振動
1週間後、私とスピカは、お父さんとアルゴに魔法について訓練を受けていた。
その頃、魔法大学校寮にいる班から連絡が来た。
「図書館に来て欲しいって…」
「行ってこいよ。母さんには俺から伝えておくよ。何かあったら連絡をくれ」
お父さんたちは私たちを笑顔で見送った。
図書館は、大学校寮の脇にある巨大なレンガ造りの建物で、地上6階地下2階で総蔵書数200万冊を誇る、国内最大の図書館だった。
一般にも開放されている部分もあり、魔法大学校関係者以外も利用できる世界でも数少ない図書館だった。
「こっちだよ」
2階の窓辺にある7人掛けの机の一つを使って、私の班が集まっていた。
「どうしたの」
「不思議なものを見つけたんだ」
キャットが私が座るとすぐに話し始める。
「この学校がどうして建てられたかは知ってるよね」
「うん、魔法条約で建てることが義務化されたからでしょ」
そのあたりは、歴史の授業で習った。
「問題は、なぜ、ここに建てられたかなんだ。大学校が建てられる前の歴史書を読んでいたら、不思議なことに、このあたりは何もなかったとされている。文字通りにね」
「空間が消えていたかのように、何も載っていないんだ」
キャットの最後の言葉にかぶるように、グードが話す。
「どういうこと」
私は二人の説明がよく分からなかった。
「この魔法大学校には謎がある。そういうことだよ。それも空間をここに生み出さなければならなかったような大きな謎がね」
ポルが話し続ける。
「それを調べてみないって言う話だったんだけど…実は、前にそれを調べていた人がいたことが分かったんだ」
「誰?」
「アースのお父さん達らしいよ。それがね」
お父さんが魔法大学校にいたという話は知っていたが、何をしていたかは知らなかった。
「それで、結論は?」
「発見した日記帳には、結論部分が破り捨てられていたんだ。それまでのことを考えると、どうしても納得が出来ない。あまりにもみっちりと書かれているから、こちらも同じ結論に達することが出来ると思って、推定の結論だけは出したんだ」
私はうなづきながら、キャットの話を聞いている。
「結論だけを言えば、この学校には、呪術的な陣が貼られているらしい。それもかなり強力なものらしく、今では禁術といわれるタイプのものに相当するらしい」
「なんでそんなものを……」
「古来の伝説を調べているうちに、この地域に古くから伝わっている伝承にたどり着いたんだ。そのうちの一つに、かなり近いものがある」
「どんなの?」
キャットは机の上においてあった本のうち一番上を取り、真ん中あたりのページを私に見せた。
「5族の争いがあって、その合戦場がここ。数千年前からあったとされている石碑が無造作に放置されていたんだけど、国はそれを撤去したうえで、ここに魔法大学校を作った。それが学史なんだ。でも、この伝承では、その合戦場はこの空間ではなく、5族というのも、1族を除いて、この空間の住民ではなかったとされている。ここは、エネルギーの泉のようなものが湧きだしているところで、その領有権を争ったとされている。だが、最終的に勝ったのはこの空間の一族で、見た目は突然空間が増えたように見えたっていうことらしい」
「…でも、詳しくは分からないね」
私が聞いたら、誰かが言った。
「この大学校の礎石に、その時の石碑の土台を流用してるって聞いたよ。問題は、その礎石がどこの建物なのかっていうのがわからないっていうこと」
「それよりも、いいやり方があるわよ」
私が思いついた事を話してみる。
「お父さんを呼んだらいいと思うの。ついでにお父さんの班員も」
「でも、うまくいくかな」
「電話掛けるわね」
まだ、遠隔通信の魔法は習っていないため、公衆電話からお父さんへ連絡を取る。
数秒で話しは終わり、すぐにお父さんだけが来てくれることになった。
「やってきたぞ」
さすがに魔法博士だけあって、瞬間移動は簡単にして見せた。
「それで、その謎を追っているんだな。いずぞやの俺のように」
「そうよ、別にかまわないでしょう」
私はお父さんを班員が待っている机まで案内した。
「紹介するね、私の班員」
「よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
お父さんと班員が互いにお辞儀を交わす。
「それで、電話だったらよくわからなかったんだが、俺らがした研究を知りたいと?」
「そうです。この日記帳を見つけてしまい、それ以来、そのことを考えるようになってしまいました。教えてもらえませんか?」
グードがお父さんに聞いた。
「俺ひとりじゃ決められないな…班員全員に聞いてみないと」
そう言って、一瞬だけ黙った。
そして、5秒後までに次々と姿が現れた。
「どうしたスット。お前から連絡をくれるなんて久しくなかったことじゃないか」
「日記帳が見つけられた。そのことについてだ」
すぐに理由を察し、彼らは別のところへ移って小声で話した。
私たちには聞こえないように、魔法でシールドを張っていた。
「どういうこと?」
私は班員に聞いたが、誰一人としてわからなかった。
シールドが外されたのは、まるまる5分はたった後だった。
「結論を先に言おう。この大学校にはある種の結界が張られている。だが、空間自体は非常に不安定なもので、一瞬でも気を抜いていたら、元の場所へ収まってしまう」
お父さんが、私たちに説明をする。
「収まるって、どういうことですか」
「この日記を読んで、分かっているとは思うが、この大学校は元々、この空間のものではなかった。そして、各空間の部族同士の抗争によって、この空間に留め置かれることになった。だが、他の空間の部族がこの地をあきらめているということは、決してありえない。なぜならば、この場所こそが、全ての空間の魔力の源泉たる場所だからだ」
そういうと、地面の下から妙な空気を感じた。
「来るぞ、レオは連れてきたか?」
「いいえ、なぜ?」
お父さんはお母さんに聞いている。
図書館の中は、ゆるい揺れにゆすられていたが、本が落ちるような強い揺れは来なかった。
「レオの力が必要になる、いや、レオだけじゃないな」
お父さんは、私をじっと見た。
「家族の力が必要だろうな。賢者、双子も」
「つまり、連合チームを作ろうっていうことですか」
お母さんが姿を消すと同時に、スピーがお父さんに聞いた。
「ああ、そういうことだ。アルゴ、デネボラと組んでくれ。前に書いたものが実現しそうだ」
「分かった」
「仕方がないだろう」
二人とも、互いに終始目を合わせようとしなかった。
「俺とキャットは、その補助と各自への情報伝達だ」
「分かりました」
大人しく、お父さんの言うことを聴いていた。
「他の者たちは、各々自由に行動してくれ。ただ、アースはフラとレオと一緒にいてくれ」
「分かったわ」
私が言うと、お母さんがレオを連れてくるのと、空間がゆがみだしたのが同時に来た。