家族
7月に入ると、私たちは期末テストを受けた。
それが終わると、8月の最終週まではずっと夏休みが続く。
その間は寮にいてもいいし、家に帰ってもかまわないことになっているため、私は実家に帰ることにした。
住所を班みんなに教えて、私とスピカは家に帰った。
来るときは車で送ってもらったが、帰るときは魔法を使い、すぐに家についた。
「ただいまー」
私は家にいるはずの両親に言った。
「はい、ああ姉ちゃん」
弟が出迎えた。
「ただいま、大きくなった?」
「そりゃ、1年間も帰ってこなかったら大きくもなるって。成長期だし」
前は私と30cmぐらい離れていたのに、今じゃ10cmに近づいている。
私よりも成長スピードが早いようだ。
「すごいねー、こんなに背が伸びるなんて」
「いいけどさ、そっちの妖精は誰?」
「ああ、私の使い魔のスピカ」
私の周りを軽々と飛んでいるスピカは、弟の頭の上に止まろうとした。
「初めまして、スピカよ」
「魔法大学校に行って、いろいろ変わったんだね」
「ん?」
スピカを頭に載せながら、弟はそう言ったが、何のことかわからなかった。
とりあえず、玄関にいるのも疲れるから、自室へ向かうことにした。
「もとのまま、何も触ってないよ」
「ありがと」
ノブを回し、部屋の扉を開ける。
ホコリがつもっているのは仕方ないとして、それ以外はほとんど変わっていなかった。
「掃除がいるわね」
「窓開けようか」
スピカが頑張って窓を開けてくれている間に、家に一台しかない掃除機を引っ張り出してくる。
「そういや、母さんとお父さんは」
「二人とも買い物。今日は鍋だって、久々に姉ちゃんが帰って来たんだから、パーティーを開かないとって、張り切ってたよ」
掃除機を引っ張り出すのを手伝ってくれた弟に聞くと、水炊きの予定だと言っていたらしい。
「楽しみだなー」
「でも、二人ともスピカのことは知らないよ。どうやって説明するの」
「大丈夫、ちゃんと説明できるよ」
私は部屋へ戻りながら弟へ言った。
「えっと…」
窓を開け、机の上にあった物の隙間を掃除しているスピカに、私は言った。
「掃除機で全部吸い込もうと思うから、ちょっとだけ飛んでもらえる?」
スピカは黙ってふわふわ浮き始め、私の肩に乗っかった。
「まあいいか」
私は掃除機のコンセントを挿し、部屋の全体につもっているほこりを吸い取り始めた。
30分かけて、部屋全体をきれいにするとちょうど両親が帰ってきた。
「おかえりなさい」
私が玄関へ行くと、大きな袋を抱えさせられたお父さんと、小さな袋をブドウの房のように持っている母さんがいた。
「もう帰ってたのか」
お父さんが、私を見つけて話しかけてくる。
「うん、さっきまで部屋の掃除をしてたけど」
「それで、使い魔はもう創り出したのか」
「そうよ」
私はスピカを呼んだ。
「使い魔のスピカよ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
母さんは、靴を脱いでからスピカを見つけた。
「妖精……?」
「そうよ」
「それで、他の班員はどんな使い魔を創ったんだ」
お父さんが袋を弟に持たせて、靴を脱ぎながら私に話しかける。
「ライオンにおっさんに双子に…って、なんでお父さんがそんなこと聞いてくるの」
「ああ、言ってなかったか」
母さんと弟が全部の袋をもっていった後、私とお父さんは彼の部屋で彼の秘密を聞いた。
「俺の使い魔を紹介しよう」
お父さんの背中から出てきたのは、私の肩ぐらいまで背高がある大きなオオカミだった。
「アルゴだ」
灰色のオオカミは、金色の瞳を私に向けて、ゆっくりと言った。
「初めまして、お嬢さん」
確かに、私はオオカミが笑ったのを見た。
アルゴと私はそのまま話しをしていたが、ふとお父さんに聞きたいことが湧いてきた。
「もしかして、お父さんも…」
「ああ、魔法大学校卒業だ。魔法博士の称号をもっている。もっとも、いまとなってはほとんど意味がないがね」
お父さんの仕事は、電気技師のため、魔法の使う機会がほとんどなかった。
「ただ、アルゴは便利だ。いろいろ手伝ってくれるからな。簡単なものだったら彼自身で勝手に終わらせてくれるしね」
「スカットが言っているとおりではある。だが、私をひたすらこき使うと、怒りたくなる時もある」
「ははっ、そうだったね。学生時代、いろいろ怒らせてしまって、教師に怒られたことがあったな」
「そうなの」
いつも見たことがないお父さんの、珍しい一面を見た気がした。
「そうそう、母さんと知り合ったのは、魔法大学校だったんだぞ。あの時は良かったな~」
急に思い出を語られ始め、感慨にふけっているお父さんを放置して、アルゴに話しかけた。
「時にはいろいろと教えてもらってもいいかな」
「ああ、私としては、使い魔共々しごいてやる。覚悟しとけよ」
アルゴはにやりと笑い、私とスピカは深々とお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
お父さんは、そのまま無視をし続けられた。