チュートリアル
私がもう一度目を覚ました時、まだ私はその部屋にいた。隣からさっきの男性の声が聞こえてくる。
???「いきなり気絶……作られる過程で何かしらのトラブルでもあったか?ん?」
そしてその男性は私が目を覚ましたことに気づきこちらを見てくる。
???「目が覚めたか。俺は柳雪。まず、なぜ気絶したか聞いていいか?」
予想した通りの名前が返ってくる。そう、目の前にいる男性は私の推し、柳雪様なのである。そしてこの場所はテレンディアの最初に目覚める場所だ。
雪「?どうした?答えられないのか?まだ不調が残っているのか?」
いきなり顔を近づけられ頭が沸騰する。だがここで倒れてしまってはさっきと同じことが起きる。私は何とか意識を保ちながら口を開く。
楓「えーと……もう大丈夫です!」
雪「それならいいが……まずはお前に…………」
そこからテレンディアのチュートリアルが始まる。雪様が好きなため毎回飛ばさずに聞いてきたチュートリアル、既に情報は全て知っているのだがリアルで出会った雪様直々に教えていただくことなどもう一生ないだろう。そして気がつけばもう終盤だった。
雪「質問はあるか?」
楓「ないです!」
雪「そ、そうか……お前は作られたばかりなのに元気だな……で、名前は決まったか?」
普通のゲームの世界でなら本名を名乗っているだろう。ただこのゲームだけは違う。推しと同じ苗字を名乗れる!
楓「あの……雪さー……んの苗字をお借りしても良いでしょうか?」
雪「??まあ、いいが……」
楓「では、柳楓と名乗らせてもらいます。」
雪「楓……楓か、いい名前だ。」
雪様の固定文、重要なのはこの後だ。このゲームには役職というものがある。研究チーム、実務チーム、管理チームの3つだ。本当は4つあるのだが最初はこの3つのうちのどれかに入れられる。そして、実務チームになると、雪様と一緒に作業を行うことが出来るのだ!その代わり危険なエンティティとの対面も多くなる。主な作業内容を言うと、研究チームはエンティティの能力の研究、どう言った条件下で能力が発動しているのかを調べるチームだ。実務チームはエンティティの情報を収集、研究チームとは違って真正面からエンティティと出会うため精神汚染のエンティティに出会うと一発K.O.も有り得る。管理チームはエンティティの情報全ての管理、文書だけでもアウトなエンティティも存在するため絶対安全という訳でもない。最後に初期では選べない生成チーム、これはプレイヤーがエンティティの情報を大量に集めた時に作られるチームで、エンティティの力を自分たちの力として使うために能力を物質化させるチームのことだ。かなり難しく上級プレイヤーでもほとんどそのチームには行かない。その代わり生成された物質は超強く、エンティティとの接敵が簡単になったりする。
※この物質を装備しても雪様には勝てません。
この4つのチームはそれぞれバディが存在する。そして雪様がバディとなるのは実務チームのみ、最初に実務チームに選ばれなくてもある程度そのチームで結果を残せば実務チームに行くことは可能だ。でも……でも!目の前に雪様という最推しがいるのに、数日以上会えないなんて!私には耐えられない!
楓『お願いします……お願いします……実務チーム、実務チーム……』
雪「そして、お前が配属されるチームは……」
雪「実務チームだ。」
楓「よっしゃああああああ」
ついつい声が出てしまった。本当に選ばれるとは思っていなかったのだ。
雪「実務チームに選ばれてそんなに喜ぶヤツは初めてだ……えー、実務チームになるにあたってバディを組むことになる。お前のバディは俺だ。バディのミスは自分のミス、自分のミスはバディのミス、一心同体、運命共同体と言ってもいい。てことで今後ともよろしくな」
楓「よ、よろしくお願いしましゅ!」
次の日…早朝に起こされ初作業に赴くこととなった。
雪「今回のエンティティの番号はN-01だ」
この番号はエンティティの危険度などを表している。最初の英語は危険度、最後の二桁の数字は発見された順番となっている。N、M、C1、C2と分けられている。単語はネグリジブル、マージナル、クリテカル、キャタストロフィクである。今回のN-01は危険度ネグリジブルの最初に発見されたエンティティとなる。そしてこのエンティティはテレンディアのゲーム内でも最初に請け負うエンティティである。
雪「ここがN-01の収容部屋だ。今回の奴は危険ではないから部屋に入ってもいいが、モノによっては出会った瞬間死ぬということもあるからな。」
楓「は、はい!」
私は恐る恐る部屋に入る。そこには一冊の本があった。これがN-01である。能力は以下の通りである。
N-01:終焉の本:ネグリジブル
分厚くも重くもない平凡な本。その本には数々の世界の終焉が描かれている。その本には今も尚新しい終焉が描かれ続けている。
能力は平凡だが、終焉の本はこのテレンディアでは最もストーリーに関係しているエンティティと言ってもいい。ここに書かれている終焉は別世界線の終焉なのである。中にはエンティティにより終焉を迎えた世界線も存在するのだ。本来なら雪様がいるのでエンティティによる終焉など起こるはずがないのだ。だがこの終焉の本だけは雪様でも抗えない。少し前に出てきた雪様でも対抗できないエンティティの一体なのである。ただ一つ終焉の本に抗える人物がいる。それはプレイヤーである。プレイヤーは全ての世界線の中でたった一人しか存在しないとされている。そのため終焉の本の能力にかからない。そのためプレイヤーの行動1つで終焉の本に対抗できる。逆に一歩ミスると終焉が訪れる。テレンディアが鬼畜ゲーと言われる所以はその設定…終焉の本によるものである。
楓「中身を呼んでもいいですか?」
雪「ダメだ。お前は新人だ。見ることはまだ許可出来ない。」
楓『くうううぅぅ!これが言われたかった!』
雪様推しなら誰しもが通る道である。雪様はそうそうプレイヤーの行動をとがめない。ただここだけはかなり厳重に守っている。それはなぜか。テレンディアの裏設定本では雪様は終焉の本とプレイヤーについて若干の知識があると言われているからだ。テレンディアには終焉の本について知っているものはそう多くはないが存在はしている。何ならそのキャラたちから情報を出してもらわない限り終焉の本の本当の意味を知ることはない。知らなくてもクリアは出来るがハッピーエンドにはならないのだ。
そして一時間程度観察、異変が起きなかったことを調査資料に書き、それを管理室に持っていき、その日の仕事は終わった。だが、この時の私は知らなかった。エンティティの本当の恐怖を・・・