もまたそれに相応しい器であることに、心の底から満足し、高らかに笑い声を上げた。
アルカシア大陸の空の下、一人の元・一般ピーポーと、彼を支える仲間たち。
手にした強大な力は、彼らに何をもたらすのか。
しかし、今はただ、この瞬間の喜びと、共に未来を切り開いていく仲間がいるという確かな絆を、彼らは分かち合っていた。
「王帝」の虹色の輝きが、彼らの笑顔を明るく照らし出していた。